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(超短編) 菅原ビランジの再生

 リスは口の中いっぱいに実を集める。食べきれない実はあちこちに埋め、あとから掘り出して食べる。でも、集めすぎてどこに埋めたかを忘れてしまうし、埋めたこと自体も忘れてしまう。その実はラッキー。そこから芽を出し成長する。リス達はこうして森を育てるのだ。
  森が育たない寒冷地に暮らすリスをジリス(地りす)という。草原の中に穴を掘って暮らしている。リスの習性通りに花の種を集めては、せっせと埋める。ジリスが草原を育てるのだ。
 地球に氷河期がやってきて、草原は永久凍土の下に埋もれた。ジリスもマンモスも氷の中に埋もれた。3万年前のことだ。ジリスが埋めた種も土の中で凍った。
 ロシア科学アカデミーが氷を掘りその種を取り出し栽培して、3万年ぶりに咲いたのがスガワラビランジ。和名のスガワラは、その花の子孫を大正時代に樺太でスケッチしていた菅原博士の名前に由来する。3万年前のスガワラビランジは、寒冷地の特徴を残しており、根の伸びるスピードが遅いという。寒く硬い大地に咲いていたのだろう。

  新聞記事を読みながら祖父が言った。
 「花言葉は再生だとさ。3万年前から現代によみがえったという訳だな」
 祖父には片足がない。満州でソ連兵と戦い撃たれ、右足の太ももから下を野戦病院で切り落とした。放っておけば破傷風で命がなかった。義足を履き健常者と変わらず懸命に働いて、私の父を初め3人の子供を育て上げだ。
 「子供ができるたびに、片足のない子が産まれるんじゃないかとヒヤヒヤしたよ」と笑いながら話してくれたことがある。子供たちは五体満足に再生した。続いて私も再生した。しかし、未だ独身。
「おじいちゃん。再生が途切れるかもよ」
「日本自体、消滅するかもしれん。3万年後には」と祖父は笑った。


    

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