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SZAのキャリアを紐解く デビューから「SOS」までの軌跡


子供時代と音楽的影響

SZA(本名:ソラン・イマーニ・ロウ)は1989年11月8日、ミズーリ州セントルイスで生まれました。父親はCNNでエグゼクティブプロデューサーとして働いており、これはニュースや番組制作の全体を管理する重要な役職です。母親は医療教育会社のエグゼクティブディレクターで、これは企業の経営や運営を担当する管理職です。SZAは幼少期から芸術に強く惹かれていて、短編小説や詩を書くことに夢中になったり、学校の合唱団で歌のレッスンを受けるなど、音楽にも早くから関心を持っていたそうです。

SZAの家庭環境は音楽的に非常に恵まれていました。彼女の両親は、The Doors、ジャニス・ジョプリン、Wu-Tang Clanなど、多様なジャンルの音楽を彼女に紹介しました。また、彼女の4人の年上の姉妹も、ローリン・ヒル、エラ・フィッツジェラルド、フレッド・ハモンドといったアーティストを聞かせることで、SZAの音楽的嗜好に影響を与えたそうです。これらの思春期に聞いていた音楽影響が、SZAの音楽スタイルの基盤となりました​ ​。

2008年に高校を卒業した後、SZAは3つの異なる大学に通い、最終的にデラウェア州立大学で海洋生物学を学ぶことを決めました。しかし、SZAは頻繁にアルコールを飲み、マリファナを吸うなどして複数の科目に不合格となり、最終学期で中退しました。その後、SZAはストリップクラブでバーテンダーをしながら、精神的な健康問題や両親との関係に苦しんでいました。デラウェア州立大学を離れた後、彼女はニューヨーク市のファッション工科大学(FIT)で夏を過ごし、ファッションセンスを磨きました。彼女はファレル・ウィリアムスとNigoが創設したアパレルブランド「ビリオネア・ボーイズ・クラブ」でインターンをし、その後、ストリートウェアブランド「10.Deep」で働きました。また生活費を稼ぐために、空港の警備員でも働いたことがあります。

そんな生活を送っている中、SZAはソーシャルメディアを活用して音楽をシェアし、「Icarus」という別名でネオソウルのアンダーグラウンドシーンで注目を集め始めました。

初期のキャリア

「See.SZA.Run」


SZAは2012年に初のミックステープ「See.SZA.Run」をリリースし、これが彼女の音楽キャリアの出発点となりました。この作品と、続く2013年の「S」が、彼女の音楽スタイルを確立し、ファンベースを築くこととなりました。これらのEPは、SZAの初期の音楽的影響を反映しており、彼女がどのようにして独自のサウンドを形成したかを示しています。



TDEとの契約

SZAは2013年にTop Dawg Entertainment(TDE)と契約を結びました。これにより、彼女はTDE初の女性アーティストとしての地位を確立し、音楽業界での存在感を高めました。他のTDEアーティスト(例えば、ケンドリック・ラマー、スクールボーイ・Q)とのコラボレーションも増え、彼女の音楽的な幅が広がりました。

初のEP「Z」


2014年にリリースされたEP「Z」は、SZAの音楽キャリアにおいて重要な作品となりました。このEPで、SZAは音楽スタイルをさらに発展させ、広く認知されるきっかけとなりました。特に「Child's Play」や「Babylon」などのシングルは、独特なスタイルと才能が光っています。SZAは、この作品で初めてBillboard 200にランクインしました


ブレイクスルーアルバム「Ctrl」


アルバムの制作背景とテーマ

2017年にリリースされたSZAのデビューアルバム「Ctrl」は、彼女のキャリアにおける大きな転機となりました。このアルバムは、SZAが直面した個人的な問題や感情を深く掘り下げた作品であり、彼女の真摯な感情表現が特徴です。「Ctrl」は愛、失恋、セクシュアリティ、自尊心などのテーマを扱い、彼女のリアルな体験が反映されています。

SZAはこのアルバムを制作するにあたり、多くの楽曲を即興で作り上げました。彼女はスタジオでその瞬間の感情を捉え、即興で歌詞を作り上げることで、非常に生の感情を表現しています。彼女のレーベルであるTop Dawg Entertainmentは、SZAがどの曲をアルバムに収録するかを決めかねていたため、SZAのハードドライブを没収することもありました。最終的には約150〜200曲の中から選ばれた14曲がアルバムに収録されました​ 。

「Ctrl」の制作過程は、SZAの不安や自己疑念が大きく影響しました。彼女は、楽曲が自分にとって「つまらない」と感じた場合、その曲をすぐに捨ててしまうことがよくありました。このような試行錯誤を繰り返す中で、SZAは自身の感情や経験を率直に表現することに成功しました。


主要な楽曲

「Ctrl」には、「Love Galore」、「The Weekend」、「Broken Clocks」などのヒット曲が収録されています。

「Supermodel」
「Supermodel」は、SZAのアルバム『Ctrl』の中で特に感情的に生々しい曲の一つで、彼女の過去の恋愛経験を赤裸々に描いています。この曲は、SZAがかつての恋人に裏切られた経験を元にしており、自己否定や感情の乱れを歌っています。SZAは、恋人が「もっと美しい女性たち」のために自分を捨てたことを曲中で述べています。それは、自分の外見が原因で恋人に捨てられたという分析をしています。


