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白い猫の話

今日は実家に行って、風通しをしてきました。

去年の末、母が亡くなって以来誰も住んでいなかったので、風を入れておきたかったからです。今年はよく雨が降ったし、誰も住んでいない家は湿気で痛むと聞いたからです。

カーテンを開けて家中の窓を開け放ちました。倉庫の扉も開けて、わずかに残っている荷物の段ボールにも、空気をあてます。

庭を見るといつのまにかまた木が大きくなっていて、あーまた刈らなくてはとぼんやり眺めていました。

そうだ、郵便受けもチラシが入らないように細工が必要だなと思い、その辺にある大きめの石ころを探しました。あの石がいいなと近づいて、ふと顔をあげると、至近距離に白い猫がいて、驚くました。この辺は昔と違ってもう野良猫は滅多にいないのですが。

目があった瞬間、ドキッとしましたが、猫の方は驚いたそぶりもせず、じっとそこにたたずんでいます。私も地面に腰をおろし、白い猫との時間を楽しむことにしました。

年末、母がもうだめかもしれないと連絡を受けた時、動転する気をなだめながら実家に車を飛ばした日も、家の近所で大きな白い猫が車の前にひらりと現れました。道をふさがれ驚く私に、何か言いたそうに猫はその場を動きませんでした。落ち着いてじっとこちらを見て、別れがたそうな優しい表情でした。

その瞬間、私はなぜか、ああもう母は亡くなったのだと確信したのです。そして涙が止まらなくなりました。

今日も白い猫が目の前に現れ、私をじっと見ていました。ご飯をねだるでもなく、撫でて欲しいとも言わず、ただそばにいました。暖かい日差しが注ぐ庭で、父が植えた木々が風に揺れる中で、猫と過ごしました。そして窓を閉めて家をあとにしました。

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