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ときに秩序は自由をもたらす。構成主義のデザイン

美大時代の卒制担当教授がキュレーションした展覧会『20世紀のポスター[図像と文字の風景]―ビジュアルコミュニケーションは可能か?』に行ってきた。1920-1990年代の構成主義と呼ばれるデザインのポスター展示だ。

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1910~20年代のヨーロッパで生じ、芸術・デザインに革新をもたらした“構成主義”は、特にビジュアルデザインの領域において、図像と文字を幾何学的・抽象的な融和のもとに構成しようとする特徴的な表現様式をもたらしました。エル・リシツキー、ヤン・チヒョルト、マックス・ビル、ヨゼフ・ミューラー゠ブロックマンなど、数々のアーティスト/デザイナーが時代を超えて共有したこの様式は、広くビジュアルデザインの可能性を拡張する試みとして発展を重ね、今日のビジュアルデザインの基盤を形成します。

展覧会HPより引用

学生のとき、大学構内でも見たポスターを久しぶりに見て懐かしくなった。しかも会場は目黒の庭園美術館。ちょうど構成主義初期の年代と重なるアールデコ様式の建築で、ぴったりの展示場所だった。

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会場や図録にも書いてあったが、街中に貼られていたポスターを美術館で鑑賞するのは不思議な体験だ。商業デザインの研究はその時代の空気を伝えてくれる。

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メアリー・ヴィエイラ《パンエア・ド・ブラジル航空 DC7C機/パンエア・ド・ブラジル》 1957年

極限まで情報をそぎ落としたシンプルなデザインは、当時の識字率の低さも影響しているそうだが、欧州での多様な言語の存在も理由のひとつだと思う。構成主義が特に隆盛を見せたスイスは公用語の多い国だ。字があまり読めない人や、他言語話者にも理解してもらうには、表現は端的であるべきだ。美術展覧会やコンサートなど、ハイコンテクストになりがちな商業ポスターでも、ユニバーサルデザインの考え方が読み取れる。優れたデザインはやはり、機能と美しさを両立していると感じた。

上図のポスターはなんと航空機の広告だ。中央の円は機体の頭を正面から見た形だろうか。文字・図ともに驚くほど少ない情報量だが、品質感と安定感が伝わってくる。


構成主義は簡単に言うと、グリッドに沿って要素を配置するデザイン様式だ。規則正しく引かれた直線がルールとなって、驚くほど自由な作品が生まれる。

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ジェイム・オジャース/エイプリル・グレイマン《カルアーツ/カリフォルニア芸術大学》 1977年

時代が下るにつれ写真や印刷技術が発展し、ポスターに掲載する情報も多くなっていった。はちゃめちゃに見えても、リズムがあり、どこかで調律が取れている。構成主義は究極のシンプルデザインから発展しているため、デザイナーの個性とポスターの広告媒体としての役割、そして産業社会の変遷が相互作用している様子が分かりやすい。

欧州といえば、私は3年前にイタリアに旅行したことがあるだけで、こんなにグラフィカルなポスターが街中に貼られていた景色がイメージできない。私の経験でその乏しい想像を補うなら、インターネットの黎明期だろうか。NTT開発の絵文字のように、限られた技術は自然と、無駄を省いた作品を生み出す。

一方で現代日本には膨大な文字列と、派手な写真やイラストの広告が溢れている。広告制作に携わる私が言うのも変だが、うるさい視界に日々うんざりする。前世紀の遠い異国の情景に思いを馳せるのも楽しいが、現実逃避ばかりしていられない。

去年から積ん読になっているグリッドシステムを読んで、たまには私もピッシピシのグリッドを引いてデザインしよう。一瞥で秩序が見えなくとも、美しく豊かなデザインができたらなと思う。


展覧会は今週末、4月11日(日)まで。見逃した方は、日曜美術館ばりのボリュームのギャラリートークを是非どうぞ(クオリティが高いので、もはやバーチャル鑑賞)。展示パンフレットや図録のダイアグラムや文字組も良い意味でイカれてる。さすが佐賀先生。


記事内の画像・動画はすべて庭園美術館公式HPより引用

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