異変
朝、カーテンを開けて。
いつもと変わらない景色。
いつも変わるのは空の色と風の匂い、街の音くらい。
と思いきや、今日のベランダはいつもと違う。
私のベランダにはいつも無い、何かがあった。
まな板くらいの大きさの、
まな板くらいの食パンだったらその耳だけある、
みたいな。
灰色の食パンの耳。
しかも固そう。
美味しくなさそう。
何これ。
どこから産まれたのか。
どこからやってきたのか。
空?風?
隣人だったら困ってるだろうし、
こっちも困る。
訪ねる勇気はない。
灰色の食パンの耳。
手に持ってみた。
そこから眺める景色はやはり、いつもと変わらない景色。
これが異世界と繋がってたらなぁ。
くぐった先は大航海時代とか、
吸い込まれたら異生物に転生しててとか、
覗いたら中世ヨーロッパでとか。
そしたら悩みも無くなるのかなぁ。
いや、行ったら行ったで色々悩まされるだろうな。
海賊になったら船酔いが酷くて、航海を楽しむ所ではないだろうし、
異生物になった途端、人間の頃が恋しくなるだろうし、
中世ヨーロッパの治安なんて怯える以外ない。
結局いつものこの景色がいいんだよね。
そう思って、ベランダの端っこに、
そっと、
灰色の食パンの耳を立てかける。
いつもと違うベランダ。
これも見慣れるのだろう。
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