台本を公開しながら更新して完成させてみる~『ランドセル』という台本~

 夜の荒野に2人の影が見える。少し離れた所に明かりがあるが、周囲を照らすには不十分な光量だ。1人は手を後ろに縛られ、口元を塞がれてて座らされている。ぐったりしているが意識があるのかは分からない。もう1人は立って囚われた方を監視している。時々周囲にも気を配っているようだ。何かの組織に所属している兵士と見える。

 辺りを確認した後、兵士は捕虜に近づき声をかける。

兵士 おい。
捕虜 う……。
兵士 しっ。
捕虜 うう……。
兵士 大丈夫か? 大丈夫だな?

 捕虜は小さく頷く。
 
兵士 こっち向ける?

 捕虜は首を振る。

兵士 動けないか。 

 兵士は捕虜の口布を外す。
 捕虜は意外そうな反応である。

兵士 静かに。静かにな。
捕虜 ……。
兵士 水いるか?
捕虜 ……いえ。
兵士 そうか。喋れる?
捕虜 はい。
兵士 良かった。

 捕虜は周囲をを見回すが夜の闇で少しも分からない。

兵士 無理だよこの暗い中じゃ。
捕虜 ……。
兵士 何やったって。

 兵士が周囲を見る。あたりに他の人間の気配はない。
 一通り確認してから兵士は捕虜に話しかける。

兵士 あんたと喋りたかったんだ。
捕虜 ……私?
兵士 そうだ。
捕虜 ……あなたは尋問官ですか?
兵士 いや、ただの見張り。

 捕虜は事態が呑み込めない。

兵士 災難だったな。
捕虜 まあ……。
兵士 あんたをどうするか迷ってる。
捕虜 運んだだけですか。
兵士 今日はな。
捕虜 これからどうなるんですか?
兵士 人によって変わる。
捕虜 ……なるほど。
兵士 安心して。しばらく「生徒」の兵士は来ないよ。
捕虜 え。あなたは?
兵士 オレは雇われなんだ。雇われで見張り。
捕虜 ……やはり人がいないんですね。
兵士 そうだ。よく分かるな。
捕虜 いえ、よく聞く話なんで。
兵士 どこもそうか。
捕虜 ええ。

 その時遠くから異様な音が聞こえてくる。
 すると、兵士は音の方を見るいなや急に暗がりに消えてしまった。

捕虜 え……ちょっと! どこに!

 ほどなくして何かが発射されたような音が遠くでする。
 少しして兵士が明かりの元に戻ってくる。

捕虜 何だったんです? 何で急に。
兵士 順番に話すよ。さっきのは新兵器の音。
捕虜 え!
兵士 あるんだよ新兵器、本当に。
捕虜 ……。
兵士 だからみんなここに来るんだろ?
捕虜 いや……さすがに無いと思っていたんで。
兵士 オレも無かったらいいなあって思ってる。
捕虜 ……あの。
兵士 うん?
捕虜 本当にただ喋りに来たのですか?
兵士 だからそうだよ。
捕虜 どうして? 
兵士 外人に会いに来たんだ!
捕虜 え。
兵士 神に感謝する。オレたちの言葉が分かる外人なんて。

 捕虜は急に焦りだす。

捕虜 待ってくれ! 早まるな。
兵士 は? 何が?
捕虜 大丈夫なのですか!
兵士 どうしたんだ。
捕虜 見張り中に私が死んでも。
兵士 待て待て。何でそうなる。
捕虜 今神に祈ったじゃないか。
兵士 あー……そうか。

 兵士は武器を持っていないことを示す。(武器をその場に捨てる案もあります、セリフが変わるのでどうしていくか)

