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東北の海沿いのボロボロの建物の前の道

 営業マン時代、稀にだったが東北から関西までの範囲で出張に行くことがあった。会社がある都内から片道3時間ほどだったら大概はレンタカーを借りて行っていた。運転が得意ではない私にとっては都内の下道も首都高も生きた心地のしない地獄の旅路だったが。

 その日は一人で常磐道をひた走っていた。東北地方の海沿いにある取引先の工場へと向かう。その頃はまだまだ震災の爪痕も残っていて、真新しい道路の脇には倒壊した建物もそのままに、特に海側は荒涼としていた。全てが崩壊した街と不釣り合いな真新しいパチンコ屋のコントラストが無性に悲しくさせる。

工場へ着くと担当者と打ち合わせ。いい時間になったのでここら辺で昼飯でも行きますかと、車に乗ってオススメの店へ。先ほど通ってきた道とは違い、さらに海沿いの道を進んでいった。津波の痕跡はより生々しさを帯びて、陸に打ち上げられたままの漁船や山積みの瓦礫が嫌でも目に入った。

私「この辺りは被害がだいぶ凄いんですね………」

目の前の惨状を直視する辛さから我慢出来ず、思わず口に出してしまった。報道で見るのとは明らかに違うリアルな状態。めちゃくちゃになった港町は寂れた雰囲気に拍車をかけていた。

担当者『あそこに見える山の麓まで津波が来てねぇ。ここら辺一帯はほとんど流されちゃって、最近になってようやくここまで復旧したんだよ』

復旧、というのかと思った。ただ強引に道だけを作り直したようにしか見えない。それ以外はまだ何も解決していないように感じた。担当者は少し悲しげに海の方を見ていた。

「あそこの建物も酷いですね…」

漁港のそばにある建物は朽ち果てていた。窓の少ないコンクリート打ちっ放しの壁には、幾つものヒビ割れが走っている。頑丈そうな建物への被害は、津波の衝撃があらためて凄まじかったと思わせた。が、しかし…

いや、あれは元々ボロいんですよ!あそこだけ奇跡的に被害出なかったんで!

あっけらかんと笑いながら指差す担当者。
そんなのズルイよと、笑いながら海沿いの綺麗な道を進む。津波の被害なんて関係なかったボロい建物の横を通り過ぎる。昼飯の煮魚定食は旨かった。


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