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Erykah Badu 『Baduizm』 徹底解説


Erykah Baduのデビューアルバム『Baduizm』は1997年2月11日にリリースされ、ネオソウルジャンルの中で画期的な作品として広く称賛されています。このアルバムは、Erykah Baduの独自のソウル、ジャズ、ヒップホップの融合を世界に紹介し、彼女を現代R&Bの重要な声として確立しました。本記事では、『Baduizm』のプロダクション、音楽スタイル、収録曲、批評的評価をの順に紹介していきます。



Erykah Badu、本名Erica Wrightはテキサス州ダラス出身のシンガーソングライターで、その独特の声と深い文化的ルーツへの繋がりで知られています。『Baduizm』のリリース前、Erykah Baduはライブパフォーマンスとデモテープを通じて徐々に注目を集めていました。彼女の才能はすぐに音楽業界で認められ、ユニークなアーティストとしての道を歩み始めました。Erykah Baduの音楽は、Billie HolidayやNina Simoneと比較されることが多く、そのジャズとソウルの要素が彼女のサウンドの核となっています。

プロダクションと音楽スタイル

『Baduizm』のプロダクションは、温かみのあるアナログサウンドとシンプルながらも洗練されたアレンジが特徴です。プロデューサーとして、Erykah Badu自身に加え、Madukwu ChinwahJaBorn Jamal、そしてかなり優れたドラマーのQuestloveが在籍するバンドThe Rootsが参加しています。これにより、ジャズ、ソウル、ヒップホップが見事に融合し、独特の音楽的風景が生まれました。音楽的にはErykah Baduの深みのあるメゾソプラノの声が中心となり、スムーズなビートとメロディアスなベースラインが調和しています。特に「Appletree」や「Otherside of the Game」などのトラックでは、シンプルなアレンジの中にも豊かな音楽性が感じられます。

Madukwu Chinwahはジャズとヒップホップの要素を取り入れたプロデューサーとして知られています。彼は、A Tribe Called Questのアルバム『Midnight Marauders』でプロデュースを担当し、そのリズミカルでメロディアスな要素が特徴です。他にもDe La Soulのアルバム『Stakes Is High』でもその才能を発揮し、リズムとメロディの融合を追求しました。

JaBorn Jamalはソウルフルなビートとグルーヴィなベースラインを得意とするプロデューサーです。彼はLauryn Hillのアルバム『The Miseducation of Lauryn Hill』で重要な役割を果たし、その独特のリズム感とメロディーラインが評価されました。また、D'Angeloのアルバム『Brown Sugar』でもプロデュースを担当し、ソウルとヒップホップの融合を実現しました。

収録曲

「Rimshot (Intro)」
アルバムの幕開けを飾る曲で、ジャズとヒップホップの要素が融合しています。リムショットとはドラムスティックがドラムヘッドとリムの両方に同時に当たる技法のことです。


「On & On」
Erykah Baduのスムーズなボーカルと、ジャズの要素を取り入れたサウンドが特徴です。この曲はErykah Baduのスピリチュアルな部分が歌詞の中に現れています。この曲はErykah Baduの代表曲でもあります

[Verse 1]
Oh my, my, my, I'm feeling high
ああ、なんて気持ちがいいんだろう
My money's gone, I'm all alone
お金はなくなって、ひとりぼっち
Too much to see
見るものが多すぎる
The world keeps turning
世界は回り続ける
Oh what a day, what a day, what a day
なんて日だろう
Peace and blessings manifest with every lesson learned
学ぶたびに平和と祝福が現れる
If your knowledge were your wealth, then it would be well-earned
知識が富なら、それは正当に得たもの
If we were made in his image, then call us by our names
私たちが神の姿に作られたなら、名前で呼んでくれ
Most intellects do not believe in God but they fear us just the same
多くの知識人は神を信じないが、それでも私たちを恐れる

[Chorus]
Oh, on and on and on and on
ずっと、ずっと続く
My cypher keeps moving like a rolling stone
私のサイファーは転がる石のように動き続ける
Oh, on and on and on and on
ずっと、夜明けまで続く
All night 'til the break of dawn
夜通し、夜明けまで
I go on and on and on and on
私はずっと続ける
My cypher keeps moving like a rolling stone
私のサイファーは転がる石のように動き続ける
Oh on and on and on and on
ずっと、ずっと続く
Goddammit, I'ma sing my song
くそ、私は自分の歌を歌う


