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あの日見た謎の看板に再会する


過去に一度だけ確実に行ったことはあるけれど、もうそれがどこだかわからない。

皆さんにもそんな「記憶の中に置いて来てしまった場所」があるのではないでしょうか。

え?何?無いって??

もうっ…\\\\\
素直じゃ無いんだから\\\\\\

例えば子供の頃行ったけど、もう名前も忘れてしまった遊園地やショッピングモールだったり、車の窓からサッと見えただけの看板だったり、一度行ったきりなぜか二度と辿り着けなかった謎の公園だったり…
そんな、もはや実在してるかどうかも怪しいけれど記憶の中にだけは残り続けている風景ってありませんか?

そして、もしもそれが写真として残っていたらーーーーー



これがまさに、写真として残っている「記憶の中に置いて来てしまった場所」です。
先ほどスマホのカメラロールを遡って、自分が過去に食べた焼肉の写真を見返して「美味しかったなー」とニコニコしている最中に偶然発見しました。


確かにこの看板を見た記憶はありますが、写真を撮ったことはすっかり忘れていました。そのエキセントリックな見た目も相まって、半ば現実の記憶として認識できていなかったのです。

うわーーーー!!!めっっっちゃそこ行きてぇーーーーーー!!


まじで????これ夢じゃなかったの????え、見たすぎる。この看板もう一回見たすぎます。見せて。

でも、まって


なんかこの看板見た時って、ほぼ拉致された状態で、そこが何処なのかも知らずに、車の窓から夜の山の風景をただ茫然と眺めている状態だった気がする。なんかそんな感じの記憶ある。なんで???



これからお見せするのは、そんな記憶力皆無の私が先ほどの看板を再発見するまでの旅路です。

その日撮った他の写真を調べる

この写真にジオタグが付いていればこの記事は即終了でしたが、幸か不幸か位置情報は記録されていませんでした。そこで、この写真を撮る前に私が何を撮影していたのかを手掛かりに写真が撮られた場所を調べます。

カメラロールを見返すと、看板を撮る少し前に興味深い嗜好の持ち主の手記夜の駅が撮られていました。

興味深い嗜好の持ち主の手記


夜の駅

この手記はどこかに設置されているノートへの書き込みのようです。この書き込みの10日前、つまり6月3日の書き込みがドライブで来た大学生のものであることからもそれが伺えます。

これはまさに、写真のノートが駅に設置されている「駅ノート」であることを示しています。実はこの時点で結構思い出しました。この駅は、私が当時住んでいた寮の先輩に行き先も告げられず夜中に車で連れてこられた秘境駅、S駅です。というか、たしかその日は他にダム湖神社廃バスにも連れて行かれた気がする。

カメラロールを見返すと、確かに神社の写真もありました。

そうそう、この神社

まとめると、私は夜中に車で山へ連れていかれてダム湖、廃バス、神社をめぐり、その道中であの看板の写真を撮ったことになります。本当に何で?????

理由は全くわかりませんが、とにかくあの看板の写真がS駅周辺で撮られたことはわかりました。


S駅周辺を調べる


地図で見たところ、S駅の近くにはYダムがあるようです。記憶の中では暗いダム湖の横を車で走っていた気がするので、Yダム横の道を目指してS駅へ向かってみようと思います。

あ。

というか原付のガソリンがもう無いんだった。
明日看板を探しに行くとして、今日中にガソリン入れとかなきゃ。

私にとって唯一の移動手段である原付。その鍵はいつも上着のポケットに入れっぱなしにしてあります。よく乗るので…

さーて、カギカギ…

・・・?


わあ

なんと上着のポケットに穴が開いてました。

車を持っている友人に連れて行ってもらうことなりましたが、これからどうやって生きていこう…

当日

友人に車で迎えに来てもらい、まずはS駅に向かいます。


ブーン

S駅はかなりの山間部にあって、一日の乗降者数はゼロという秘境駅です。S駅に近づくにつれて、周囲の景色も山深くなっていきました。

道端にあったお札のようなもの


いよいよ人家も少なくなってきた頃…


友人「あ!!!!!!!!!!

え、なに????????


