2023年に行った美術館・博物館・展覧会
● 感想はいつも更新している日記の抜粋と私的なメモ書きのミックスです。
● 写真はすべて筆者が撮影しました。作品の写真は展覧会内で撮影許可が出ているものです。
1月
MAN RAY and the WOMEN
マン・レイと女性たち
高校生のときTumblrで見て衝撃を受けた『贈り物』や『アングルのヴァイオリン』『眠る女(ソラリゼーション)』などを直接鑑賞できて嬉しかった。この日、実はあまり調子が良くなくて感受性をオープンにできなかった。あまり感想が書けず残念。写真はお土産のポストカード。
3月
日本二十六聖人記念館
私はプロテスタントだから聖母・聖人・聖遺物への崇敬はしないけど、同じキリスト者として彼らの信仰は胸に留めておきたいと素直に思った。とくに聖ルドビコ茨木のエピソードや聖トマス小崎が母親に宛てて書いた手紙(原文が読みたかったけどどこにもなかった。現物はトマスの父であり殉教者・聖ミゲル小崎の懐から血まみれの状態で見つかったらしい。手紙がきちんと母親に渡されたかは不明だが、内容はルイス・フロイス神父によってポルトガル語で記録され、その訳文がパネル展示されていた)は胸が痛くなった。
その他、聖遺物の展示が印象的だった。帽子などのアイテムはまだしも、指とか腕とか人体の一部は正直怖かった……(ミイラは平気なのに、切り離された人体の一部は怖いの不思議)。聖人崇敬をする教派ならではの文化だと思った。聖人崇敬をする教派の人に出会えたら色々聞いてみよう。
予想以上の見応えで結構お腹いっぱいになった。違う教派の異文化交流としての面白さもあった。今後も長崎や日本のキリスト教史をもっと学びたい。
4月
インターメディアテク開館十周年記念特別展示 極楽鳥
ヴァン・クリーフ&アーペルの宝飾専門学校レコールとの共同主催。「鳥の剥製──実物 / サイエンス」と「鳥をモチーフにした宝飾品──表現 / アート」のあいだに不思議な響き合いが生まれ、どちらにも美しさ・面白さを発見できる素晴らしい展示だった。剥製だけでなくデッサンや音声(会場BGMが鳥のさえずり)などさまざまな博物資料があり、鳥自体にも関心を持つことができた。
一つだけ欲を言うならば、ジュエリーを作る際のデザインスケッチが見たかった。どの部位をどの宝石で、どんなカットで表現するかを試行錯誤する過程をもっと知りたい。権利とか企業秘密とか、そういうアレが難しいのだろうか。
この展示、本当に入場無料でいいのか……? さらに入場者がもらえる無料パンフレットもボリュームたっぷりかつフルカラーで、どういう予算でやってるんだろうとやや不安になったww しかも写真撮影可能という大盤振る舞いに感謝感激であった。
インターメディアテクの常設展示も最高で、ついつい長居してしまった。こちらも写真撮影可能(古代エジプトのミイラのみ不可)。鉱物コーナーに宝石の原石や大きなダイヤモンドがあり、『極楽鳥』で見たジュエリーと関連付けながら楽しめた。
レオポルド美術館 エゴン・シーレ展
ウィーンが生んだ若き天才
エゴン・シーレは高校生のときTumblrかPinterestかで見つけて以来(1月に葉山へ見に行ったマン・レイも同じようなルートで出会った)、長いことスマホの待受画面にしていたほど大好きな画家だ。その後の私の興味関心や活動分野にも間違いなく大きく影響を与えた存在だが、何がそんなにも私の心を掴んだのか、正直あまり分かっていなかった。しかし今回の展示でその真相が分かり、私はエゴン・シーレを好きになるべくして好きになったのだと確信した。
