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欧米企業と日系企業におけるブランド概念と中国。

こんにちは、グランドデザイン代表ディレクターの西です。
僕はブランドについて考える時間が長く、クライアントに向け欧米ブランド事例を想像しながら話すことも多いのですが、話しながら基本的な『ブランド定義の違い』から生まれる齟齬に気づく機会が多くあります。そこで、そろそろみんなで共通認識がもてないものかと思い、このnoteを書くことにしました。同業の方でそんなの分かっちゃいるけど自分でまとめるのは面倒という方。いくつか図も用意したので、クライアントへの説明に使っていただけたら幸いです。

メルセデスとトヨタの違い。

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僕が最初によく例に挙げるのは、メルセデスとトヨタの違いです。メルセデスベンツは、基本ベンツしか販売してません。数車種ありますがそれらはあくまでも商品で、名前はA Class、BClass、C Class、と車の大きさと排気量の違いで分類しているに過ぎません。それに対しトヨタは、AQUA、カローラ、アルファード、カムリ、プリウス、などなどざっと55種のブランドを持っています。
ここでの違いは『ブランドの定義』にあります。メルセデスにおいてのブランドは『企業』であるのに対し、トヨタにおいてのブランドは『商品』です。日本で戦後20世紀に大きくなった企業はほとんどがこの構造をしています。そしてこれはどちらがいい悪いの話じゃなく日本では『そう進化してきた』結果に過ぎないと思っています。

日用品と高級品の違い。

日本のようなブランド構造は欧米においても見られます。日用品の構造がそれです。例えばP&Gなんかは、ご存知のように多くの商品ブランドを持っていますね。ネットで調べると数百万の商品があるそうです。びっくりです。これはP&Gのブランドステートメントにもありますが、『必要とされていることと、出来ることを結びつけてきた』結果です。ここで分かるのは、P&Gは一般消費者のニーズを見ながらの商品開発に対し、メルセデスは高所得者を見ながらの商品開発の違いとみなして良いでしょう。歴史的にも欧米は日本に比べ所得格差が大きいことは誰もが知る通りですが、この日用品と高級品のブランド構造の違いは、そういった背景とも関係がありそうです。アップルやメルセデス的な構造だけがブランドじゃないのです。でもそれだけじゃ、日本とのブランド構造の違いを説明するには足りません。

世界における価値観の違い。

ここに濱口秀司さん作の秀逸な四象限があります。(ご存知の方は読み飛ばしてくださいね)『モノに対する態度の違い』という図です。

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縦軸に『more is better』『less is better』、横軸に『A or B=decide』『A and B=Balance』とします。こうしたときアメリカの価値観は『右上』ヨーロッパは『右下』に属します。それに対し中国は『左上』にあり、日本は『左下』にくるというモノです。
日本に住む我々はヨーロッパの国々と『less is more=少ない方がいいよね』という価値観では共感できますが、どちらか決めろと言われても決められません。どちらも良いところがあるからです。一方僕らは中国人と物事のバランスをとる=どっちもありだよね、という点では共感しあえても、彼らのもっと沢山欲しいという考えには共感できません。ここ、頷ける方も多いのではないでしょうか?また、この図の中で斜め対抗軸にある国の関係はポジティブに働けば『ミステリアスな魅力』、ネガティブに働けば『断絶』を起こす関係です。それと、右側は一神教の社会であり、左側は多神教がベースにある国です。正確には仏教や道教などは思想であってキリスト教やイスラム教などの一神教と並列で見るのは間違っていますが、彼らは唯一神を信じ、僕らはそれもどうかなぁ〜、、という意味での多神教です。
今では共感し会えるはずのアメリカと中国の覇権争いが始まりましたが、それは同時に『もっと沢山欲しいふたりのケンカ』と思えば、やむなしです。
我が日本には古来から地域に一つのお寺と一つの神社があり、その上あちこちに地蔵までが点在する社会ですから、一神教の人達から見ると我々の社会は『全てのニーズを満たす』精神に溢れているように見えます。従って極端に高価なものを作る気にはなれないんです。一方、ヨーロッパは『選択』の社会ですから、良いものはどんどん高価になり、安いものはそれなりという選択に繋がります。外国人が日本のボールペンの品質にびっくりする構図はここに根差していますね。
高級品・日用品の差に加え、この『選択とバランス』の価値観の違いが、日本と欧米ブランドの違いに根差していることは明らかです。ブランドは欧米のように『1ブランド/1プロダクト=1パーパス』である方が効率は良いですが、必ずしも企業がブランドそのものである必要はありません。但し、高級品にしろ日用品にしろ、他国への進出をするのであれば、明らかに複数プロダクトを持った『企業』としての進出より、『ブランド』としての進出の方が身軽であり、投資効率が良いのは明らかです。