なんかある

急いで車から降りてみます。

どうやら鳥居のようなもの (白円で強調) が二つ設けられているようです。

上の写真右側のもの


上の写真左側のもの


特に、写真右側のものは複数の不法投棄禁止とペットの放置禁止の看板とともに併設されていました。

鳥居のようなものと一緒に設置されていた看板


この造り、件の看板とかなり似ている…。しかも訴えている内容まで一致している。もしかしたら探している看板はこのすぐ近くにあるのかもしれません。

なお、鳥居のすぐ足元にゴミが捨てられていた


引き続きS駅へ向かう途中にも、幾つか同様のものを見つけました。

しばらく進むと、ついにYダム沿いの道に。

さらに進むと…



マジか


マジでありました。廃バス。

そもそも廃バスって何????そんなの電脳コイル第5話『メタバグ争奪バスツアー』でしかみたことないと思ってたんですけど。あの記憶やっぱり本当だったんだ…。

この時点でかなり感動したのですが、今回の目的はあくまで看板。山の日は沈むのが早いので先を急ぎます。

そして、S駅に到着。

例の書き込みも発見


ここまで来れば当時の記憶も蘇ると踏んでいたのですが、結局何も思い出せなかったのでしらみつぶしに看板を探すことにします。


まずはYダム沿いを道なりに北東へ。

2.5 km で行き止まりらしい

しかし、怖すぎるカカシ以外は何も見つけられませんでした。

こわっ


続いて、ダム湖を渡り北西へ向かってみます。

が、やはりそれらしい看板はありません。

この時点でかなり日も傾き、友人とも「いよいよ帰った方がいいのでは」と話していた頃、あることを思い出しました。

そう、まだあの日行った神社を見つけていないのです。

そこで、Googleマップで近くの神社を探してみると…


K神社

ん?
なんかここめっちゃ似てない????

似てる!!!!

なんか、すごい似てる…気がする。
前日に地図を調べた時は出てこなかったのに…

Googleマップで写真を見る限り、このK神社がかなりあの日行った神社と似ていました。
どうやら先ほど鳥居が設置されていた辺りから分岐して、K神社に向かう長めの峠道があったようです。

あの夜に撮った看板の写真は、神社の写真の10分前に撮られています。地図を見る限り、この峠を抜けて神社に着くまでに20分はかかりそうです。

つまり、この神社へ向かう峠道の途中に看板があるはず…

もうすっかり日も傾いたなか、対向車が来たら当たり前のように終わることが前提で設計された山道を進みます。

すると…

ん?


ありました


初めまして。このパーカーの男が私です。


うおおおおおおおお!!!!!!!?!
あった!!!!!!!!。!!。!すご。え、なんで?(?)?まあいいや。あ、意外と表面ザラザラしていらっしゃるんですね♡かわい〜!!え、あたしのこと覚えてます????ていうか本当に「ステタラステニイク」てどういうこと?????


とにかく!!!!!



私と看板の再会を祝して、

かんぱーーーーーい!!!!

少し未来の私「え、ねーねー、彼女できたってマジ???」

少し未来の友人「え〜!?なんで知ってるん/////////」

少し未来の私「うはっwwwwwwwやばwwwwwwwwwwマジで彼女できてたんやwwwwwwwwww何となく言ってみただけやったのにwwwwwwwwww」








はっっっっ

 すみません。嬉しすぎて今がいつなのか忘れていました。ついでに普段私たちが居酒屋でクソだるい大学生の会話をしてることもバレてしまった。


その先の道にも同様の看板がいくつも設けられていました。

友人「なんか、全部こっち向きに設置されているね」


確かに。今までに私たちが見つけた看板は、その全てがYダム側から峠を登る人に向けて設置されています。
しかし、この峠は一方通行ではありません。些細な違和感を覚えながら峠を進んでいくと、道の右側に小さな社をみつけました。

なんかたまたま見つけた、目立つ神社

地図を見たところ、これは目的のK神社ではないようです。
道に面した目立つ場所にあったのでなんとなく写真を撮り、引き続き峠を登ろうと車に戻ると…

え……?

