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#32投球における下半身の役割とは?


こんにちは!

ベースボールプレーヤーMOTOです。
普段は渋谷区恵比寿でパーソナルジムの代表として働いています。
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野球もまだまだ現役としてプレーしていて、硬式、軟式両方に取り組んでいます。
今年は長年の目標だった140km/h台の球速を出せるようになりまだまだ成長中です。

今回は私が長年研究している投球フォームの中で、特に大切にしている
「下半身の役割について」をわかりやすく解説していきます。

軸脚について

軸脚は二塁方向へ地面を押すことで捕手方向への推進力を生み出します。
ピッチングフォームの教本や指導者はよく「並進運動」「体重移動」と表現するシーンです。

速いボールを投げるためには軸足で生み出す推進力を高めることが鍵となります。
助走をつけて投げた方が速いボールを投げられるのは推進力が高まるためです。
投球フォームではもちろん助走をすることは出来ないため、捕手方向に投げるにあたって後ろ側にある脚、すなわち軸脚の使い方が重要となります。

物体に力を加えると反対方向に同じ程度の力が生じます。
壁当てでもボールの勢いが強ければ強いほど速いボールが返ってきます。

これを「作用反作用の法則」と言います。
他だと手押し相撲を思い浮かべて貰えれば理解しやすいでしょうか?

助走が使えないピッチングではこの法則を利用するために地面に強い力を加える必要があります。地面に対して加えた力の反力のことを地面反力(床半力)と呼びますが、軸足には最大で体重の約1.5倍の力が加わると言われています。

軸脚の使い方としてはどのような心掛けが必要でしょうか?
最も重要と思うことは「45度フルダウン」と「パワーポジション」の形成です。
この話はこれまでの発信でも度々してきていますが、並進運動で重要なのは「捕手方向への推進力が最大になる動作」とならなけらばなりません。

軸脚は地面に対して倒しつつ膝は外を向いた股関節外旋位をキープ:画像 Google検索結果より引用

そのために体が回転運動をしないまま軸足をなるべく大きく倒す必要があります。
パワーポジションについては力を1番発揮しやすい形と理解いただければと思いますが、軸脚に対してもう一つポイントをあげるならば「股関節外旋・外転位」(膝が外に向いた状態)をキープすることが重要です。
下のグラフは並進運動時の軸脚の力学的仕事量です。

このグラフでは股関節外転の力が重要であることが読み取れます。
解剖学的には股関節内旋・内転位(膝が内に倒れた状態)では、股関節外転筋群が働かないため、股関節伸展のみで地面を押すことになるため推進力を獲得しづらくなります。

ざっくりとまとめると

  • 軸足は地面を押すことによって並進運動時の推進力を高めるべし

  • 助走を使えないため地面を強く押せる形を作ることが重要

  • 股関節外旋・外転位をキープする方が力を発揮しやすい

踏込脚について

踏込脚は並進運動で得た推進力を受け止め、上体の回旋速度を大きくする役割があります。こう説明するとややこしいですが急ブレーキをかけると捻転差が出来て上半身が勢いに乗って走りやすいと理解して貰えれば大丈夫です。

物体はその時点の状態を保とうとする性質があり、静止しているものは静止を続け、動いているものは動き続けようとします。

これを「慣性の法則」といいます。

並進運動で勢いよく捕手方向へ移動している力を踏込脚で受け止めながら、そのエネルギーを回転運動へと変換します。慣性の法則が働くため踏込脚の受け止めが出来ていれば意識せずとも軸足で生み出した推進力を回転運動へ繋げることが出来るはずです。
プロの投手の多くは上半身がリリースの際に捕手方向へ前傾しますが、推進力の大きさと急ブレーキの強さが形となって表れています。


軸足と同じく踏込脚の力学的仕事量のグラフを見てみましょう。

先ほどと違うのは負の仕事量が大きいことです。
正の仕事量はコンセントリック収縮、負の仕事量はエキセントリック収縮です。

急ブレーキに最も貢献しているのが股関節の伸展の力であることが読み取れます。
Youtubeチャンネル「フルタの方程式」で斉藤和巳選手が「左膝で止めてしまうと遠回りする〜ハムと臀筋で受ける瞬間がある」と表現していましたが、ハムと臀筋群は股関節伸展に重要な筋肉です。


