【宣伝文】『ダイナソー・ブルース』
九州大学の尾上哲治教授が執筆した、『ダイナソー・ブルース』という本を読んだ。折角なので、宣伝を兼ねた感想のようなものを書き記しておこうと思う。もちろん、宣伝が第一目的なのでなるべくネタバレはしないように書くつもりである。
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ブルーバックスの書籍より二回りほど大きい２９０ページは想像よりもずっしりとしていた。栞はついていないが、数十ページごとに章分けされているので快適に読む分に問題はない。著者の尾上氏曰く、表紙には普通の書籍より高価な紙質を採用したようで、テラテラとした滑らかな手触りと特有の紙の香りがこの本が新品であることを物語っていた。また、本によく見られる帯も読みづらいという理由で付けておらず、読み手への配慮が見て取れる。
さて、この本は所謂伝記のような、誰か1人の半生や対になる2人の関係性などを主軸に語られているわけではなく、あくまで恐竜絶滅に関するとある説を幹として、その周囲で巻き起こる科学者達の悲喜劇を書いている。恐竜絶滅に生涯を捧げる科学者たちが織り成す物語は、誰か1人の視点で届けることができないほど、複雑で繊細だ。作中では多種多様な科学者が登場しており、目次の前にはさながらサスペンス小説の如く登場人物説明が付け加えられている。事実、作中の文や小見出し、登場人物紹介などはミステリー小説の類を参考にした、と作者も語っており、そこがこの本をただの学術書以上の存在たらしめている所以だ。
読み始めるとすぐに、読者は恐竜絶滅の謎を巡る科学者たちの悲喜劇に身を投じることとなる。数々の学会を揺るがす発見、新説。それらの栄枯盛衰。研究者同士の衝突、こじつけ、偶然。わずか数メートルの地層に隠された大いなる謎とそれをめぐる科学者による奔流に突き動かされて、ページをめくっていく。心地よい興奮と高揚感は私の目を止めるどころか、時計すら見せはしない。気づけば、私はあとがきのページを手に、4時を回ろうとしている時計をぼんやりと見つめていた。読み終わった先には心の底に残った高揚感と雄大な地層に想いを馳せる自分の姿があることだろう。
当然、この本は学術書としての側面も併せ持っているため、文中にはハイエタスやK/Pg境界などの、地学を履修していないと理解しにくい単語があるのも事実だ。しかし、読者が少し困惑しそうな難解な部分には丁寧な説明や適切に図や写真が挿入されており、どれも痒い所に手が届くような、我々の理解を助けてくれるものばかりである。正直、これらの図や写真がなかったら私はこの本を地学徒以外には薦めていないだろう。地学にあまり詳しくない人からバチバチの地学徒まで、遍く人々に薦めたくなるような書籍であるから、私はこの宣伝文を書いているのだ。尾上氏の非常にわかりやすい講義を受けたことがある方は、この本がどのくらい懇切丁寧な説明の下に成り立っているかが予想できるだろう。
恐竜絶滅という大きな課題はは著書の尾上氏が専門としている層序学や古生物学だけで説明できるわけではない。地球化学、物理学、隕石科学などさまざまな学問が複雑に絡み合っている（少々俗な言い方をすると、「下」の地学だけでは解明できない）。各研究者の発見から論文発表までの思考のプロセスを書き綴っている本書は、層序学や古生物学以外を専攻としている方であっても、間違いなく物足りないとは感じないと思う。また、尾上氏は科学者の”リアル”な姿を描き出すことも執筆の目的としており、作中では科学者たちの良い部分だけではなく、彼らの欠点や人間的な部分まで余すところなく記している。これから研究の世界に身を投じる方、既に研究という深大な世界に足を踏み入れている方、心が躍るようなノンフィクション・サスペンスが読みたい方、誰が読んでも損はしない一冊であると自信をもって言える。最後にこの本の裏表紙に書いてあるキャッチコピーを記して、私の感想文を締めようと思う。
すべての、学問に向き合う方々がこの本と出会えることを祈って。
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なぜ、恐竜は消えたのか。6600万年前の地球に何が起こったのか。きっかけは、ある老天才科学者の”異端の仮説”だった。巨大な天体衝突クレーターに向かって、世界各地の地層が見えない糸でつながれていく。しかし、本当にそれだけだったのだろうか──？壮大な発見物語と科学者たちの悲喜劇を鮮やかに描く、極上の知的エンターテインメント。
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