友人「あの看板、逆じゃない?」

今まで私たちが見た看板は全てこちら側を向いていいましたが、ここにきて初めて看板がこちらに背を向けて設置されています。


さらに、その次に見つけた看板も…

またその次も…

次も…

友人「これさ…。さっきの神社を境に看板の向きが変わったってことだよね」

さっきの神社

理由は全くわかりませんが、さっき見つけた神社を境に看板は向きを変えているようです。

こちらに背を向けるように設置された看板


車内になんとも言えない不気味な空気が漂う中、相変わらずこちらに背を向けた看板が、カーブを抜けるたびに姿を見せます。

結局、この日私たちはこちらを向いた看板8個、背を向けた看板5個、計13個の看板を見つけました。


気がつくと道は2車線になり、看板も無くなっていました。


対向車が来ても終わらない道


もしもあの看板が先ほど峠で見つけた神社を意識して設置されたものだとして、あの峠自体を巨大な参道と捉えたら…

『ポーン…目的地は右側です』

不気味な想像をしていると、K神社への到着を知らせるナビの音声が車のスピーカーから鳴りました。


K神社

車から降りると、すぐに見覚えのあるものを見つけました。

不法投棄の禁止を訴える看板
約4年前に撮られた、同じ看板の写真

この写真が、私が約4年前のあの夜、まさにこの場所に来ていたことを示しています。

やっぱりあの日行った神社はK神社だったんだ…。


K神社へ続くと思しき階段


茂みごしにうっすらと見える鳥居

参道は荒れ果てていて、鳥居がなければそこが神社であることにも気づきそうにありません。鳥居の先には半ば埋もれた石段が続いていました。

倒木や落ち葉に埋もれた石段

この先にK神社の境内が…


え?
白髪神社・・・?

ここ、K神社じゃないの??????



いやどこだよ!!!!!!


というか、まだスマホの道案内終わってなくね??????

友人「あれ、でも確かにさっきナビは道案内終了って…」

私・友人「あ。」

ここで2人とも同時に、あることに気がつきました。

K神社へのナビゲーションは私のスマホの地図で行っており、道案内の音声は私のスマホから鳴るはずです。

しかし、先ほど目的地への到着を知らせた音声は、確かに車に内蔵されたスピーカーから発せられていました。

もちろん車内蔵のナビに目的地は設定されていません。


社殿があったと思われる場所

白髪神社にはもはや社殿が残されておらず、そこには土台と散乱した瓦があるだけでした。私と友人はしばらく白髪神社境内を散策し、なんとも釈然としない気持ちのまま白髪神社を後にしました。


残された多くの謎

再び車に戻り、しばらく道なりに進むと今度こそK神社に辿り着きました。

しばらく見ない間に綺麗になったね

鳥居が造り直されていて、白髪神社とは対照的によく手入れされているようでした。


結局、あの夜に行った全ての場所を巡ったにもかかわらず、最後まで私の記憶はあやふやなままでした。しかしその夜、一緒に食事をしたあと友人と別れ、自室に戻り、もう寝ようかという頃、あることに気づきました。


そう、この写真のことです。

私はこの看板をK神社の近くにあるものだと考えていましたが、実際には白髪神社の近くにありました。

白髪神社は私にとって今日初めて、それも意図せずに行った場所です。しかし、それではこの写真の説明がつきません。

私は本当は4年前にも、白髪神社に行っていたのです。

今回の目的、『あの日見た謎の看板に再会する』ことは確かに達成されました。

しかし、そもそもなぜ私はあの夜、ダム湖、廃バス、神社を巡ることになったのか?今日、白髪神社を見つけるきっかけとなったナビの音声は何だったのか?4年前に私は白髪神社で何を体験したのか?この地域で6月に山奥で5時間ブルマは虫に刺されまくらないか?

これらの謎は一つも明かされていません。

「記憶の中に置いて来てしまった場所」の再発見を意図したこの旅路は、その逆とも言える、「記憶の中にだけ無い事実の痕跡」を突きつけて終了しました。

もしかしたら誰にとってもこのような、記憶から消された体験が本当はたくさんあり、それらを忘れているおかげで今日まで続く記憶の整合性は保たれているのかもしれません。

私はこれ以上あの日の記憶を探るのはやめておくことにします。


(おわり)

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