「Love Galore」
「Love Galore」は落ち着いたバラードのようなR&Bトラックです。この曲は、SZAが短命の恋愛関係を振り返り、その関係が持つ問題点を探ります。彼女は、元恋人が他の女性と関係を持ちながらも、なぜ自分に接触してきたことについて疑問を持ち、その行動に対して後悔と怒りを感じている曲です。

Why you bother me when you know you don’t want me? Why you bother me when you know you got a woman? Why you hit me when you know you know better

あなたが私を求めていないのに、なぜ私を悩ませるの? あなたには他に女性がいるのに、なぜ私を悩ませるの? あなたがもっと良いことを知っているのに、なぜ私に連絡するの?

「Love Galore」

「The Weekend」
この曲は、SZAが既に彼女のいる男性と関係を持っていることについて歌っています。SZAはその関係が間違っていると分かっていて罪悪感を感じていますが、その彼と一緒にいたいという強い欲望があります。SZAはその男性との関係が性的関係であることを認めつつも、もっと深い関係を望んでいます。サビの部分では、その男性が他の女性とも性的関係をもっていることが明らかになり、SZAは自分が唯一の浮気相手ではないことを知って安心している歌詞になっています。

I mean I’m saying what kind of deal is two days? I need me at least ’bout four of them, more of them, more of you on me.

2日間の関係なんてどういうこと?少なくとも4日間、もっと多く、もっとあなたが欲しい

「The Weekend」

「Broken Clocks」
「Broken Clocks」は、SZAが辛い別れの後に感じた気持ちを表現した曲です。この曲は、R&Bとネオソウルの要素を取り入れており、少し暗めのトーンが特徴です。具体的にこの曲はB♭マイナーキーで書かれており、このキーはポピュラー音楽でよく使用されるキーの一つです。B♭マイナーは、そのメランコリックな響きがし、深い感情を呼び起こします。このキーは曲に感情的なトーンを与え、SZAの感情豊かな歌声と歌詞を一層引き立てています。

プロデューサーのThankGod4Cody(コーディ・フェイン)は、SZAの感情を最大限に引き出すために、シンプルながらも深みのあるサウンドを作り出しています。曲のアレンジはミニマルでありながら、リバーブやエコーなどのエフェクトを巧みに使用して空間的な広がりを持たせています。

All I got is these broken clocks. I ain’t got no time, just burning daylight
私が持っているのは壊れた時計だけ。時間がない、ただ日中を過ごしているだけ

「Broken Clocks」


アルバムの評価

「Ctrl」は批評家からも高く評価され、グラミー賞に5つのノミネートを受けました。アルバムはBillboard 200で3位にデビューし、60,000ユニット以上を売り上げました。この成功により、SZAは現代のR&Bシーンの主要なアーティストとしての地位を確立しました。


「Ctrl」リリース後から「SOS」までの間のSZAのコラボ楽曲


All the Stars(Kendrick Lamarとのコラボレーション)

「All the Stars」は、ケンドリック・ラマーとSZAのコラボレーション曲で、映画「ブラックパンサー」のサウンドトラックのリードシングルです。この曲は、愛、名声、野心といったテーマを扱っており、両アーティストがそれぞれの視点とスタイルを活かしています。

サウンド面では、ポップとエレクトロの要素が組み合わされており、どちらのアーティストにとっても珍しいスタイルですが、このトラックでは効果的に機能しています。プロデュースはSounwaveとAl Shuxが担当し、キャッチーなビートとアンセム的な要素が特徴的です。


Kiss Me More(Doja Catとのコラボレーション)

性的な魅力と親密さをテーマにした曲で、グラミー賞も受賞しました。サウンド面では、「Kiss Me More」はディスコとポップの影響を強く受けています。ミッドテンポのビートとキャッチーなメロディが特徴で、特にグルーヴィーなベースラインとギターが際立っています。



大傑作アルバム「SOS」


制作背景とテーマ

SZAのアルバム「SOS」は、2022年12月9日にリリースされました。このアルバムは、SZAの個人的な経験や内面的な成長を深く反映しており、特に自己愛、孤独、内省といったテーマが強く表現されています。制作の背景には、彼女が直面した多くの困難や成長の過程が色濃く反映されており、特にコロナ禍の影響を強く受けています。

コロナはSZAにとって大きな挑戦と機会の両方をもたらしました。パンデミック中、SZAは多くの時間を自宅で過ごし、内省の時間が増えました。これにより、SZAは自身の感情や経験を深く掘り下げる機会を得たのです。インタビューでSZAは「このパンデミックの期間、私は自分自身と向き合う時間がたくさんありました。それは孤独で不安定な時期でしたが、その中で多くのことを学びました」と語っています​ 。

