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プロポーズ

12月26日の朝、起床と同時にプロポーズされた。

前夜には「古畑任三郎vsイチロー」を観ながら通常運転の飲酒を行い、小1時間おこたで眠ったのち這いずる形でベッドへと潜り込んだ。
髪はボサボサ、意識朦朧、はだけたパジャマに寒さで震える唇。女がこの世で一番ブスなタイミングでのプロポーズであった。

なんで今?

こういう「なんで?」みたいなことをするのが我恋人の特性であり、元来まともで無い私にさえ思いつかない不可思議なことをやってのけるところに、目が離せなかったりもする。


12月26日
私たちの歴史において何の所縁もない日と同時に、クリスマスですらない、何の思い入れもない1日だ。

「僕で良ければ…ゴニョゴニョ」

「あなたが良いですよ」

何とも愛おしいダイヤモンドの指輪を授かり、私は柄にもなく指輪をはめては、寝起きで浮腫む頬を持ち上げ微笑んだりした。

カーテンをさっと開くと、昨夜まで雨予報だった空は大ハズレで晴れており、窓の結露は窓枠にまで滴っていた。
「こりゃカビるな」などと冷静に考えながらも、別の自分は「私はこの人と家族になるのか」、としっかり幸福ingしている。

私はいつだって彼が思っている以上に冷静で、思っている以上に感情的で、そのどちらをも悟られまいと過ごして来たが、今この瞬間も同様に、全神経を集合させそのことに尽力していた。

彼「ふふふ」

私「なによ」

彼「嬉しそうやなぁと思って(笑)」

私としたことが、どうやらバレていたらしい。
慌てて努めて涼しい表情を作るも、彼がいつの間にか入れていてくれていたコーヒーが、再度私の表情筋をだらしなくさせる。


湯気まで美味しい。


こんなことを言うとどうも辛気臭いが、私はこれまでの二十数年間、どちらかと言うと死ぬことばかり考えてきた性分であり、「どうせ死ぬんやッ☆」という諦観から来る思い切りの良さで、案外ハツラツロックにやってきた節がある。

「結婚」「出産」「家族」
なんてのは、生きて初めて始まるものであり、そんなスタート地点にすら立てていなかった私は、それらを求めも知りもしてこなかった。
それが彼と出会い、こんなところまでやってきた。

文字にするとえらく気色の悪い風合いになってしまったが、それぐらい私にとってエキサイトマッチなのだ。

嬉しかったはずが急に不安に駆られた私は、気分を変えようと、静かに気になっていた問いを彼に投げかけた。


「なんで12月26日にプロポーズしてくれたん?」


「ほんまは昨日のクリスマスにしようと思っててんけど寝てしまってん!笑」


阿呆か。

私は「あんたヤバいな」と言いながら、この人となら嫌でも気楽にやっていけるな、と何だかホッとしていた。

左手の薬指は、いつもより少しだけ重たい。






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