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#004 突然に下半身不随宣告された息子。すところどっこい疾風記〜息子とともに駆け抜けた23年間の記憶〜

追憶
2021年1月


新大阪の駅の改札内にあるお弁当屋さんで目当てのものを見つけた。
「神戸牛ロースステーキ弁当」だ!
そして食後のデザートとしてスタバのキャラメルフラペチーノ。
時刻は朝の6時30分。
これから二人は特急サンダーバードで福井駅に向かうのだ。

列車内で食べる朝食としてはかなりボリューミーだ。しかしシンは旅行中の食事にはかなりこだわっている。前日からネット検索し、吟味していたメニューに満足していた。二人の会話も弾む。だいぶしっかりしてきたが、二人でいるときの会話はここ10数年ひとつも変わらない。そしてリュックを膝に抱えて中の荷物を確認している。リュックの中にはこの旅行の最大の目的なものために忍ばせたスーパー戦隊キョウリュウジャーの変身アイテムが入れてあった。スイッチを入れて電源を確認すると、大きな操作音とともにサンバのリズムが鳴り響く。
「ガブリッチョッ!」シンが慌ててスイッチを切る。車窓に目を向けてなにごともなかったような顔をする。
「変身ポーズは?」
「やかましわ!」
相変わらず言葉が悪い。


シンは予定より1ヶ月ほど早く生まれた。
NICU(新生児集中治療室)で小さい身体に管をたくさんつながれ、24時間モニタされながらスターシップの生命維持装置付きカプセルのような容器のなかで2週間ほど過ごすことになる。

その間、身体に黄疸症状が現れて血液を入れ替えたり、毎日病室から通う母親からの授乳でも飲む力が弱く一回にわずか5ccほどしか飲めなかった。
そのうちに身体の数カ所茶色いシミが。
先生より
「カフェオレ斑」というシミが認められると。
「どうやらこれはレックリングハウゼン病の疑いがあります。」
初めて聞く病名だ。


レックリングハウゼン病とは身体にてきたカフェオレ斑が思春期を迎える頃には全身に拡がりその一つ一つが肥大し、小さいコブのように成長する。この現象は神経が通う至る所に発生し、体内のあらゆる箇所にも現れる。
要は目視できない箇所にもできるということだ。日本名は神経繊維種症という。その小さなコブは徐々に大きくなり、大きいものではソフトボールほどの大きさになる可能性もあるという。遺伝子レベルの病気で治療法はまだ発見されておらず、そのため難病指定の病気だ。それだけでは死亡率もさほど高くない。ただそのコブ自体があらゆる神経にできる可能性があるため、視神経や脳神経、脊髄を通る神経にできると切除することは困難になる。今後、月に一回身体を診てもらうことになる。

それでも人間というものは少しずつでも成長する。
幼稚園に上がるまでに、熱性痙攣で二度救急車に乗り、川崎病でも入院した。その頃には当初5〜6個ほどであったカフェオレ斑は小さい身体に数十箇所発生していた。また3歳児検査の結果、発達障害の疑いと言われ、再検査をするようにと伝えられた。出産時の栄養不足から来る発達障害。

病気の総合商社や!(古っ)


とはいえ、シンは彼なりに成長し、幼稚園に上がる頃には立派なクソ生意気な子供に育った。誰に似たのか、どこで憶えたのか、とにかく口が悪い。
そして彼のキャラクターづけには欠かせない特徴的なガラガラ声。
少しかすれたガラガラ声は口悪い物言いにブーストをかける。
成長の過程で心配ばかりであったシンに対してボクたち夫婦は、
応戦するために今までにはない怒声で対応した。

ところで長男である。
愛くるしくおちゃらけが得意だったトモ。
いつも笑顔で人懐っこい子だった。
生まれたとき、たくさんの朋友といえる友人に恵まれる様にトモと名付けた。二文字にしたのは、あだ名では無く誰からも気軽に名前を呼んでもらえる様にと二人で考えた。28年後、望んだとおりに友に恵まれ、年齢に関係なく名前でトモと呼んでもらっているようだ。

シンが生まれ、
何度も救急車で運ばれ、生死を彷徨う弟をみるにつれ、不安がつのり恐ろしいほど控えめな性格に変格した。いつもシンのことが心配で、様子を伺っているうちに、決して前には出ず、いつも家族を後ろから支えてくれる存在になった。フワフワしているようで実はしっかりしている。ただ、争いが苦手で自分と関係の無いことでも、それがたとえ小学校のクラス内で起きたもめ事でも、心がざわざわして落ち着かない。それが今でも続いているのはある意味平和主義者とでも言うか、なんというか…。


と、ここで列車内での朝食後にお話しはいったん戻そう。

シンがリュックの整理をしている間に席を立った。

トイレから戻るとシンが呆然と立ちすくんでいる。
慌てて駆け寄ると両手を胸の前で組み、爪をいじっている。
よく見るとスタバのキャラメルフラペチーノが床にぶちまけられている。
そこにしゃがんでいる車掌さん。

涙目で爪をカリカリする仕草は緊張したときのポーズだ。

車掌さんに頭を下げ謝るとシンがボクの方を見る。
「どないしよ。」
「…大丈夫。車掌さんにお礼いい。」
「どうもすみません。ありがとうございます。」
失敗はよくするが、その時の悲しい気持ちを身体全体、顔中使って表すので
分かり易すぎる。身内以外は事情を知らないので戸惑う方も多い。
身体の大きさと発する言葉のアンバランスさに違和感をもたれることもよくある。

シンにキャッチフレーズをつけるとしたら、
「身体は大人、心の中は子供、その名は…名探偵…」てなことになるのだろう。

床を拭き終わった車掌さんは
「大丈夫ですよ。もう終わりました。」
「ありがとうございました。」
深く頭を下げるシンに絵画をで立ち去る車掌さん。

これもか…。

手足のしびれが無意識に作用していたのかもしれない。



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