「Appletree」
Erykah Baduはこの曲で自分自身を愛し、大切にすることの重要性を歌っています。歌詞の中で知識と知恵をリンゴの木の果実に例え、自分自身を偽ることなく、誠実である人々を友達として選ぶことの大切さを説いています。シンプルなアレンジとスムーズなボーカルによって歌詞のメッセージがすっと頭に入ってきます。

[Pre-Chorus]
See, I picks my friends like I pick my fruit
友達を選ぶのは果物を選ぶのと同じようにしている
My granny told me that when I was only a youth
それは私が若かった頃、祖母が教えてくれた
I don't walk around tryin' to be what I'm not
無理して他の誰かになろうとしない
I don't waste my time tryin' to get what you got
あなたのものを手に入れるために時間を無駄にしない
I work at pleasin' me 'cause I can't please you
あなたを喜ばせられないから、自分を喜ばせることに専念している
And that's why I do what I do
だから私は自分のやりたいことをやる
My soul flies free like a willow tree
私の魂は柳の木のように自由に飛んでいる
Doo wee, doo wee, doo wee

[Chorus]
And if you don't want to be down with me
もし私と一緒にいたくないなら
You don't want to pick from my apple tree
私のリンゴの木から果実を取らないで
And if you don't want to be down with me
もし私と一緒にいたくないなら
Then you don't want to pick from my apple tree
私のリンゴの木から果実を取らないで
And if you don't want to be down with me
もし私と一緒にいたくないなら
Then you don't want to pick from my apple tree
私のリンゴの木から果実を取らないで
And if you don't want to be down with me
もし私と一緒にいたくないなら
You just don't want to be down
ただ一緒にいたくないだけ


「Otherside of the Game」
社会問題と恋愛のジレンマをテーマにしたゆったりとした心地いいバラードです。Erykah Baduの控えめなボーカルが歌詞に注目するように促しているみたいです。実際この曲の歌詞は少し重めの内容になっています。

[Verse 2]
Now, me and baby got this situation
今、私と赤ちゃんにはこの状況がある
See, brother got this complex occupation
兄さんには複雑な仕事がある
And it ain't that he don't have education
教育を受けていないわけじゃない
'Cause I was right there at his graduation
彼の卒業式に私はいた
Now, I ain't sayin' that this life don't work
この生活が成り立たないと言っているわけじゃない
But, it's me and baby that he hurts
でも、彼が傷つけているのは私と赤ちゃん
Because I tell him right, he thinks I'm wrong
私が正しいことを言っても、彼は私が間違っていると思う
But I love him strong
でも私は彼を強く愛している
He gave me the life that I came to live
彼は私に生きるための人生を与えてくれた
Gave me the song that I came to give
私に与えるべき歌を与えてくれた
Pressure on me, but the seed has grown
プレッシャーがかかるけど、種は成長した
I can't make it on my own
私は一人ではやっていけない
Summer came around and the flowers bloomed
夏が来て花が咲いた
He became the sun, I became the moon
彼は太陽になり、私は月になった
Precious gifts that we both receive
私たち二人が受け取った貴重な贈り物
Or could this be make-believe?
それともこれは幻想かしら?


「Sometimes (Mix #9)」
Erykah Baduのソウルフルなボーカルと、ジャズの要素を取り入れたサウンドが特徴です。曲としてはかなり短めです。

[Verse]
Well, I came to the show I was picked to flow (Sometimes)
ショーに来て、即興で選ばれたんだ(時々ね)
Now I wanna know if you wanna go
君が行きたいかどうか知りたいんだ
To the studio bust a rhyme or two (Sometimes)
スタジオでライムを一つか二つ披露しよう(時々ね)
What you wanna do?
どうしたい?
What you wanna do?
どうしたい?
Bring your sack but I'm cool with that (Sometimes)
荷物を持ってきてくれても構わないよ(時々ね)
I got the fateless tag and a pimped out drag
私は運命に縛られないタグとカッコいい衣装がある
Got the song and it's on, it's on (Sometimes)
曲が準備できたら、それで始めよう(時々ね)
Got the studio rocked down all night long (Well)
スタジオを一晩中盛り上げたんだ(そうさ)


「Next Lifetime」
輪廻転生して来世での再会を願う気持ちを歌った曲です。ジャズやソウルの要素が絶妙にミックスされていて、特にサックスの音がたまらないです。他にもベースラインが曲全体をしっかりと支えていて、聞いているだけで安心感があります。

