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アスペルガーと脳の可塑性

ジョン・エルダー・ロビソン著『ひとの気持ちが聴こえたら』を読んだ。『アルジャーノンに花束を』のノンフィクション版という話もあって、興味を持ったのだが、アスペルガーの著者が、TMS(経頭蓋磁気刺激)による治療により、感情を理解できるようになるという話だ。

感情が理解できるということ

この本を読むまで、アスペルガー症候群の人について、ほとんど知らなかったのだが、著者もTMSの治療を受けるまで人の感情が全くわからない人だったようだ。それがTMSの治療を受けた当日、以前に聞いた音楽のライブの情景がまざまざと蘇って、その歌詞に感動している自分を発見する。しかし、TMSの治療により感情がわかるようになったことは、あまり良いことばかりではなかったようだ。例えば、これまで親友と思っていた友人が実は自分を利用しているだけで、バカにされていたことがわかったり、うつ病の妻の気持ちがよくわかるようになって、ー朝仕事に向かうのがとても辛くなったりする。しかもTMSの治療の効果は長続きしないのだが、それでも著者は治療を受けて良かったと言う。著者は例外的に長続きしているようだ。

アスペルガーと脳の可塑性

この本で一番興味深かったのは、アスペルガーの人の脳の方が、それ以外の人より脳の可塑性が高いということだ。TMSによる刺激により、脳の配線はあるのだが、それが使われていない箇所を使われるようにするというのが簡単に言うと治療になるだが、アスペルガーの患者の方がより反応が大きく、また効果の持続時間も長いようだ。さらにアスペルガーの患者でも人により効果が大きく違うようで、筆者は”内省力が強い”ので効果がより持続すると言われる。著者によれば、効果はすぐに表れる場合も、時間がたってから現れるものもあり、それは刺激により脳の全体の配線が徐々に変わっていくからだと説明される。ではアスペルガーの人の方が可塑性が高いとはどういうことだろうか。

アスペルガーは特殊な才能の裏返し?

ニュートンやアインシュタイン、ベートーベンなど、この本でも挙げられているがアスペルガーと言われている人の中にとんでもない才能を発揮した人がいる。著者も昔音楽の機材の調整の仕事をしていた際、機械の音により、どこを調整すればよいかが分かったという(機械の心が読めたと著者は言う)。そう考えると人類の中に少ない割合だが、アスペルガーの人がいるということは、その人たちの存在が人類には欠かせないからなのではと思ってしまう。著者もTMSの治療の際に、感情がわかることでこれまでに発揮できていた才能が消えてしまうのではということを恐れている。脳の回路の一部を変えることで、それまでに使えていた回路が変更されるかもしれない。もしそうならTMSの治療をアスペルガーの患者にすべて適用するのが良いことかどうかも考えなくてはならない。著者も最後に述べているが、自分が変化を受け入れられたのは歳を取って経験を積み重ねたからだと考えていて、若い人にすべて治療をするということには疑義を唱える。

脳について学ぶ

この本でアスペルガーの人に関する知識を得たのはもちろんだが、著者が凄く知的好奇心があるので、本や専門家に聞いて脳の仕組みを色々考えていく過程が詳しく語られるのもこの本の魅力だ。まだまだ脳の機能についてはわかっていないことも多いようなので興味の範囲を拡げてくれる良い本だった。またこの本をきっかけにアスペルガーの人への理解が拡がるとよいと思う。

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