また、肩関節最大外旋位(MER)からリリースにかけてはエキセントリック収縮からコンセントリック収縮へと切り替わって、股関節と膝関節の伸展動作が全員ではありませんが一部の速球タイプの投手に見られます。いわゆるキックバックです。

キックバックは踏込脚で地面を引くことによって起こり、腕を加速させる効果があると考えられます。イメージとしては腕相撲のさいに反対の腕で机を掴むのと同じです。ここでも重要なのは膝関節伸展筋群より股関節の伸展筋群となります。

中学生や高校生の投手の場合は踏込脚を着地した後に膝が前に出てしまう…膝関節が屈曲してしまう選手が非常に多いです。軸脚では体重の1.5倍の力がかかると紹介しましたが、踏込脚では2.3倍もの力が加わります。

ハムストリングや臀筋群の筋力を高めてあげることや股関節屈曲伸展動作(ヒップヒンジ)の技術を身につけることが重要です。野球選手が私のジムに来た場合、ルーマニアンデッドリフト、スクワット、デッドリフトを特に最優先で指導することが多いです。多くの選手が股関節の伸展筋力の重要性を過小評価しています。

あるいはステップ幅を調整することも一つの手段となるでしょう。
もちろん加速距離は長い方が推進力も高まりやすいはずですが、踏込脚で急ブレーキをかけられないとなると生み出したエネルギーを生かせず、下半身と体幹の連動性も発揮しづらくなってしまいます。自分にあったステップ幅があるはずですが、どうしても膝が前に出てしまうという選手はステップ幅をぜひ少し狭めてみてください。

ざっくりとまとめると

  • 踏込脚は着地したところで急ブレーキをかけることが重要

  • 膝関節で止めるのではなくハムストリングと臀筋(股関節伸展)で受けるべし

  • 止められない場合はステップ幅を見直すべし(目安は6~7歩分)

軸脚と踏込脚のどちらが重要か

野球情報者の中には先ほどの軸脚に1.5倍、踏込脚に2.3倍という数字を引き合いに出して「踏込脚の方が大事!」という拡大解釈している発信を見たことがあります。たしかに筋力的には踏込脚の方が発揮する最大の力は大きいと言えるかもしれませんが、実際の投球では筋力だけでボールに伝わるエネルギーが決まるわけではありません。

例えば、45度フルダウンを推奨するのは捕手方向に加速する水平成分と落下を防ぐ垂直成分がバランスよくなるポジションだからです。ここでは重力が関わります。逆に言えば軸足を地面に対して傾けたければ反対方向…二塁方向に地面を押す力を十分にかけなければ倒れません。しかし、ここがピッチングにおいて後天的に身につけようとすると非常に苦戦する部分です。

また、踏込脚着地時の上半身と下半身の捻転差(セパレション)が重視されるのは弾性力が発揮されやすくなるためです。

重心を最適な位置で扱うことによって重力、バネを上手に伸ばすことによって弾性力、地面を上手に押すことによって地面反力…というように投球には筋力以外の利用できる力がいくつもあります。

よって、軸脚と踏込脚のどちらが大事という議論は不毛でどちらも大切です。

理解しやすい例えとしては、どんなに馬鹿デカいエンジンを搭載して300km/hのスピードを出せる車だったとしてもブレーキが原付自転車と同じ性能ならそんなスピード怖くて出せませんし、F1カーに搭載するような性能の良いブレーキのある車だとしても20km/hしか出せない車ではその性能は活かせません。

さらにどデカいエンジン、性能の良いブレーキの搭載されたF1カーを運良く手に入れたとしても、通常の運転免許レベルではなくF1カーを操縦できるだけの技術が必要になります。

最近は球速を上げるための情報が多く手に入るようになり、たしかにスピードボールを投げれるアマチュアは増えましたが、陸上競技かと思うほど全力で投げて球速が出してるだけの選手がいて勿体なく感じます。せっかくF1カーを手に入れたなら、それを操るだけの技術を磨くべきです。

3/4フェーズ

下半身の役割についての記事を書く際に是非これは紹介したいなと思った内容が日本ハムのファームでチーフトレーナーを務めていた和田照茂さんが紹介していた「3/4フェーズ」です。

3/4フェーズとはその名の通りプレートから踏込脚の着地点を4分割し、その3/4を過ぎた地点のことです。踵先行タイプは爪先が、爪先先行タイプは踵が3/4のラインを過ぎた時の画像で評価します。

