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職場で多用される言葉と、御前会議への道

同志Aからのお題:タイミング


ところ変われば言葉も変わる。

業界ならではの用語を含め、会社や職場によって、よく使われる言葉はさまざまだ。「テレコ」や「バーター」なんて言葉を口にしていたころが懐かしい。前の職場は新規プロジェクトへの「アサイン」「ジョイン」や「座組み」が大好物だったが、今の職場ではそれらの言葉を耳にしたことがない。代わりに、世の中の興味・関心が高まる「モーメント」を聞くことが多い。

先日、取引先の広告会社が、宣伝施策を検証して「次の“打ち手”を考えてきました」と新たなプランを出してきた。打ち手、打ち手の連呼に、ちょっと違和感が…。何かしらの対策のことなら「打つ手」ではなかろうか、対策を講じる人が「打ち手」なのでは、と思ったが、調べてみると誤った使い方ではあるものの、ビジネス用語として、打ち手=対策の意が勢力を拡大しているようだ。維新か。

提案書にウェブサイトの「オーバーホール」のことを「オーバーオール」と書く会社だから、お安い“誤用”の社風かも。メンテナンスはオーバーホールで、石ちゃんが着てるのがオーバーオールだよ。

まいうー方面から本筋に戻ろう。

10年ほど前に籍を置いていた会社では、トップに案件を説明して判断を仰ぐ「○○(役職名)にあてる」の使用頻度が高かった。権力の集中が、社内で多用される言葉にも表れていた。

例えば、ある大型プロジェクトでは「社長にあてる」会議の前に、社長抜きでリハーサルを行う習わしがあった。各部署からの報告に、鈍器のような雰囲気漂う副社長のチェックが入り、社長がよしとするであろう内容でない場合は、差し戻される。そうなると部署であらためてミーティングして報告を作り直し、それを「副社長にあてる」ことになる。

副社長は昼ごろ出社し、深夜まで打ち合わせの連続だったので、会議室の前で出待ちすることもしばしば。チャンスを逃すと、次の会議終わりまで待機するはめに。丑三つ時になることもあった。御前会議への道は長くて険しい。

この会社では「よきタイミングで」もよく使われた。古風でふんわりな抹茶ロールのような言い回し。周囲をよーく見渡し、ころ合いを計るのが常だった。

その後、社長は会長に、副社長は社長になった。会長は院政を敷き、業界でも大物として君臨していたが、このほど勇退。三顧の礼をもって、別の要職に迎えられた。「よきタイミングで」転身できたのだろうか。「ジョイン」した先で、どんな「打ち手」を繰り出すのか、かつてのダメ社員はひそかに注目している。


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