一番胸を打たれたのはエゴン・シーレの死の床の写真だ。エゴン・シーレが遺した作品、詩、そして人生年表を一通り知った上でこの死写真を見たとき胸がいっぱいになった。涙が出るような、拍手したくなるような、身が引き締まるような、さまざまな思いが込み上げた。絵画で一番よかったのは『横たわる女』『背中向きの女性のトルソ』『肩掛けを羽織る裸婦、後ろ姿(『回心Ⅱ』の断片』)。
エゴン・シーレの他にも同時期に活躍した画家──グスタフ・クリムト、コロマン・モーザー(展示室内でも限定ショップのポストカードコーナーでも若い女性に人気だった)などの作品もあり、ウィーン分離派好きとしても嬉しい展示内容だった。
今回初めて知った画家のなかではオスカー・ココシュカが好きになった。クンストシャウのポスターが凄すぎて、展示室内でそこだけ異様な雰囲気になっていたww
平日午後に関わらず超満員で全然ゆっくり見れなかったことに加え、見たかった絵はほとんどなくて(その作品がレオポルド美術館コレクションじゃなかったのか、作品自体に何らかの問題──それこそモデルの年齢とか──があったのか)残念だったけど、エゴン・シーレの作品を生で見られたという点においては大満足だった。
5月
国立西洋美術館
科博に行くついでだったため「わーモネだ」くらいで終わってしまった。企画展の指輪展はマダムとそのお連れ合いを中心に盛況だった。犬のミニチュアール、デマントイドガーネットを使ったパンジーの指輪が可愛かった。
国立科学博物館
シーボルト来日200年、日本で初めて哺乳類研究の学会が発足してから100年を記念した企画展。
日本における哺乳類学の発展と標本の作製・保存技術の進歩に、科博がどう関わってきたかを紹介する内容だった。パネルの文章が分かりやすく、生物学や標本の知識がない私でも楽しむことができた。
一番印象に残ったのはキリンの本剥製(生前どんな姿で生きていたかをリアルに表現する目的で作られる)。サバンナ在住でもない限り生きたキリンは檻越しにしか見られないから、超至近距離で見れて嬉しかった。このキリンが上野に来たときのエピソードがなかなか面白かった。
常設展はとにかくこのフタバスズキリュウ! デカすぎてよく分からない。これに限らずクソデカ剥製&骨格標本がいっっっぱいあって正直目が回った。でも剥製の展示を見てから剥製を見ると知識を蓄えたぶん見方も広がってすごく楽しかった。私の巡回ルートが悪かったのか、なぜかハチ公は見つけられず悔しかった。
哺乳類のクソデカ剥製大集合コーナーで自撮りに苦戦するカップルがいたので、声をかけて写真を撮ってあげた。若き二人に幸あれ……。
ルーヴル美術館展 愛を描く
ルーヴル美術館は過去2回行ったけど2回ともちゃんと見られなかったから、ダイジェストでもじっくりと、しかも日本で見られるのは大変に助かった。ルーヴル展マジで年一くらいでやってほしい。
大学の美術史の授業(なお私の専攻は日本文学)で教えてもらったアトリビュートや隠喩表現の知識を存分に活かしながら鑑賞できて嬉しかった。分かる……分かるぞ……!
