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守って守られるジャンゴの人間らしい魅力と天海祐希さんの全てに益々惚れました、というラブレターのようなもの(『広島ジャンゴ2022』感想)

 世の中には無限に悪役がいる。無意識のうちに誰だって悪役になりえる。でもヒーローになれる人も無限にいる。近くにいる人に手を差し伸べてあげて。その身体と心を救うかもしれないから。

https://www.bunkamura.co.jp/cocoon/lineup/22_django/

 蓬莱竜太さん作・演出の『広島ジャンゴ2022』。観劇前にあらすじを読んだ時にはそういう大きなテーマがあるなんて気づかないほど、濃厚で、大変にハードな舞台でした。西部劇の“ヒロシマ”と現代の牡蠣工場“広島”の2つの舞台を鈴木亮平さん演じる木村/ディカプリオの目線で行き来することになるけれど、共通するのは「声が大きくて力のある男性」に反発できず、ヒロシマの市民と広島の牡蠣工場社員が苦しんでいるということ。でも、仲村トオルさん演じる橘/ティムだけが悪役かと思いきやそうではなくて(橘に関しては悪気がない(かもしれないけどそういうのが1番やっかいなんだよという)悪役)、それに反発せずに同調してしまう者も同じく悪役なんだと思う。苦しんでるけど同調したヒロシマの市民と広島の牡蠣工場社員もそう。木村の姉のみどりを自殺に追い込んだ人たちも同じ。狂った群衆が恐怖の引き金を引きそれが個人を吊し上げて死へ追いやるような地獄へと繋がることは、歴史やそれを題材にした色んな作品で学んできたつもりだけど、それは現代でも変わらなくて、地獄への引き金は未だにどこにでも蔓延っているんだということを改めて実感させられた。

 でも、ヒロシマのドリーと広島のみどりのように犠牲になった者がいれば、現状を変えようと立ち上がる者もいて。それがヒロシマのジャンゴと、広島の木村。ジャンゴを演じる天海祐希さんがヒロシマの市民達を救い、木村を演じる鈴木さんが広島で牡蠣工場の社員たちを救い、山本(天海さん)に手を差し伸べる。W主演ということもあり、西部劇と現代とで“手を差し伸べるもの”“差し伸べられるもの”の立場が変わる構成がとても好き。

 この作品の中で1番共感できるのは誰か?と考えると、それは登場人物ほぼ全員なのかなと言っても過言ではないくらい。クライマックスで「ティムは無限にいる」「ジャンゴも無限にいる」というやりとりがあるけど、悪役とヒーロー、地獄のようなこの世ではどちらにもなりえるんだから。そんな中でもやっぱり天海さん演じるジャンゴがとても好きです。新しいヒーロー像というか…いや、最初から最後までヒーローというわけではないところが好きです。そういうことあるよね、そういう気持ちあるよね、人間だもん。そういうどうしようもなさがとっても好きでした。天海さんが演じる広島の山本とヒロシマのジャンゴ、どちらも“こんな天海祐希さん見たかったの詰め合わせパック”だと思ってるけど(笑)、山本もジャンゴも心の中は同じ「娘を守りたい」の気持ち一筋で、表面上どう見えるかの違いだけだったのかな。西部劇のようなヒロシマで生きるジャンゴは、もうウエスタンな装いで銃をぶっ放す天海さん大変かっこよくこれだけでチケット代の元は取れているのですが、天海さんのイメージとして先行しがちな“強い女”像を前面に押すのではなく、ただひたすらに娘を守りたいが故に過保護になってしまう利己的な愛(娘以外の誰がどうなろうと正直どうでも良い)、娘の罪を被って自分が賞金首になる盲目的な愛、自分がどんなに傷付けられても良いから命と引き換えにしても娘を救いたいという捨て身の愛…ヒーローというよりも色んな愛の形を見せる、ある意味脆く、でも芯のある“母親像”を見せてくださった。初めはタダで良いと言われていた宿代も、街の状況がより一層悪くなったから請求されるとありえないくらい抵抗するのも、そりゃあそうだよねと思うし(そういうところが好き)、それは彼女が唯一守りたい娘のための抵抗だと思うと、我が儘とかじゃなくてとても理にかなった行動。そして、クライマックスでジャンゴは水不足の正体を突き止めてヒーローになるけれど、彼女を強く奮い立たせたのは娘やディカプリオの存在があったからで、ドリーやヒロシマの人々によくしてもらい守ってもらえたから今があるわけで。彼女が映画に出てくるようなヒーローじゃなく、誰かに助けてもらわないといけないどうしようもない弱い人間なんだというところも含めてとても愛らしかった。ジャンゴは娘を守っていたけど、ジャンゴの心を1番守っていたのは娘のケイなのかな。