[Chorus]
Now what am I supposed to do
どうすればいいの
When I want you in my world
あなたを私の世界に迎えたいのに
How can I want you for myself
もう誰かのものなのに
When I'm already someone's girl?
どうしてあなたを求めてしまうの
Now what am I supposed to do
どうすればいいの
When I want you in my world
あなたを私の世界に迎えたいのに
How can I want you for myself
もう誰かのものなのに
When I'm already someone's girl?
どうしてあなたを求めてしまうの

I guess I'll see you next lifetime
次の人生で会いましょうか
No hard feelings
悪い感情はないよ
I guess I'll see you next lifetime
次の人生で会いましょう
I'm gonna be there
私はそこにいるつもりよ


「Afro (Freestyle Skit)」
短いインタールードトラックで、Erykah Baduの即興的な才能を楽しむことができます。このトラックでは、Erykah Baduのリラックスしたボーカルスタイルが際立っており、歌唱力が一層引き立っています。この曲はアルバム全体にユニークなアクセントを加える役割も果たしています。

歌詞にはWu-Tang Clanのコンサートに連れて行ってもらえなかったエピソードや、当時のポケベル文化が反映されています。90年代の時代背景やErykah Baduの個人的なエピソードを垣間見ることができます。

[Verse]
Well, you said you was gon' take me to see Wu-Tang, baby
Wu-Tangのコンサートに連れて行ってくれるって言ったよね、ベイビー
So I braided my hair
だから髪を編んだの
Well, yes, you did
そう、あなたは言ったの
You said you was gonna take me to see Wu-Tang, baby
Wu-Tangのコンサートに連れて行ってくれるって言ったよね、ベイビー
So I braided my hair, yes, I did
だから髪を編んだの、そう、編んだの
Cornrowed and everything, baby
全部コーンロウにしたの、ベイビー
Well, you changed your mind and said we wasn't goin'
でもあなたは気が変わって行かないって言った
But my momma saw you there, yes, she did
でも私の母があなたを見かけたの、そう、見かけたの
Check this out, one time
これを見て、一度だけ
Well, I be blowin' up yo' pager, daddy
あなたのポケベルを鳴らし続けたの、パパ
But you never call me back
でもあなたは決して折り返さなかった
Well, I be puttin' in 9-1-1, baby
911を何度も入れたの、ベイビー
But you never call me back, no, no
でもあなたは決して折り返さなかった
See, if you don't know how to use that pager, daddy
そのポケベルの使い方が分からないなら、パパ
I'm gonna take that ho back
それを返してもらうわ
Yes I will, you know I'll do it
そうするわ、分かってるでしょ


「Certainly」
葛藤が感じられる歌詞とともに、サウンド面ではMadukwu Chinwahのベースラインがひときわ際立っています。スライドやハンマリングオンの技術が、この曲に独特の滑らかさと流動感をもたらしています。

[Verse]
Who gave you permission to rearrange me
誰があなたに私を変えていいと言ったの?
Certainly not me
絶対に私じゃないわ
Who told you that it was alright to love me
誰があなたに私を愛していいと言ったの?
Certainly not me
絶対に私じゃないわ

I was not looking for no love affair, baby
恋愛なんて求めてなかったのに、ベイビー
And now you wanna fix me
今になって私を変えようとする
I was not looking for no love affair, papa
恋愛なんて求めてなかったのに、パパ
And now you want to mould me
今になって私を形作ろうとする
Was not looking for no love affair, baby
恋愛なんて求めてなかったのに、ベイビー
Now you wanna kiss me
今になって私にキスしたい
Was not looking for no love affair
恋愛なんて求めてなかったのに
And now you wanna control me
今になって私をコントロールしようとする
Hold me
抱きしめる


「4 Leaf Clover」
この曲は恋愛の希望と失望のテーマを描いた曲です。この曲の優れたところはリズミカルなビートとErykah Baduのソウルフルなボーカルが完璧にマッチしているところです。何回も同じフレーズを繰り返すため、思わず歌いたくなるようなキャッチー仕上がりになっています。

[Hook 1]
Touch a four leaf clover
四つ葉のクローバーに触れて
Maybe we'll get over
たぶん私たちは乗り越えられるかも
Try and love might come your way
試してみて、愛が君のもとに来るかも


「No Love」
Erykah Baduの「No Love」は、失恋の痛みと心の苦しみをテーマにした美しい楽曲です。揺さぶるようなボーカルが、感情をじっくりと伝えています。バックグラウンドにはジャズの要素を取り入れたピアノリフと、柔らかく滑らかなベースラインが流れています。