衝撃を受けたのはフラゴナール『かんぬき』、つい見入ってしまったのはアリ・シェフェール『ダンテとウェルギリウスの前に現れたフランチェスカ・ダ・リミニとパオロ・マラテスタの亡霊』。
エドワード・ゴーリーを巡る旅
高校生のときからずっと大好きなエドワード・ゴーリーの原画をついに拝見できた。一番驚いたのは作品のサイズがどれもポストカード〜B6弱くらいの小ささだったこと。
新しい発見として、ソファーがある展示室で初めて『音叉』を読んだ。ゴーリーにしては珍しく復讐の描写(主人公を疎んでいた家族に災難が降りかかる)があり興味深かった。ちなみに雑誌『Status』掲載時のタイトルは「シオーダ──世代間のずれ、疎外、絶望が親と子を忌まわしい振る舞いに追い込むが何も解決されない怪奇譚」とのこと。起きた不幸は不幸でしかなく復讐すら無意味と嘲笑うような、実にゴーリーらしいタイトルだ。
ゴーリーの作品に共通する不幸、不条理、報われなさは、ヴィクトリア期に流行した教訓譚(無垢な子どもが酷い目に遭うも、持ち前の明るやさ信仰心でどうにか頑張った末に報われる的な話系。小公女など)への皮肉が込められていたという。「いかなる子どもも不幸の治外法権下に置かない」というスタンスは残酷ではあるが、実際いじめや虐待に苦しむ “不幸な子ども” にとってはむしろ救いかもしれないと思った。
7月
甲斐荘楠音の全貌 絵画、演劇、映画を越境する個性
楠音の美的感性や身体性に共感する部分が多く、何を見ても没入できた。幽玄な絵画から煌びやかな時代劇の衣装まで表現が幅広く見ていて飽きなかった。とくに素晴らしかったのは未完の大作『畜生塚』。大きな屏風に描かれた女性たちは皆悲しみに満ちた顔をしているが、身体は肉々しく官能的で、むしろ生命力を感じる。畜生塚の史実(豊臣秀吉が養子の秀次を自害させ、その子や妻、愛妾など約30人も処刑し、秀次と共に三条河原に埋めた)の凄惨さと、作品から受ける謝肉祭レベルに豊かな肉感のギャップが凄すぎて圧倒された。しばらく言葉が出なかった。あまりにも良すぎて、普段図録は買わない派なのに今回は買ってしまった。
また予算オーバーで買えなかったが、楠音の本邦初公開・秘蔵スケッチ集も売っていた。プライベートでよく描いた男性モデルのスケッチが多数載せられており、女性モデルの作品に比べてより親密な雰囲気が漂っていた。世に知られる幽玄な美人画とはまったく違う味わいで興味深かった。
大道芸術館
いわゆる秘宝館。
あらゆる展示物が ███████ していて、右を向いたら ████ 左を向いたら ████ 、誰か座っているなと思ったら █████ 、最初はびっくりするけど見続けるとだんだん笑えてくる。2階・バースペースのカウンターは日活█マ█ポ██のポスターでぎっちり埋め尽くされていた。
今回はトークイベント目的での来訪だったが、そうでもないとなかなか行く機会はなかったと思う。楽しかったし、なんかやたら元気になった(?)。
物販スペースで可愛い刺繍ポーチと帝王切開ステッカーを買った。帝王切開で生まれたので……。
8月
私たちは何? ボーダーレスドールズ
大好きな中原淳一や四谷シモン、オリエント工業の作品を間近で見られて嬉しかった。初めて知った作家で印象的だったのは堀柳女。慰問人形は宿っている気がヤバすぎてちょっと気分が悪くなってしまった。ラインナップに文楽人形とかキャストドールがないのが意外だったけど、たしかに企画趣旨とはちょっとズレる気もするから、まぁそういうもんなのかも。
国立民俗博物館 국립민속박물관
一番面白かったのは屋外展示だった。伝統建築「韓屋」のみならず、70〜80年代ソウルの街並みを再現したゾーンもあり、歩くだけでワクワクした。母が小さい頃過ごしたソウルはこんな感じだったのかな、とか考えていた。
私の目当ては子供向け展示「月うさぎと野うさぎ」だったが、ミッションアタック形式のため予約必須かつマジで子供向けとのことで断念した。悔しすぎてワークブックだけ貰ってきた。内容としては、月うさぎと野うさぎが協力して薬草を摘む、みたいな感じ。多分……。
11月
横浜人形の家
予想だにせず大好きな人形作家・恋月姫の球体関節人形を見られて興奮した。しかも常設展示の期間限定コーナー&特別企画展で合計4体も見られた。足先の爪からまつ毛の一本まで言葉を失うほど美しく、しばらくガラスケースに張り付いていた。10余年来の念願が叶い感無量だった。
