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走る鳥と泳ぐ私

点滅し始めた横断歩道を、
脚の細い鳥が全力疾走で渡っていた。


いや、飛べよ。

スズメや鳩といった街の鳥たちは、一定のラインを越えて私たちが近付くと、一斉に飛び立つ。
特にスズメなんかのパーソナルスペースは明確にあるようで、こちらが何の気なしに踏み入れた一歩に対して、お祭り騒ぎで距離を取られる。
そして、案外こちらがそれに凹んだりもする。


しかし、あの脚の細いツンとした鳥(名前は知らんがたぶん伝わるはず)だけは少し違う。
彼らはいつ見ても走っている。
なんなら、彼らが飛んでいるところを見たことがない。


考えてみる。
彼らもまさか家から歩いてきた筈はないだろうから、わざわざこの辺りまで出向いてきては、日夜ウロウロしているに違いない。
何故わざわざそんな事をするのか?
私たちヒトに対して、「飛べるのに敢えて走る俺」みたいなものを見せつけにきているのだろうか。
だとしたらなかなか性根の腐った鳥である。
そんな5cm程度の歩幅で何を偉そうに。
隣りを歩いて格の違いを見せつけてやろうか!



そんなことを考えながら、まだギリギリお日様の残る町を、エコバッグ片手に大股で歩く。
近頃お肉続きだったものだから、今夜はお鍋にしようとスーパーで鱈を買った。



頭の中で生前の鱈を思い浮かべる。
海で泳ぐヒトを見て、魚たちも今の私のような気持ちになったりするのだろうか?
自分たちの暮らす街まで車に乗ってやって来て、わざわざ脚があるのに泳いで見せる。
私たちがやっている事は、さっきの脚の細い鳥と同じではないのか…
「走れるのに敢えて泳ぐ俺」ではないのか…
さっきまでの勢いを失い、私は俄然自己嫌悪に陥ってきた。歩幅も自然と小さくなる。



そんなどんよりとした気分を連れたまま帰宅した私は、気分とは裏腹にお鍋をしっかりと平らげた。
おこたで寄せ鍋、最高だ…
私は「このままおこたで寝てしまう」という本当の〆を行うべく、ふわふわのこたつ布団に肩まで潜り込んだ。腹もぱんぱん、おこたぬくぬく、極楽だ…


遠のく意識の中、私はまだあの話を考えていた。


走る鳥…
泳ぐ私…
なら魚は何なんだ…
………
………

トビウオ!!!!!

しかもヒトにも鳥にもその姿を見せつけてくる!!!
完全に「泳げるのに飛ぶ俺」やんけ!!!
魚もめちゃくちゃ感じ悪いやんけ!!!

そう脳内で叫んだ後、私は速やかに寝太郎となった。


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