建設機械の出力表記について

長老の資料に太古の講義をまとめたレポートがあったので抜粋して紹介します。(約50年前に聴講した講義録とのこと)

○馬力の表示

 馬力表示の仕方にはいくとおりかあり、よく混同して使われている事実を知る必要があります。正味馬力とか図示馬力とかあるいは連続定格出力とか作業時最大出力というようにいろいろな表現が使われています。
 いずれも正しく根拠のある数値ですが、要はメーカが自社のエンジンにいかなる馬力表示方式を採用するかによって仕様上使われる馬力数値が決まりす。しかし馬力数値はそれぞれ異なった意味をもっています。

○馬力とは

 馬力とは単位時間内に行なう仕事量を表わす単位で75kgの
物体を1秒間に1m動かす仕事
をなす量を1馬力(PS)といっています。
 各メーカが馬力評価を行なう場合に用いる条件にはいろいろあり、次の理由からかならずしも各社一様ではありません。 

a.各メ-カとも自社製品に有利な仕様数値をカタログに載せたがる。
b.馬力の表示方法について特にメーカ間の取決めはない

 したがって表示馬力の内容をよく確かめないで、単にカタログ上の数値だけを比較するだけでは正しい選択ができません。

○エンジンの馬力の表示

 エンジンの馬力を表示する方法には、2種類あります。どちらも実際的なエンジン性能評価の方法ですが、まったく異った条件におけるエンジン出力を示しています。

 1つは機械に搭載されたエンジンが実際の作業で出しうる馬力。機械の作業性能に関係があり、  性能馬力(Performance HP)と呼ばれます。一般にフライホイール出力という言葉で表わされてい ます。

 もう1つの馬力は理論的なものです。すなわち実際の作業ではあり得ないテスト条件にもとづいてテストされ、計算された馬力であり、容量馬力(Capacity HP)と呼ばれます。実際に使用しうる馬力というより、そのエンジンとして出しうる馬力です。

 性能馬力を用いるか、容量馬力を用いるかはメーカ自身が決めることであって、エンジンの馬力表示の仕方が変ってきます。

○馬力決定の基礎要因

 エンジンの性能試験における馬力決定の基礎要因としいて次の4つがあげられます。

1.空気濃度
2.エンジン回転速度
3.付属装置負荷 
4.負荷持統時間

1.空気濃度
 空気濃度はエンジンのエネルギー源となる混合気をつくるもとになるものでエンジンの性能に直接影響を及ぼします。 無過給エンジンの出力は周囲をとりまく酸素の量によってって変化します。海抜0mよりだんだん高い所にいくにしたがって空気は希薄になり、当然出力も低下します。 エンジンの馬力測定を行なう場所の空気濃度(気温、気圧)は各メーカの所在地によって異なるはずです。それぞれの測 定馬力を標準状態すなわち、大気圧760mmHG、気温20度に修正することによってはじめて比較の基礎が得られます。しかし修正馬力は実際の使用状態において発揮される馬力ではありません

2.エンジン回転速度
 容量馬力測定法で用いられる馬力です。
 エンジンの回転数は馬力に直接関係があります。まず馬力表示の回転数(RPM)を知ることが重要です。
 実車回転数(または車載回転数)はエンジンが機械に搭載されて実際に使用される時の回転数であり、その機械の潜在作業能力を知る目安となるものです。
 最高回転数はベンチテストにおいて、エンジンフライホイールが車載回転数より早く回っていることを意味します。この回転域における表示馬力は当然実車より大きくでます。

3.付属装置負荷
 付属装置負荷(補機駆動馬力)はエンジン馬力を食います。
 そこで馬力測定を行なうときにエンジンにどのような付属装置がついていたかが馬力表示をする上に問題になります。冷却ファン、ゼネレータ、ウォータポンプ、オイルポンプ、コンプレッサ等
 これらの付属装置の一部あるいは全部をとり除いて試験すれば表示馬力は大きくなります。
 しかし機械に搭載されたエンジンは付属装置なしでは使用できません。車載状態で必要とされる付属装置すべてをつけて試験した結果得られる馬力が実際使用可能な馬力であるといえます。

