見出し画像

ありがとう、スリーエフのチーズハンバーグ弁当

 スリーエフのチーズハンバーグ弁当が美味かったという思い出。近年はコンビニ弁当をまったくと言っていいほど食べなくなったが、それでも今まで数々の商品を食べてきた。セブンイレブンの回鍋肉丼が暫定トップなのは譲れないが、次点は間違いなく今はなきスリーエフのチーズハンバーグ弁当。現在ではローソン・スリーエフの"5種のチーズインハンバーグ弁当"というのがあるらしいが、それじゃないんだよ。4種のチーズだったと思うし。

あれは商社の営業マンを辞めた頃。辞めた理由は色々あったが、ぶっちゃけ精神的に参ってしまったからだった。ある日会社に行こうと玄関で靴を履いて、さあ立ち上がろうとしたら無理だった。体が重くなぜか立ち上がれなくて、電車に乗るのが急に嫌になって冷や汗がダラダラ流れ出した。スーツの上着に汗染みが出来るほどびっしょり汗をかき、こりゃもう限界だと感じた。近所にある馴染みの病院に行くとすぐさま心療内科に行け!と言われ、そのまま流れに身を任せていたらあれよあれよという間に仕事を辞めた。

大量に処方された慣れない向精神薬と睡眠薬のせいで心身共にボロボロになってしまった。薬が合わないんじゃないかと医師に言うと、違う種類の薬をどっさり処方された。いやーそういうんじゃないんだけど、なんて思いながら飲んでみても体が拒絶してる感がすごい。しかし、すでにどうしていいか考える余裕も体力もないグニャグニャ人間になってしまっていたので対処することもなかった。ある日、薬の副作用でフラフラになってぶっ倒れ、机に突っ込みそのまま気絶。気が付いた時には幸い体に怪我はなかったものの、このまま薬を飲み続けていたらダメだと心底思った。
(飲む飲まないはすべて自己責任です)

まともに眠れず心身ともにフラッフラでグニャグニャの状態が続いたため、危ないんで気晴らしの散歩もやめていた。食欲も湧かなかったんでコンビニすら行かなくなってしまって、買い溜めしていたタバコとアイスとポカリとガムで数週間を生きていた。

 そんな生活を送っていたある日の夕方。急にチャリに乗りたくなった。感情の起伏がほとんどなかった頃だったので、なぜそう思ったのかはわからなかった。謎の行動力が湧いてきて、まあ脳のどっかしらが誤作動を起こしたんだろうけども、とにかくチャリで夜の街を爆走したかった。今考えると非常に怖いですね。

タイヤに空気を入れるだけでも息が上がり、汗が滲んだ。やっとの思いでチャリに跨り、あてもなく走った。近所をぐるぐる回った挙句、疲れ果てて最後に目についたのが青い看板のスリーエフだった。スリーエフ自体珍しかったので、なんとなしに店内に入ってみた。

店内は広いからなのか品物が少ないからなのか、余白の部分が多かった。特に欲しいものがなかったが、レジに待機する店員さんと目が合ってしまったので何か買わないと、と思ったような気がする。どうしようかなーとキョロキョロしているとお弁当コーナーの一番下に鎮座する地味なパッケージの弁当に自然と手が伸びた。

チーズハンバーグ弁当。普段だったら絶対に選ばない。コンビニや冷凍食品なんかの、出来合いのハンバーグが苦手だからだ。なのにその時は無性に気になった。どうせチーズも大したことないんでしょ、びっくりドンキーには勝てないでしょ、とイチャモンをつけていた。しかし、そのままレジへと持って行った。どんな味なのかではなく、これを食べてどんな気持ちになるのかが気になった。そういう意味では空腹とはまた違う、興味で食欲が湧いたのかもしれなかった。

チャリのハンドルに弁当が入った袋をぶら下げて急いで帰った。部屋に帰るなり弁当をレンジに放り込み、汗が滲むTシャツも着替えずに弁当が温まるのをじっと待った。もうすでに深夜だ。

熱々になり過ぎた弁当を取り出し、蓋を開ける。割り箸でハンバーグを割ると中からチーズが少しだけこぼれ出した。あー久々にちゃんとしたご飯食べるな、と思いながら口に運んだ。予想通りの味がした。ご飯も同じようによくあるコンビニ弁当の味だ。付け合わせのポテサラは口の中で瞬時にサラサラと溶けた。全てが予想の範囲内。期待を上回りも下回りもしない。まあこんなもんだよな、という気持ちだった。

でもこの、まあこんなもんだよなが、嬉しかった。なんだかいつも通りに戻れた気がして。大学時代によく食べたコンビニ弁当。あーそうだった、こんなんだったなと、我に返った瞬間だった。抜けかけていた魂がチーズハンバーグ弁当で元に戻ったような気がした。そう思ったらやけに美味く感じるようになった。大げさだけど。

次の日から徐々に外に出るようになり、友人とも遊べるようになって、友人たちには勝手に助けてもらった気になりながらなんとか回復していった。薬は飲むのを完全にやめた。

たまたま見つけたスリーエフのチーズハンバーグ弁当が自分のターニングポイントになった。ありがとう、スリーエフのチーズハンバーグ弁当。たまにこうやって思い出してるぞ。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?