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胃カメラの達人となり

50歳を過ぎた頃に消化器官の一部が要経過観察となり、それから胃カメラを毎年飲むようになりました。

最初はビビりましたよ。飛行機が飛ぶのと同じように、あんな太い管が腹を探るなんてありえないと思ったので。しかし背に腹は代えられぬ、バリウムに胃カメラは変えられぬ、てなわけで、当日までネットで経験談などをチェックして臨みました。

たいていリラックスせよとか、肩の力を抜けとか書いてありますが、具体的なことは不明、その中で「処置中は、なんか楽しいことを想像する」というものが一番、参考になりました。

さて、私にとって「なんか楽しいこと」とは何か。検討の末、私が用意したのは「南国のビーチで二人のお気に入りの男性と過ごしている」という妄想でした。お気に入りの男性はよりどりみどりです。

要はパニックにならないために呼吸を整えること、平常心で保つことが大事なので、意識を別のことに集中する、そのためのエサが「なんか楽しいこと」なのです。

もくろみは成功しました。青い空、白い砂浜の木陰で、二人の若者にかしずかれる私は、一度もえずくことなく初めての胃カメラを終えました。それから約10年間、毎年、無事に終わりました。いくつかのコツを習得し、数年後にはビーチの妄想さえ必要なくなっていました。

しかし、約10年後に担当していた医師が代わった時、衝撃の事実が発覚することに!

新しい医師はいつもの先生より明らかに若く、新米っぽさを前面に漂わせていて、「楽にして~」「鼻で息をして~」とさも優しく声をかけてくれるのですが、技術がいまひとつ。最初の一歩でつまづくことになり、ずっとえずき通しでした。

それは初めての経験でした。喉を通す時、グイグイと雑に押し込まれて、えずきが始まりました。処置中はオエオエという嗚咽とともに唾がダラダラ、涙がタラタラ、世の胃カメラ嫌いの人が経験または想像するフルコースを味わいました。そんな私を看護師さんは抱えてくれて、背中をトントンしてくれたのが救いでした。終わった時は呆然として、それまで楽に処置を受けられていたのは担当医の腕のおかげだったと悟ったわけです。

しかし、検査は続きます。翌年は一計を案じて、その新米医師にリクエストしました。「最初に喉を通す時、ゆーっくり通して下さい」と。「心配しなくても大丈夫ですから~」と言いながらも、リクエストに応えてくれた医師。なんと、えずきは起こらず、これまでのように検査を受けることができたのです。

胃カメラの一番のポイントは、管を喉に通す時ゆっくりやってもらうことです
二番目のポイントは、意識をそらすために楽しい妄想をすることをお勧めします

これは経鼻カメラを選択できる人には無用のポイントかもしれませんが、私の場合、鼻は痛くて通せず、今も喉一択のため、上記ポイントふたつに加えて、これまで習得したコツを駆使して難を逃れているわけです。

私が習得したコツとは、唾を飲み込むこと。鼻だけで息しないこと。

どちらも逆のことを病院から指示されますが、私の経験から言うと、鼻だけで息をすると喉がまり、逆に辛いんです。また、喉が塞がった状態で鼻で息をすると、普段に鼻だけで息をすると違い、非常に息苦しくて、強いられたらパニックになりそう。だから私は、管の通った喉を通して口と鼻で両方で息をしています。

そして、ずっと唾を飲み込まないようにするのがいかに苦しいことか。とにかくストレスが倍増します。病院側が唾を飲まないでという理由は、喉に麻酔がかかっているため、唾を飲むとむせることがあるからということなので、おススメすることはできませんが、私自身は処置中に2、3度、唾を飲むことですごく楽になっています。定年後、市の指定の病院で胃カメラの検査を受けるようになった身でも、あいかわらずこの方法を使いストレスが軽減されています。

また、細かい胃カメラあるあるですが、えずかなくても必ず涙は出ます。そのちょろっと出た涙が線になって頬を伝う時、無性に痒くなるのです。思わず手を伸ばして掻きたくなりますが、それはやってはならない行為。会社指定の至れり尽くせりの病院では、付き添いの看護婦さんに涙を拭いて下さいと頼んでいましたが、今は我慢しています。

胃カメラは想像したり、噂を聞いている限りは怖いものですが、実際はバリウムよりも楽だと思っています。去年、久しぶりにバリウムを飲みましたが、あいかわらず不味いし、検査台であっち向けこっち向けと指示されて回転するのが苦痛でした。そして、検査液が排出されるまでに時間がかかるのも、10分程度で完了する胃カメラの方に軍配が上がります。

ところで胃カメラの時、これまでの病院では処置中に映像が見れるように取り計らってくれるのですが、あれは冗談でしょうか。私は必ずモニターを背けてもらっています。自分の身体の内側をリアルタイムで見ながら平常心を保つなんてできないです。

ホラー映画のデロデロはいくらでも平気なんですが、本物は苦手です。

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