6/10分 第39作 テーマ:ツバメ

昔父に聞いたことがある。
軒先にツバメの巣がある店は繁盛している。

ツバメは天敵のカラスから身を守るために、
人の出入りの多い場所に巣を作るのだそうだ。

今俺の目の前に現れた、看板も建物もオンボロな食堂の軒先にも、ツバメの巣が作られていた。

雛鳥も元気にピーピー鳴いているから、
現役バリバリで繁盛しているのだろう。

こんな小汚い店がどうして繁盛するんだろう?
俺は些か訝しみながら、その店に足を踏み入れてみた。

腰が曲がり頭の禿げた、しかも残った髪が白くなった老夫婦が2人きりで切り盛りする食堂だった。

外見と同じで、店内も薄汚れていて、
ところどころかびていた。

おじいちゃん、このお店、繁盛してますか?

俺は失礼を覚悟でそう聞いた。

おじいちゃんはにっこり笑ってこう答えた。

ああ、おかげさんでのう、毎日たくさんの学生さんが来てくれとるでのう。

どうやらこのお店は、近くに2つある中学校と、
3つある高校の学生が顧客層のようだった。

学生たちが、思い出を紡ぐ場所。

そんなコンセプトで経営されているお店のようだった。

毎日来られるように、メニューは和食から中華、
イタリアンまで、ここで食べられないものはないと思えるくらいに豊富だった。

そしてそれら全てが大盛り、倍盛り無料。
一律500円というから驚きだった。

それでよく経営できますね。
どうやって黒字化してるんですか?

黒字?黒字なんてとんでもないわい!

おじいちゃんは朗らかに笑い飛ばしていた。

毎年500万円の赤字じゃよ。

それじゃあどうして、こんなに永く続けていられるんですか?若い頃に莫大な資産を形成されたんですか?

いや、そうじゃない。
毎年のう、近所の学校のOB会が寄付をくれるんじゃよ。

それでわしらは、不自由のない生活を送れとる。
だからな、彼らに毎年、やめないでくれというメッセージをもらう以上、この店を畳むわけにはいかんのじゃ。

その食堂の名は、ツバメ食堂。

ここで育ち、社会に出て、厳しい波に揉まれ、
大きくなって、気が向いたらまた帰っておいで。

老夫婦のそんな思いのこもったネーミングだった。

そして実際、学生たちは、お金のない時代にエネルギーを補給し、熱い思いを語り合った食堂からはばたち、
大きくなって寄付をしている。

頑張れ、老夫婦。

このお店は、いつまでも潰さないでいておくれ。

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