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ジェームズ

ジェームズとは留学した大学の横にあるスターバックスで出会った。彼は2m近く身長のあるバリスタで、全身タトゥーだらけ。一見、近づくのに躊躇しそうなタイプだけど、長く付き合っている日本人の彼女がいるらしく自然と仲良くなった。

ジェームズはしばらくしたら彼女のために日本に引っ越すと言う。国境を超える愛ってすごいと思いつつ、日本語はほとんど話せないし、生まれ育ったアメリカの田舎とは比べものにならないくらいストレスフルな日本で、けっこう苦労しそうだな、と余計なお世話も思ったりした。

ジェームズはDJもやっていて、テクノ系のメロディにならない音を組み合わせて作曲する。音楽に詳しくないから良し悪しは分からないけど、日本に来てからは、都内の有名なクラブでも回していて、それなりに楽しそうに過ごしていた。

ただ出会った当時は学生だったジェームズの彼女も、社会人になり日本で働き出すと、それまでジェームズの良さだと思っていた自由に好きなことをする生き方と、彼女の価値観が合わなくなってきたみたいで、しょっちゅう喧嘩をしていた。

その様子を周りの友達は「またか」って半ば諦め気味で眺めていた。けれど、本当に結婚を望んで来日した彼にとってはかなりのダメージがあったみたいで、みるみるうちに痩せていった。基本的にアルコールとレッドブルしか口にしている印象がないから、そもそも今までどうやって生きてたのか謎だけど。

そんなジェームズにさらに追い討ちをかけたのは、ザ アメリカン ママのサミーが彼に渡していたチェイス銀行のファミリーカードを停止したこと。理由は忘れたけれど、よくある使いすぎのような事だったと思う。彼女に振られボロボロのところに、やけ酒をするにも大好きなストロング酎ハイすら買うことができない。これには友達らも同情し、事あるごとに飲み会に誘っては奢った。

そもそも30代で親のカードを使って生活してるなんて典型的にダメな奴だけど、困ってる時に必ず助けてくれる人がいるのは誰にでもできる事じゃない。日々ダメなところも含めて裏表なく人と接するジェームズは、会う人みんなから愛されていた。何より彼自身も人が困っているとほっとけないタイプで、誰に対しても公平で嘘もつかず、とことんいい奴だった。本当にめちゃくちゃルーズな奴だったけど。

その後も骨折して医療費を払えなかったり、職をクビになったり、側から見れば踏んだり蹴ったりだった。それでもなぜかジェームズはいつもリラックスしていて、焦るわけでもなく暮らしていた。

何年かして、日本でドン底を味わった彼にも次の恋人が出来、その人の国に旅立っていった。今度はちゃんと結婚もして、家も買って、誰もが思い描く素敵な生活をしているようだった。

しばらく経って、用事で奥さんと日本に来るという。久々に会ったジェームズは顔色も良く健康的に太っていて、とても人間らしい生活をしているようだった。奥さんも素敵な人で、ジェームズのダメなところもよく分かっていて、それも含め愛してるのが伝わってきた。

大変なことがあっても、正直に生きているとちゃんと幸せになれるんだねって思える素敵な夜だった。

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