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【REVIEW】Thundercat『Drunk』

Thundercat Drunk

音楽にとって、ベース・サウンドは非常に重要なポジションを担っている。そのベースの音と動き次第で、そのベースの音・フレーズ・運指次第で、どんなタイプの音楽かが決まると言っても過言ではないほどだ。

本作品の楽曲は、80's AOR、またはフュージョン、ドナルド・フェイゲンやロッド・スチュアートのソロ作品を思い出すようなアーバン・ポップをどことなく思い出させてくれる。歌モノポップスの形を引き継ぎながら、ギター/ドラムス・ベースによる3すくみのジャム・セッションのパートが、なんのおかしさもなく自然と組み込まれている。

それらの中心にいるのはサンダー・キャットのベースラインにほかならない。ベースギターがもたらしてくれる、テクニカルな技巧や音色のもたらす影響度を、歌ものポップスの枠組みのなかでいかに主人公として表現できるか?。そんな彼の挑戦的な姿勢が、本作を強く印象深い作品へと昇華しているようにおもえる。

硬質ではなく柔和に、聴くものの耳にジワッと広がっていくサンダーキャットのベースは、おそらくこれまでのライブと同じ6弦ベースを使用し、ローとハイを少なめに、代わりにミドル帯をうまくブーストしたイコライジングが施されているように感じられる。ローパスフィルター系のエフェクターや、シンセサイザーへと音色変換するエフェクターをも使っているのかもしれない。そうやって生まれた独特の音色は、多彩多様なフレーズに導かれ、まさしく歌うように奏でられている。

3曲目「Uh Uh」でのベースラインは、時折差し込まれるスラップと高速フィンガリングによる超絶技巧に支えられたカウンターメロディ(主旋律に対するメロディ)であり、ドラムスの刻みと相まって非常に豊かなであり高速で回転するグルーヴの渦と化している、まさしく高速ジャム・セッションといえよう1曲だ。
直後の4曲目「Bus In These Streets」は、可愛らしいキーボードの音色と、ハイフレットのベースフレーズを独特の音色で響かせたふくよかなベースサウンドとが耳を奪うポップ・ソング。この2曲の振れ幅こそが、今作の異常さを端的に示してくれる。


そして5曲目「A Fan's Mail (Tron Song II)」のイントロは、テクニカル/フレージング/サウンドのどれをとっても非常にうまく調和した素晴らしいフレーズで、その後はこの部分を軸にして楽曲は進むことからして、まさに全ベースプレイヤーの憧れ・・・ベース・ヒーローとしてのサンダーキャットに聞き惚れる1曲といえよう。

ジャム・セッションは時として、本来テーマとしてあげられていたであろうメロディやフレーズからは関係のないようなフレーズを追いかけてしまいがちだが、今作におけるジャム・セッションは、そういったものとは無縁だ。

サンダーキャットによるベースラインと音色は、主旋律に対するカウンターメロディとして機能しつつ、そのふくよかな音色で聴くものを魅了する。それは70年代のブラック・ミュージックにおけるベースの名プレイヤーが少し違った筋道ではあろうが、この時代における新たなベース・ヒーローとして多くの人の耳に届く作品だろう。


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