4.負荷持統時間
 エンジンの性能試験を行なう場合、所要出力を求めるためにエンジンにどれだけの負荷(動力計荷重)をどのくらいの時間かけるかを規定しています。最大出力は1回ごとにエンジンに5分間以内で連続負荷荷重をかけて計測します。
 スペックシートにフライホイール出力が記載してあるエンジンはエンジンの寿命をそこなうことなく正真正銘その馬力で連続作業が可能であることを意味しています。

○馬力の評価方法(米国式)

 各メーカがエンジンの性能試験を行なうに当って、次の試試条件のうちどれをどの程度適用するかによって馬力の評価方法が異なってきます

空気濃度
エンジン回転数
付属装置負荷(補機類駆動馬力)
負荷の持続時間

 米国の建設機械業界においては前述の各要因の組合せにもとづいて6つの馬力評価方法(試験条件)が用いられます。

 性能馬力評価でファン無しを除き、すべての実車回転数(エンジンを特定の機械に搭載して使用される場合のrpm)と付属装置付きで試験しています。
 これらの方法によればエンジンの実用性能を示す作業馬力(所要出力)にもっとも近い馬力を表わすことができます。 
 容量馬力評価によれば裸エンジンの状態で試験されるので実際の作業馬力とは程遠い馬力が示されます。

○機種毎に異る条件

 同じメーカであっても機種毎に異った条件を使用しています。理由は4つあります。

1.各製品系列の歴史
2.他社製エンジンの搭載
3.特定の市場で用いられている基準が別に存在
4.2つ以上の馬力数値の記載

1.各製品系列の歴史
 製品開発の先駆者である誰かが最初に馬力評価基準をつくりあげたという事実です。

2.他社製エンジンの搭載
 他社製エンジンを自社製品に搭載するという業界の実状が各メーカこぞって、好みの馬力表示を行なうという慣例をつくっています。 

3.特定の市場で用いられている基準が別に存在
 たとえば、モータグレーダの官庁関係入札スペックには伝統的に裸エンジンの容量馬力が使われています。しかし、モータグレーダのスペック数値にははっきりしたとりきめがないのでほとんどの顧客はその事実を知りま
せん。
 エンジンのデータを詳しく調べてみて、はじめてどのような評価基準にもとづく馬力表示なのかを知ることができます。

4.2つ以上の馬力数値の記載
 数値のうちいちばん小さい数値が一応比較の対象と考えられます。
  もちろん基本的に同一容量のエンジンであっても、搭載される機種がちがえば異なった作業性能を要求されます。したがって出力評価目的は同じであっても機械の使用目的、あるいは適用条件によっていろいろ異った馬力が設定されるわけです。

○国産機種の出力表示

 国産機種の仕様書には2種類の出力(連続定格出力、作業時最大出力)が記載されています。
 建設機械に関連したディーゼルエンジンの出力表示の方法としてJIS D 1005(現:JIS D 0006-2 : 2000)「建設機械用ディーゼル機関性能試験方法」に次の3種類が規定されています。

1.1時間定格出力
2.連続定格出力
3.作業時最大出力

1.1時間定格出力
 1時間定格負荷試験によって得られる出力で、これはメーカがきめた定格回転速度で、エンジンに特別の異状を生ずることなく1時間連続運転可能な出力容量です。試験時にはガバナーを作用させず、定格回転数を基準として負荷の変動が3%以内におさまるように動力計荷重や燃料噴射ポンプ の最大噴射量をいろいろ調整して行ないます。しかし車載時にはガバナの作用のため実際の出力は出ません。

2.連続定格出力
 定格回転速度において1時間定格負荷の85%で、10時間の連続運転が保証された出力で、日本における建設機械用ディーゼルエンジンの基準出力となっております。

3.作業時最大出力
 国産機種の仕様書には連続定格出力と並んで作業時最大出力が表示されています。ガバナーを作用させた時、連続定格出力を通る作業時負荷曲線上で得られる最大出力(車載時の最大出力)であり、作業は常にの近辺で行なうことが望ましいが、実際には負荷の変動により連続して使用できる出力ではありません。

以上

長老が丁稚の頃に必死で勉強した内容を今に伝える貴重な資料でした。

ご不明な点、疑問点があればコメントください。また、建設機械の資料がございましたら、ご一報ください。