3/4フェーズで開いていない投手は、軸脚へのタメが出来、非投球側の腹斜筋を伝えるので、上体が突っ込みません。具体的にはステップ脚側(踏込脚)の股関節の内旋角度を可能にする柔軟性と、タメをつくる軸足の内転筋の強さが非常に重要です。
Baseball  Clinic 2020.2の記事より引用

以前から「くの字ステップ」の有効性には疑問を投げかけてきましたが、くの字ステップを使える選手はこの3/4フェーズでの身体の開きを抑えることが上手です。
ただし、股関節の内旋可動域…内に絞る柔軟性が充分でない場合はくの字ステップは個人の身体に合わない動きの可能性が高く、軸脚を地面に対して倒す動きが難しくなると考えています。

そのため、「くの字ステップ」を使えないタイプの選手の場合はより、開きを抑えつつ開脚をしていくために、我慢に使う内転筋の強さ…あるいは並進速度を上げることによって開く前に並進運動を完了する能力が必要です。

理想は空中で上半身が横向きのまま、下半身は開脚が決まっている状態です。
とはいえ、これがなかなか難しいのでまずは3/4フェーズを切り取って記録してみて、少しずつプロのような形になることを目指してみると良いでしょう。

プロの選手はこの開きを抑える技術が非常に高い…/画像:Google検索結果より引用

プロの選手全員とは言いませんが、このように脚を着く直前のシーンまで上半身は開かず、足は綺麗な開脚状態となっているのを見るととんでもない差を感じます。

トレーニング・練習について

さて、ここまで投球フォームを中心とした観点で下半身の役割について考察してきましたが、ここからはより実践力に移すためにトレーニングと練習方法の話をしていきましょう。

改めて先ほども出した下半身の各関節における力学的仕事量のグラフです。
軽く触れましたが、軸脚は股関節の外転、伸展、膝関節伸展、足関節底屈の仕事量が大きく筋収縮はコンセントリックがメインです。対して踏込脚は股関節の外転、伸展の動きが大きく筋収縮はエキセントリックがメインとなっています。

難しい言葉は別に覚える必要ありませんが、ざっくりと
軸脚はプッシュする力、踏込脚は受け止める力が必要と認識してください。

並進運動は横向きで行いますので、サイドランジの地面を押し込むシーン、他は短距離ダッシュで地面を押すシーン、サイドシャッフルの地面を押すシーンがトレーニングの中では軸脚の筋活動に類似した動作となります。

踏込動作はつま先の向きが正面となるので、ジャンプの着地シーン、フロントランジの着地シーン、スクワットのボトムに向かうシーンが踏込脚の筋活動に似た動作となります。

特にサイドランジはコンセントリック、エキセントリックの動き両方の要素が入り両者に共通する股関節外転、伸展動作が入るため投手に積極的に取り組んでもらいたいトレーニングの一つとなります。

ただし、勘違いしないでもらいたいのは私はトレーニングが野球の動作に近ければ近いほど良いと思っているわけではありません。野球の動きに近いトレーングを行おうとすれば、おのずと扱える重量は軽くなり筋肉に対しての刺激は弱まる可能性が高いです。

どこの筋肉が野球で使われるのか知識として頭に入れつつ、クリーン、スナッチ、スクワット、デッドリフトのような高負荷のかかる基本種目に取り組んで最大筋力をあげつつ、野球の動作に昇華するためのトレーニングにも取り組むべきと考えています。

何をすべきかは個々人の課題やレベルにも大きく左右されるため、ここでは具体的にこうしろというようなプログラムは書けません。
もし、気になるようであればSTRENGTH&STRETCHに来ていただければ、レベル課題を見て個人に向けたトレーニングプログラムを作成します。

まとめ

  • 軸脚の役割は推進力をフォームに与えること
    踏込脚の役割はハム・臀部で急ブレーキをかけること

  • 軸脚1.5倍、踏込脚2.3倍の力が加わるがどちらも同じくらい重要

  • 軸脚はプッシュする力、踏込脚は受け止める力発揮と認識しておく

  • トレーニングは野球の動きに近づければOKというほど単純ではない

はい、というわけで今回は投球フォームの下半身の役割について解説してきました。なるべく分かりやすい表現で説明したつもりですが、もし分からないことがあれば、Twitterの投稿のリプに書き込んでください。

今後も野球上達の役に立つ発信もマイペースに行なっていきます。

では、また。

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