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映画『紙の月』

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『紙の月』



監督 : 吉田大八
出演 : 宮沢りえ、池松壮亮、大島優子、小林聡美
原作 : 角田光代

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『桐島、部活やめるってよ』、『騙し絵の牙』の吉田大八監督作品を鑑賞しました。

真面目で平凡な銀行員の主婦”梅澤梨花”が
巨額の横領に手を染め堕ちていく姿が
描かれています。

内在する欲の萌芽から、
歯止めが効かなくなるヒリヒリとした破滅までが
スリリングに描写されており、
「“梅澤梨花”の感情」に認めたくなくても
共感しながら鑑賞しました。

自身の価値観に凝り固まり、
他者から羨まれるような己の幸せには目を瞑り、
劣等感と孤独、不幸に苛まれる。

自分の物差しで測った自分から抜け出せずに、
自分を特別に感じたり、おもしろいと
思ってくれる人を無視して、
抱えていた幸せをすべて手放してしまう。

世間との関わりを、人との繋がりを求めながらも
どこまでも自己中心的な袋小路に堕ちていく。

社会的には堕ちていきながらも、
冒頭と最後で彼女の苦しみに差は
無かったとも思いながら、
彼女にとって必要な選択は別にあった筈なのに…
と恐怖を覚えました。

心に嘘をつくと、その嘘が物理的に問題なくとも
決定的に後戻りできないという描写も、
印象的であると感じました。
“少しだけ”も、”大丈夫”も
少しも大丈夫ではないですね。

加えて、誰の言葉がきっかけでも
選んだ行動は自身の物だなとも思いました。

そして、”これ”をしたら、
もう戻れないと言った時に向き合わなかった
結果も因果応報で。

『闇金ウシジマくん』を観た時と似た感覚を
覚えましたが、”梨花”は堕ちて当然の最低な人格者ではなく、ある程度の秩序を持った平凡な人間だった筈で、足を踏み外すような選択の連続の重大さを改めて感じました。

これだけ感想を述べた今でも、
この作品は悲劇だと思えません。

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