 深い意味はないかもしれないけど、牡蠣工場の広島から西部劇のヒロシマに舞台が変わっても、大きな場面転換がなく舞台セットがそのままであることが、“広島”と“ヒロシマ”は繋がってるんだ、つまり声が大きくて力のある男性優位な世界は“今”も“昔”も変わらないんだ、そう見えるようにも感じて恐ろしかった。そして1人のキャストがヒロシマと広島では別の名前を持ち、ほぼ一人二役状態であるにも関わらず、山本/ジャンゴの娘のケイだけが、どちらの世界でも共通する1つの名前だけで生きていたことも気になったポイント。ケイだけが、ヒロシマと広島での境遇が全く同じだったのかも。ケイだけが、父親から負わされた傷、抱える痛み、母親への悩みがヒロシマと広島とで共通していたのかな。同調圧力のような悪が簡単に蔓延ってしまう状況が西部劇でも現代でも変わらないことを憂いたくなるけど、ケイのような境遇の子が今でもいる、これも西部劇から地続きになっている現代問題なんだという警鐘を鳴らしてくれたようにも思える。

 普段テレビで拝見しているような豪華なキャストの皆さんを目の前にミーハー心が止まりませんでした。全員に言及したいところですがこのnoteが終わらなくなってしまうのでW主演のお2人に絞らせていただき…
 まず鈴木亮平さん。数年前にテセウスの船を毎週見ていた時にあの包容力と笑顔にやられました。好きです。とても親しみやすいお役の今作、木村/ディカプリオの目線で物語が語られていたように思えるので、そういう彼の飾らない自然体の魅力が“ヒロシマ”と“広島”を繋げてくれただけでなく、客席と舞台をも繋げてくれたと思ってる。ディカプリオが喋ったり歌ったりするだけで客席はもうどっかんどっかん笑いが絶えませんでした…決闘シーンも、ただ見ているだけじゃなくて熱唱しながら応援してくれるディカプリオ!(笑)そんな彼が現代の広島の木村に戻ってから、天海さん演じる山本に手を差し伸べるラスト、本当に大好きです。鈴木さんはとてもストイックな役作りに臨まれることを以前情熱大陸を拝見した時に知り、身体作りや英会話に全力で臨まれる姿勢に、こんな俳優さんいるのかとすごくびっくりしたけれど、今回の全身全霊の木村/ディカプリオに心を鷲掴みにされました。甘いマスクと異次元のスタイルだけじゃなくてその愛嬌、笑顔、完全に人の心を掴みに来る役者さんだ… 滴る汗までかっこいいなんてどういうことですか…?私が観劇したのは東京千秋楽でしたが、カーテンコールでディカプリオの頭を被ってきてくれたり、天海さんと乗馬シーン再現してくれたり、もう2人のサービス精神がとんでもなくて!かっこよくて美しくて愛らしいツーショットが最高でした。Bunkamuraがアップしてくれたツーショも尊すぎる…観劇前にリンネルで拝読した2人のインタビューも好きです。

https://twitter.com/bunkamura_info/status/1520312033761427456?s=21&t=w3eat2v-1iEn67NFJH_AGA


