簡単に諦めるな
1点ビハインドで絶体絶命の9回表2アウト、2ストライクから内川がライト前ヒットで出塁、次がなかなか調子が上がってなかったもののこの日2安打の上林。個人的に上林はこの先チームを背負うべき人だと思っていて、特に頑張ってほしいと思っている。前も札幌でホームラン打っていたし、これで1発逆転とか、もしかしたら、いや、そんな奇跡は、いやまさか。その瞬間、まさかが目の前で起こったのだった。体がこれまでに経験したことがないような痺れ方をした。鳥肌が立った。
ああ、奇跡とは何か。喜びとは、悲しみとは、期待とは、諦めとは、勝利とは、敗北とは、……頭は混乱し、どういう気持ちでいたらいいのかわからない。嬉しいはずなのに、歓喜の甘い香りに酔いしれる感覚とは程遠く、むしろ強烈なワサビの刺激にむせぶ感覚に近かった。
「物事を簡単に諦めるのは愚かなことだ」とは日頃から生徒さんに言っている。しかしそう言う自分自身、安易に諦めて逃したチャンスがこれまでにどれくらいあっただろうか。人間の弱さといえばそれまでだが、いつまでも弱いままでいいのだろうか。ほんのちょっとずつでも強くならなくていいのか。
成田から次のスカイライナーに乗れないと帰りが大幅に遅れてしまう。着陸後、駐機場からT3へはバスでの移動と聞いた時点で舌打ちし、間に合わないだろうと思っていた。ともあれ早足でT3の外に出て時計を見ると、発車8分前。ここからT2のスカイライナー乗り場までは600メートルあまり。自分の足なら、早足では間に合わないがちゃんと走れば間に合うはず。諦めるのは愚かなことだ。かくして肌にベタつく湿気の中を駆け出したのだった。
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