その他、チェコ在住の人形作家・林由未によるマリオネット、横浜の濱子さん(とそのそばに飾られていた手紙)、国宝の生人形などが印象的だった。
岡田美術館
結婚祝いにいただいた体験チケットを使って行った。通常料金3,000円(!?)を無料で見れちゃうんだから凄い。私設美術館とは思えない、いや私設美術館だからこそなのか……色んな意味でパワーを感じた。展示は器が中心だけど日本画も充実しており、歌麿、北斎、狩野派など有名どころがドンど見られて楽しかった。
春画コーナー入り口前でお母さんに待たされる男の子(推定4歳)。お母さんは物凄い目力&爆速で鑑賞していたww なんだかんだ私たちも本物の春画を見たのは初めてだったので嬉しかった。
111年目の中原淳一展
中原淳一は高校生の頃からずっと大好きで、ファッションのみならず思想的にも影響を受けているが、展示を見るのは初めてだった。家にある『『少女の友』創刊100周年記念号 明治・大正・昭和ベストセレクション』や吉屋信子『花物語』復刻版の表紙原画、デザインした浴衣や洋服の実物が見れて嬉しかった。戦後のザ・中原淳一な画風はもちろん、竹久夢二からの影響を匂わせる初期の画風にも改めて魅力を感じた。
松濤美術館で見た衝撃の人形とも再会できた。その他2体の男性の人形と、2体のフランス人形が展示されていたが、やはりあの人形が抜群の存在感を放っていた。中原淳一の私的な側面(具体的に言えば中原淳一と葦原邦子と高英男の関係)にもっとクローズアップしてほしかったが、時風が変わった今も難しいのだろうか?
12月
熱川バナナワニ園
グッズや看板のかわいいキャラクターデザインと古びた施設のギャップになんとも言えない哀愁を感じた。食虫植物、野生のラン、シダ植物、ブーゲンビリア、スイレンなど色々な温室あったが、名を冠するだけあってバナナの温室は圧倒的迫力だった。狭い空間で右から左からいろんな形の植物が迫ってくる感じがちょっと怖かった。一生分の温室を見た気がする……。
マナティが六畳間みたいなすごく狭い水槽に押し込められていて可哀想だった。ワニはだいたい寝ていた(園が平和で外敵がいないかららしい)。一番活発だったのはレッサーパンダ。その他ウーパールーパーやカエル、鳥、魚もいて充実していた。
カフェテリアや売店で買えるワニ大福がとても美味しかったので、行った際はぜひご賞味あれ。
お色気というよりはお下劣ホラーといった感じだった。『ロッキーホラーショー』からオシャレさを抜いてくだらなさを倍増させたみたいな(失礼か?)。もともと蝋人形とかマネキンが苦手だから「Oh♡」より「怖い」が勝ってしまった……。
春画ゾーンで夫が予想以上の興味を示していて、浮世絵・日本画好きとして嬉しかった。ラインナップは渓斎英泉と喜多川歌麿、画狂老人卍はなし。
蝋人形系は『金色夜叉』を題材にした展示が楽しかった。宮が貫一をフッて唯継に嫁いだのは、貫一の貫一が貧相だったからではないかという独特の仮説のもと作られていた。涙拭けよ……。
まとめ
行った施設の合計:16
そのうち初入館 :14
美術館:8
(施設名に美術またはアートが付く施設)
博物館:6
(美術館に分類したもの以外。動植物園を含む)
秘宝館:2
最高ランキング
1位:甲斐荘楠音の全貌
今年一番の衝撃的な出会い。予定外に図録を購入するほど心に刺さった。また見たい!
2位:111年目の中原淳一展
ついに中原淳一の原画を見られて嬉しかった。中原淳一のキャリアの始まりである人形も多くあり、服飾やイラスト以外の魅力も知れてよかった。
タイ:エドワード・ゴーリーを巡る旅
こちらも念願の原画を見られた喜びから2位タイにランクイン。バレエ関係の絵がたくさんあったのも私に需要がありすぎた(筆者は10年間バレエを習っていた)。
4位:極楽鳥
展示はさることながら無料配布物のクオリティが高すぎて戦慄。ホスピタリティ100点。
2023年は今までで一番たくさんの美術館・博物館・展覧会を見た。新しい発見や学びに心満たされ、充実した一年になったことに感謝。
来年も積極的に色々な展示を見に行きたい。
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