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(短編ショート) 利休の朝顔

 「利休の屋敷には、朝顔がたくさん咲いておるらしいな」
 「さすがに、お耳が早くていらっしゃる」
 秀吉が千利休の屋敷を訪ねると、つる葉は屋根まで伸びているというのに、お目当ての朝顔は一輪も咲いてはいなかった。
 「利休!これはいったい、どういうことじゃ!」 
 「秀吉様。こちらにどうぞ」
 利休は静かに秀吉を茶室に案内した。そこには、花瓶に一輪、朝顔が活けてあった。
 「うむ。さすが、利休じゃ。なんと美しい朝顔であることか」

 「さあ、皆さん。この朝顔のエピソードを聞いて、皆さんはどう思いましたか?」
 教室で先生が、生徒たちに質問した。はい!はい!はい!と手が挙がる。少し難しいかと思ったが、すごい反応だ。
 「はい。では、山田さん」
 「まず、先生がどう思ったのかを聞きたいです」
 「え?私?とても良い話だと・・」
 「どこがですか?利休は朝顔の花を全部摘み取ったんでしょ?ひどい話じゃないですか。花の命をなんだと思ってるんでしょう」
 「た、確かにそうとも言えますが・・」
 「違う!違う!山田さんは何もわかっちゃいない!」
 佐藤さんがやおら立ち上がって、いきなりまくしたてた。
 「朝顔の花は、摘み取るとすぐにしぼんでしまうんですよ。いつ来るかわからない秀吉を最高の状態で迎えるために、つぎつぎ花を活けつづけた利休の隠れた苦労を知ったからこそ、その礼が美しいと秀吉は言ったんですよ」
 「な、なるほど」
 感心したのは,先生の方だった。山田さんは、にっこりして
 「ひどい話と言ったのは、佐藤さんがちゃんと答えてくれると踏んでたからですよ」と佐藤さんを振り返った。
 「なんだ。まんまと罠にはまったなぁ」
 山田さんは、苦笑いして頭を掻いた。
 (な、なんなんだ。このクラスのレベルの高さは・・)
 タジタジになっている先生に、近藤さんが手を挙げて尋ねた。
 「先生は、この一輪の朝顔の花は、何色だと思われますか?」
 「え?色?そこまでは、考えたことなかった・・」
 「そうですか。私は、白だと思います。わびさびを信条とする利休ですから、やはり白です。秀吉様にまっさらな気持ちでお仕えします。と、いう意味も込めて」 
 「はあ~深い。深いですねえ」

 今回の授業は立場が逆転。先生が学ばせていただくばかり。教室の窓には、お月様が浮かんでいる。還暦を過ぎた社会人学校は、今夜もにぎわっている。
                             (了)
            白い朝顔
           花言葉:固い絆
      しかし後に、秀吉は利休に切腹を命じた。   







 

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