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#003 突然に下半身不随宣告された息子。すところどっこい疾風記〜息子とともに駆け抜けた23年間の記憶〜

新車の前で鼻を膨らますお二人

追憶
2021年4月


今日は待ちに待った納車日だ。
実は1ヶ月前にそれまで乗っていた中古車が寿命を迎え、急遽ディーラーで新車購入を決断!といっても初の軽自動車。積載量やトルク特性こそ前のクルマには劣るけれども、何より新車だ。それも最上級のグレードにオプショナルパーツもゴテゴテ付けまくった。
こんな時に同行するのは当然シンだ。最近は色気づき
「あー人生めんどくせ〜。」
などとほざくがこんなイベントは大好物だ。

納車手続きの間、ディーラー内のお洒落な本棚にあった
唯一の漫画、クッキングパパを片手にサービスでもらったメロンソーダのコップを持ち、こちらに戻ってきた。
どこに行っても楽しむ奴だ。そして大人の会話に参加する。

「…それと最近のクルマは運転中テレビの画面は表示されません。」
「なんかクルマの用品店とかで配線いじってくれるって。」
「ウチのディーラーではご遠慮いただいています。」
「えっテレビ観れへんの?」
「ここのお店は禁止らしいよ。」
「…そっかぁ、ほな分かった。それの方がええわ。運転中は危ないしな。」
「旅行中にDVDとかも観れんで?」
「…えっ?あぁ…しゃあないやろ。そんなん観いひんし。」
めっちゃ観てるやん。
「音楽かけよか、そんときは。iphoneから曲流せるで。」
「ふーん。」
左上に目線を動かしながら口元が不敵に笑っている。

この一言に食いついた。


その後、

二人で出かけると、シンの大好きなスーパー戦隊全主題歌集や仮面ライダー50周年歌集などが永遠に流れることになる。

♫レースキューソールジャー!もーっとつーよくーっ!♫
おかげでボクはほぼ全ての曲を憶え二人で一緒に唄うことになる。



どこに行っても顔ハメパネル!


5月のある晴れた日の平日。

今日は男三人、ボクと長男のトモ、次男のシンで
京都の南丹市にある日吉ダム直下に位置する新しいキャンプ場の視察だ。

新車は快適でスムーズに有料道路を走る。

車内ではトモがスマホから飛ばしたK-POPが流れる。

シンは何も言わず車窓を楽しんでいた。
実は戦隊ものの曲をかけたいのだが、お兄ちゃんには案外逆らわない。
どうせ帰路はトモが爆睡するのでその機会をうずうずと待っているのだ。

1時間ほどで目的地に到着。

かなりきれいな複合施設だ。
駐車場の前に建つウエルカムプラザにはお土産物やレストラン。

お洒落な連絡橋を渡ると日吉ダムの直下に芝生広場が広がる。

色鮮やかな芝生と青空のコントラストが眩しい。

日吉ダムから流れる桂川の岸辺で腰を落ち着かせる。

併設する温水プールの棟ではひとけがかなりあった。

ただ平日のため芝生広場に広がるキャンプ場は誰一人シートを拡げてくつろいでいる人はいなかった。

唐突に
「…何時頃帰るん?」
トモがつぶやく。同調したシンが
「…はよ帰ろか。」

行きの道中に買った弁当すら拡げていない。
お茶を沸かそうとコンパクトバーナーとミニテーブル、コッヘルを出そうとすると
「あっお茶あるし、ええで。」
とシンに言われる。

二人とも誰もいないだだっ広い芝生を前に意気消沈だ。
バーベキューで賑わうキャンプ場をイメージしてきたのだろうが
今日は平日です。
そんなことがあろうものか!

悔しいのでゆっくりお弁当を味わい、周辺の施設をチェックして
ウエルカムプラザに戻る。

二人はそこそこいる観光客に混じり、お土産屋を物色。
トモはソフトクリーム、シンは懐かしいボトルのコーラを買った。

外に出るとトモはお決まりのトイレタイム。
大体どこに行ってもマーキングのようにトイレへ行く。
さすがの慎重派である。

シンは入口で顔ハメ看板を見つけた。
本物の単車の前部が付いたライダー仕様だ。

顔ハメから顔を出すとチョイチョイと手を振る。
なんや撮るんかい!

あとで写真を確認すると笑顔だった。
どんなところでも楽しんでくれるので嬉しいのだ。

その後、道の駅などを物色し、(ここでもトモはマーキング)帰路につく。
5分もたたないうちにトモが爆睡。

待ってましたとばかりにシンはお気に入りの戦隊ものの曲をかける。
さっき買ったコーラの瓶をマイク代わりに。

調子の外れたシンの歌声を聞きながら、
ボクは気分良く家路に向かうのだった。

♫たえまなく永遠を 時計が刻むなら
どれだけの瞬間を 数えてゆくのだろう♫


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