[Verse 1]
You can see straight through me
あなたには私の全てが見透かされている
Never thought you'd do me
あなたが私にこんなことをするなんて思わなかった
The way you do
あなたのやり方で
How can anyone be so cruel
どうしてそんなに残酷になれるの
When you know I love you, yes I do
私があなたを愛しているのを知っているのに、本当に愛しているのに
Misunderstood
誤解されて
Turned your back on me and left me lonely
私に背を向けて、孤独にさせた
I wish I could
できることなら
Open up my heart so you can know me
心を開いて、あなたに私を理解してもらいたい


「Drama」
人種関係、隔離、失業、世界的なインフレーション、教育の欠如などのテーマに触れています。テンポが172 BPMで、Aマイナーキーで構成されています。この曲のテンポは速めですが、Erykah Baduのボーカルと楽器の配置によって落ち着いたムードが保たれています。

[Pre-Hook]
I can't believe
信じられないよ
That we're still livin'
まだ生きているなんて
Oh, in this crazy crazy world
ああ、この狂った狂った世界で
That I'm still livin'
私がまだ生きているなんて


「Sometimes...」
この曲は心の葛藤と成長のテーマを描いた曲です。コーラスの一部ではリードボーカルが問いかけを行い、バックボーカルが応答する形式が取られています。

[Verse 1]
Sometimes, I don't love you anymore
時々、もうあなたを愛していないと感じる
Sometimes, I'm in love with you
時々、あなたに恋している
Sometimes, I think that I'm going mad
時々、自分が狂っていくように思う
Sometimes, I do
時々、本当にそうなる
Well

[Pre-Chorus]
Meanwhile, you been runnin' through my dome
その間、あなたは私の頭の中を駆け巡っている
Meanwhile, won't leave me alone
その間、私を一人にしてくれない
Ooh chile, why it got to be this way
ああ、どうしてこんな風になってしまったの
Ooh chile, gone on
ああ、もう行ってしまった

「Certainly (Flipped It)」
Erykah Baduの「Certainly (Flipped It)」は、オリジナルバージョンとは異なるファンキーでグルーヴィーなアレンジが施されています。ビートが強調され、リズムセクションが前面に出ることで、エネルギッシュな雰囲気が際立っています。これはプロデューサーのMadukwu Chinwahによるリミックスです。

「Rimshot (Outro)」
イントロの「Rimshot 」よりもパーカッシブな要素が強調されています。


こちらに全曲和訳を載せております。ぜひ確認してください。


評価と影響

『Baduizm』は1997年にリリースされると、瞬く間に音楽界の注目を集めました。批評家たちはErykah Baduの革新的なスタイル、詩的で深い歌詞、そして独特の音楽的アプローチに高い評価を与えました。このアルバムは彼女のメゾソプラノの声が持つ温かみと力強さを存分に引き出し、ソウル、ジャズ、ヒップホップが融合した新たな音楽の方向性を提示しました。

『Baduizm』は1998年のグラミー賞で最優秀R&Bアルバム賞を受賞し、Erykah Badu自身も最優秀女性R&Bボーカルパフォーマンス賞を獲得しました。これによりErykah Baduは一躍スターとなり、ネオソウルの女王としての地位を確立しました。アルバムはBillboard 200で初登場2位を記録し、アメリカ国内だけで300万枚以上の売り上げを達成しました。

このアルバムは、同時期の他のネオソウルアーティストにも大きな影響を与えました。Lauryn Hill、D'Angelo、Jill Scottなどが、Erykah Baduの革新的なサウンドに触発され、各々の作品にその影響を反映させています。また、のErykah Baduファッションやパフォーマンススタイルも多くのアーティストやファンにインスピレーションを与えてきました。



『Baduizm』をたくさん聞いた後は『Live』という1997年を聞くことをお勧めします。Erykah Baduのライブパフォーマンスはこのアルバムで「Afro (Freestyle Skit)」という楽曲で少しだけのぞかせた即興的な要素をより楽しむことができます。『Live』では、Baduのライブならではのエネルギーと観客との強い一体感が感じられます。特に「Tyrone」という楽曲がおすすめです。



『Live』 (1997年)


『Baduizm』のリリースから間もなく、Erykah Baduはライブアルバム『Live』をリリースしました。このアルバムは、彼女のエネルギッシュなライブパフォーマンスと、観客との強い一体感が納められています。特に「Tyrone」はスタジオ録音ではなくライブ録音がシングルとしてリリースされ、大ヒットしました。この曲はErykah Baduのユーモアとウィット、そして強いメッセージ性を示す代表的な曲となりました。




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