アルバムの制作中、SZAはさまざまな個人的な困難に直面していました。彼女は自身のメンタルヘルスについてオープンに語り、その闘いがアルバム全体に反映されています。彼女は「私の心の中にある痛みや不安を音楽を通じて解放することができました。これらの感情を隠すのではなく、むしろそれを表現することで、他の人々も同じように感じることができると信じています」と述べています​​。

アルバムタイトル「SOS」は、SZAが感じた孤独感や助けを求める気持ちを表しています。SZAはこのタイトルについて「私が感じた孤独感とその中で見つけた自己愛の重要性を反映しています。私は自分自身を救うことができると信じていますし、そのメッセージをリスナーに伝えたかったのです」と説明しています。

制作の過程で、SZAは多くのコラボレーションを行い、様々な音楽スタイルを取り入れました。このコラボによって音楽的幅がより一層広がることとなりました。


主要な楽曲

1. Kill Bill
「Kill Bill」は、恋人への嫉妬と復讐心をテーマにした曲です。映画「キル・ビル」からインスパイアされたこの曲では、SZAが元恋人に対する激しい感情を表現しています。エレクトリックギターのリフが特徴で、SZAの情熱的なボーカルが際立っています。

I might kill my ex, not the best idea / His new girlfriend's next, how’d I get here?

元彼を殺しちゃうかも、あまりいいアイデアじゃないけど / 彼の新しい彼女も次に、どうしてこんなことになったの?

「Kill Bill」

この歌詞から、SZAの複雑な感情と理性的ではないが抑えられない衝動が読み取れます。SZAは、セラピストに他の男性がいることを教えられるほど自分が成熟していると述べながらも、依然として元恋人への愛情を抑えきれず、「一人でいるくらいなら刑務所にいる方がマシ」とまで言い切ります。


2. Good Days
「Good Days」は、未来への希望とポジティブな展望を描いた曲です。アコースティックギター、リッチなストリングス、フルート、シンセサイザーが融合した豊かなサウンドが特徴で、Jacob Collierのバックボーカルも加わっています。歌詞は、過去の苦痛を乗り越え、良い日々が来ることを信じる姿勢を描いており、SZAのポジティブなメッセージが込められています​ 。

Good day in my mind, safe to take a step out / Get some air now, let your edge out

心の中で良い日、外に一歩踏み出しても大丈夫 / 今すぐ空気を吸って、リラックスして

「Good Days」


3. Gone Girl
「Gone Girl」は、内省をテーマにしています。SZAの最も感情的なボーカルが特徴で、軽快なピアノとリッチなハーモニーが融合しています。歌詞には、パートナーに対して自分のニーズと境界を尊重するよう求める姿勢が描かれており、最終的には関係の終焉を受け入れる内容となっています。ムーディなインストゥルメンタルが、歌詞の切なさを引き立てています​。


4. Ghost in the Machine (feat. Phoebe Bridgers)
「Ghost in the Machine」は、現代社会の虚偽や表面的な価値観に対する不満をテーマにした曲です。この曲はSZAとPhoebe Bridgersが偽りのない人間関係と自己発見を求める姿を描いています。軽いエレクトリックギターとテクノサウンドが融合した独特の音楽体験を提供し、心の奥底にある孤独感と人間性の喪失への嘆きが歌詞の中で表現されています。

Can you distract me from all the disaster? / Can you touch on me and not call me after?

すべての災厄から私を気をそらしてくれる? / 触れた後に電話しないでくれる?

「Ghost in the Machine」


5. Snooze
「Snooze」は、夢のようなシンセサウンドとエコーがかったボーカルが特徴のスムーズな曲です。SZAが恋人との親密な繋がりを求める様子を描いており、歌詞にはSZAの愛と依存が反映されています。この曲も「Kill Bill」につぐ人気曲です。


アルバムの評価

SZAのアルバム「SOS」は、その感情の深さ、音楽的多様性、パーソナルなストーリーテリングにより、多くのリスナーと批評家から高く評価されています。このアルバムは、SZAのアーティストとしての成長と革新性を示す重要な作品となっており、2022年のベストアルバムの一つとして称賛されています。この歴史的評価SZAのアルバム「SOS」は、2023年改訂版のRolling Stone誌の「史上最高のアルバム500選」351位にランクインしています。

The Quietusは、SZAの歌詞が非常に詳細で、彼女の個人的な経験や感情を赤裸々に描いている点を評価しています。Pitchforkは、「SOS」を「自己反省と自己発見の旅を描いたアルバム」として評価し、SZAの個人的な経験を率直に歌い上げる姿勢がリスナーに強い共感を呼び起こしていると述べています。特に、「Kill Bill」や「Good Days」といった楽曲がアルバムのハイライトとして挙げられています。また、SZAが実験的なアプローチを取り入れ、多様な音楽スタイルを融合させている点も高く評価しています​。

ストリーミングサービスでも「SOS」に収録されている曲は2023年にはグローバルチャートに多くランクインしていました。特に「Kill Bill」はThe Weekndの「Starboy」と同じぐらい長く愛される楽曲となると思っています。



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