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ドン引き。石岡瑛子展

『石岡瑛子 血が、汗が、涙がデザインできるか』を見るため、東京都現代美術館に行ってきた。

石岡瑛子(いしおかえいこ) 
1938年東京都生まれ。アートディレクター、デザイナー。東京藝術大学美術学部を卒業後、資生堂に入社。独立後もパルコ、角川書店などの数々の歴史的な広告を手がける。1980年代初頭に拠点をニューヨークに移し、映画、オペラ、サーカス、演劇、ミュージック・ビデオなど、多岐にわたる分野で活躍。マイルス・デイヴィス『TUTU』のジャケットデザインでグラミー賞受賞(1987)、映画『ドラキュラ』の衣装でアカデミー賞衣装デザイン賞受賞(1993)。2008年北京オリンピック開会式では衣装デザインを担当した。2012年逝去。
(展覧会公式HPより抜粋・引用)

予習として、映画『ドラキュラ』と『落下の王国』を見ていざ展覧会へ。

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展示は資生堂宣伝部時代から遺作の映画 『白雪姫と鏡の女王』まで、想像していた2倍のボリュームの大回顧展だった。会場には彼女のインタビュー音声が流れ続け、とにかく熱気に包まれた空間だった。

ヒロシマ・アピールズ

ひとつだけ作品をピックアップする。『ヒロシマ・アピールズ』とは毎年一人の有名グラフィックデザイナーが「ヒロシマの心」を国内外にアピールするポスター企画だ。大学時代の講義でこのシリーズを見たとき、一番衝撃を受けたのが石岡瑛子の作品(1990年)だった。

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画像引用元:https://totodo.jp/SHOP/PO-0063.html

世界一有名なネズミが目を覆っている。耳は正面から見たリトルボーイ(原子爆弾)にすら見える。

「暗い過去は忘れて、楽しいことだけ見ていればいいの?」

私はそんなメッセージを感じた。当然この作品はディズニー社から著作権侵害の申し立てがあり、ごく限定的にしか公開されなかった。主催している日本グラフィックデザイナー協会のHPでも、歴代制作者名簿に石岡の名前はない。

この展覧会でもお蔵入りになると思っていたので、本物が目に入ったときは鳥肌が立った。くさいものに蓋をしていては、何も進まない。

彼女の作品の中で、最も鮮烈に問題提起をしているデザインだと思う。

サバイブ

彼女の口癖だった言葉だ。今の私には「業界で生き残るにはとにかくバイタリティが必要だよね」と薄い共感でしか言語化できない。でも本当は「サバイブ」にどっしりとした重みを感じている。

何十年経っても力強く、色褪せないポスター。東洋的で華やかな映画衣装。赤字だらけの色校正紙。そして「無限に仕事していたい」と語る肉声。

もう尊敬を通り越してドン引きである。時代とか、女性であるとか、そういう説明はノイズにしかならない。

今まで誰も見たことがないデザインを、創作を。

ただそれだけの感情で組み上げられた作品を前にして、呆然としてしまった。純粋な熱意ほど人の心に刺さるものはない。

展覧会の後半、彼女の壮大な年譜を見ながら我が身を振り返ってみる。

…ずっと言い訳しながら生きてるな。

まぁいいか。人と比較して落ち込むのは時間の無駄だ。私は私。文句垂れながらでもサバイブしたもん勝ち、としておこう。

表紙画像引用元:展覧会公式HP
https://www.mot-art-museum.jp/exhibitions/eiko-ishioka/


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