中国は欧米日のブランド戦略から学んでいる。

僕は2004年に初めて中国との行き来を始めた時、中国ブランドは日本式になるのか、欧米式になるのか、どっちなんだろうと思っていました。なんと言っても日米欧は企業活動においては100年超の歴史があるわけですから、中国はその良い方を選ぶのだろうと。なんせ彼らは最後にやってきた大国ですから、日米欧のやり方は研究し放題な立場にあり、彼らの選択がオセロゲームの勝敗を決めるのかなぁと思っていました。しかしというべきか、やっぱりなのか、中国は僕の想像を超えていました。中国はどれかを選ばず両方を取りました。日米欧のやり方のハイブリッドです。つまり『いいとこ取り』ですね。
最初はアップルのように『1ブランド/1プロダクト=1パーパス』路線で市場を席巻し、成功したのちに竹が地面に根を張るように横展開し、あっという間にコングロマリットのような規模に成長します。それも市場が大きいので、いけると踏んだらその事業への投資の仕方は圧倒的です。数年で市場を席巻し、赤字のまま横展開を始めるスピード感です。大事なのは『世界初』で何かを生み出すことへの執着はなく、全てにおいて先発隊が市場で色々やっていることから学び、より良い方法を見つけ後から追い抜く方が有利だと考えていると思います。いわばこれが中国の『勝ちパターン』ですね。真似ばっかりしやがってと腹を立ててる人も多いかと思いますが、彼らは勝つこと、席巻することが目的なのだから『勝てば官軍』、全く改める必要はないと思っているでしょう。さらに言えば、中国企業は『全部入り』が好きなので基本的にプラットフォーム志向という特徴もあります。

5つ目の価値観の島ができている。

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一方で、いま世界には5つ目の島ができ始めています。この島に住む人の特徴は3つあります。

1:多くが都市部に住む人々
2:所得が平均より高い人々
3:デジタルリテラシーが高い人々

そして特に欧米諸国では4番目の条件として、宗教を持たないことも入ると思います。
僕らはなんとなく欧米人といえばキリスト教徒だと思いがちですが、そんなことはありません。アメリカ人の23%は宗教を持たないと答えていますし、スエーデンの75%、オランダの72%の若者は宗教を持たないですし、カトリック教徒の国のようなフランスでさえ、全体の64%が宗教を持たないと答えています。そう無宗教の欧米人はどんどん増えていて欧米人の4割は無宗教とみてもそれほど間違っていないでしょう。

この島に住む人たちの特徴の5つ目があるとすれば、地方にある実家に里帰りした時に、幼なじみと話が合わないことも加わるかもしれません。なぜならいま世界中の国で5つ目の島に住む人と、それぞれのローカルエリアに住む人の中で大きな文化や価値観の断絶が起こっています。ドナルド・トランプはそのローカルの象徴ですね。この中央の島は各国で少数派になりますから、政治家としてはこの島人の支持を受けても、選挙では負けてしまいます。(それでもトランプが負けるなら、よっぽど酷い政治家とも言えます)過去に中国でも国民党と共産党の争いはこの構図で共産党が勝ちましたね。

日本的ブランドは普遍的な日用品で世界を席巻できる。

勘の良い方はもうお分かりでしょう。
デジタルの普及が作ったこの5つ目の島は、ざっくりいえば無宗教で高所得者の集まりです。欧米や中国の高所得者は、日本の高所得者とは比べ物にならない水準にいるので、ここに日本を加えて良いものかどうかは悩みどころですが、まぁその国内での比較なので、入るとしましょう。その上で、この5つ目の島では欧米ブランドは非常に強いとも言えます。では、日系ブランドは?というと、僕は1〜4の島こそ日系企業の主戦場ではないかと思っていて、ユニクロやMUJIに代表される『まぁまぁ安くて充分な品質』は日本企業の『全てのニーズを満たす』マインドによって洗練されて、今や世界に誇る得意分野といえます。今やファストリはインデックスを射程圏内に捉え、世界一が見えてきていますが、その程度じゃすまないという方もいます。僕も1〜4の島の方が人口が多いし『多くのニーズに応える普遍性ある商品』は、四象限の変な位置にいる日本人の得意とするところです。いやむしろこのジャンルでのライバルはまだ顕在化してないうちに日系企業はどんどん世界に出て行って欲しいし、僕らは全力で応援したいと思っています。

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