兵士 ほら、武器無いよ。
捕虜 信じられるか。
兵士 大体なんであんたのそれを外すんだ。

 兵士は口布を指さす。

捕虜 ……。
兵士 しかもオレは「生徒」のメンバーじゃない……違う、メンバーだ。でも正規部隊じゃないんだ!
捕虜 ……!
兵士 嘘じゃないって。ここは「生徒」のキャンプだけど。
捕虜 ……。
兵士 頼むよ。信じて。暴行しない。やるならもっと最初にやってるって。
捕虜 ……わかりました。信じます。
兵士 脅かしてすまん。
捕虜 ……「生徒」は外国人を殺す時、神に感謝すると聞いています。
兵士 ……そうだよ。だから嫌いだよ、あいつら。
捕虜 ちょっと整理させてください。
兵士 いいよ。水飲む?
捕虜 いいです。
兵士 ごめんって。あ、ちょっと待て。

 兵士は周囲を見回す。

兵士 大丈夫だ。
捕虜 あなたは「生徒」のメンバーなんですか?
兵士 本当は違うと言いたいよ……けど、メンバーだな。
捕虜 従わされてるのか?
兵士 とも言い切れないんだ……その、仕事をもらっている。
捕虜 今、私を見張っているのは「生徒」の仕事?
兵士 そう。
捕虜 ……「生徒」はこの国で自由を認めている?
兵士 人による。
捕虜 人に……あなたは?
兵士 微妙だ……何とも言えない。
捕虜 そうですか。
兵士 これぐらいでいいか?
捕虜 ……まあ。
兵士 オレも聞きたい。あんたはどうして来たんだ?
捕虜 えっ……国連の仕事で。
兵士 国連? 凄いな! そりゃしっかりしてるよな。
捕虜 まあ。
兵士 何系だ?
捕虜 何系?
兵士 食糧とか、教育とか、色々あるじゃん。
捕虜 教育系の……。
兵士 凄いなあ。
捕虜 憎くないんですか?
兵士 何で?
捕虜 ……役に立たないから。
兵士 嫌いな人は多いね。「生徒」も、この国も。うちの国も。
捕虜 ……!
兵士 こういう時どうするか習ったのか?
捕虜 ……一応。
兵士 さっきはすごかった。こっちがビビったよ。怖くないの?
捕虜 怖いです! 怖いに決まってるでしょ。

 捕虜はいまだに縛られていることをアピールする。
 その時、また遠くから異様な音が聞こえてくる。
 兵士は再び暗がりに消える。

兵士 悪い!
捕虜 あ……。

 少しして発射音。捕虜は警戒して辺りを見回す。
 少しして兵士が明かりの元に戻ってくる。

兵士 まだ訓練中なんだ。
捕虜 ……こんな時間に?
兵士 そういう新兵器らしい。
捕虜 ……。
兵士 たまに的(まと)以外に着弾する。当たったら死ぬかもな。オレは絶対嫌だけど。
捕虜 ……。
兵士 捕虜の処刑にも使う。
捕虜 ……!
兵士 と聞いた事はない。
捕虜 え?
兵士 冗談だよ。
捕虜 ……冗談?
兵士 昨日からずっと窮屈だったろ?
捕虜 ふざけるな! もういい! 早く解放してくれ。
兵士 できるか。無茶言うな。
捕虜 おおい! 誰か!
兵士 あっ! 馬鹿!

 兵士は口布を捕虜に当て直す。
 捕虜がもがく。

捕虜 ぐぐぐぐぐ。
兵士 落ち着け。
捕虜 ぐぐぐ!
兵士 騒ぎ起こしてどうすんだ。
捕虜 ……。
兵士 落ち着けよ!
捕虜 ……。 
兵士 悪かった。雪を溶かした。
捕虜 ……。
兵士 外すよ。

 兵士は再び捕虜の口布を取った。

兵士 頼むよ。静かに。
捕虜 ……何なんだよお前。
兵士 何度も口をふさいですまん。
捕虜 別に。こんなの自己責任だよ。
兵士 嫌じゃないのか?

 兵士は口を手で覆うしぐさをする。

捕虜 知らんよ!
兵士 はぁ、やっぱ違うんだな外人は。
捕虜 ……嫌なのか?
兵士 嫌も何も恥だよ。え、知らないのか?
捕虜 初めて聞いた。
兵士 じゃオレたちだけか。

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