 そして天海祐希さん。4年ぶりの“生(なま)”天海さんでした…実在しました…まさか同じ空間に居合わせてしまうなんて…“あなたが呼吸する空気を呼吸しにきました”(何度でも言いたいグランドホテルの大好きなセリフ)が叶うなんて夢のよう。いやもう今回も想像以上のかっこよさ…そのかっこよさは、元男役とか、ハンサムウーマンとか、世に出回ってる固定観念に収まるものじゃなくて、存在自体そのものがかっこいいんです。男らしいからとか女だからとか、そういうものじゃない。宝塚音楽学校受験時のエピソードとしても語り継がれている、植田先生の「お母さん、よくぞ産んでくださった」の気持ちですよ本当に!(笑)
 Twitterにも書いたけど、クライマックスのティム一派との乱闘シーンで自分は何をしていれば良いかと問うディカプリオに、「ただ私を見ていてほしい」と答えるジャンゴ、あのシーンほんとにすごかった… あの瞬間の、客席に視線を向けたジャンゴの瞳のきらめきは忘れたくないです。心を奪われました…とにかく圧倒された…生涯の推し…一生推す…みたいな気持ちが頭の中で溢れていました。いやほんとに痺れました。ティム一派と戦う時のジャンゴの立ち回りや、クリスとの決闘シーンもさることながら、あの、静寂で台詞を発する時の弾丸のような鋭さもたまらなくて…その美貌や佇まい、視線だけじゃなく、自由自在な“声”も本当に好きなんです。そして前述したとおり、色んな顔を持つ“母親像”を演じてくださったこと、本当に胸に来る。そんな天海さんと出会えて良かった。

 最後に、私の“天海さん沼”について気のすむまで語って終わります。沼の入り口は宝塚ではなく、学生の頃見ていた『女王の教室』で、センセーショナルな本編の衝撃を常に抱えていたのことも原因ではあるけど、笑わない阿久津真矢先生とエンディング(笑顔を見せてくれる天海さん)とのギャップに混乱の淵に落とされたことが沼の始まりだと思ってて…思春期に思いっきり揺さぶられてしまった感情が落ち着かぬうちに、新たなドラマに出演されて(『トップキャスター』や『キッチンウォーズ』)、恋愛に重きを置きすぎない、働く女性が主役の物語を新鮮に受け止めながら、初めて知る女性像にものすごい影響を受けて…決定打は『BOSS』だったと思う。『アマルフィ女神の報酬』で娘が失踪した母親役は確か夏休みに映画館で見て、人間の脆い部分もさらけ出してくださる姿に大感激してしまった思い出。ドラマや映画だけでなく、そしてテレビ番組などで拝見する飾らないお人柄の虜になっていったのでした。明日テストだ…でも天海さんの番組があるから頑張ろう、とか。受験やだな〜でも終わる頃には天海さんの新しいドラマが始まる!とか。いつも心に天海祐希さん。社会に出るまでずっと、“こんなに心身共に美しくて、強い大人がいるんだ…”という憧れの存在でした。今でも、どうしても気分が上がらないけど元気を出したい時には、細々とストックしてきた天海さんご出演の番組を見ています。これが特効薬。
 お金も時間もないから推し方がわからなかった学生時代を経て、もはや“会いに行く”という概念が自分の中で成り立たないほど遠くの世界で第一線で輝いてらっしゃる女優さんという位置付けの彼女に、社会人になってお金ができて時間もやりくりできるようになり、もはや趣味を超えてライフワークのように頻繁に舞台観劇をするようになった私が会いに行く。こんな幸せな巡り合わせがあって良いのかな。今でも舞台に立ってくださり本当に嬉しい。秋の『薔薇とサムライ2』もすごく楽しみ。この作品も、深い沼に突き落としてくれた1つ。お小遣いで買ったDVD BOXは宝物です。

 ある意味“この世の地獄”とも言えるこんなにハードな作品に、永遠の憧れの方が主演されていること。観劇できたことに、語り尽くせないほどの意義があると思ってる。この思い出を大切に閉じ込めておきたい。東京公演は終わってしまったけど、大阪公演も無事の完走を願っています!

【追記】noteの仕様が変わったのか、ハッシュタグが自動で出てきてびっくりした…!

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