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愉しむ人々が、集い、つながる場をつくるまで|卯之町バールOTO

突然ですが、あなたは運命を信じるでしょうか。
新しくお店を開いたり、何かを始める時、人との出会いや場所との出会いといったご縁というか、何かに導かれているような、そんな感覚を抱いたこと––。一歩を踏み出したことがある人には、大なり小なりあるのではないでしょうか。

お施主さまインタビュー「しなやかな暮らしを紡ぐ」では、卯之町バールOTOの店主・藤川朋宏さんとgraft代表の酒井が語りあいます。OTOは、graftにとって古民家改修&店舗設計の第1号となる事例。二人のトークからは、運命奇跡という言葉がたくさん出てくるのですが、そうとしか言いようがない、山あり谷ありのストーリーです。

今回のお施主さま:藤川朋宏さん(卯之町バール OTO/愛媛県西予市)
聞き手:酒井大輔(graft)
構成:新居田真美


伝建地区に佇む大正時代の古民家で、地域の自慢の味を

愛媛県西予市宇和町にある、卯之町(うのまち)は、江戸時代に宇和島藩の在郷町(農村の商工業集落)として栄えた地域。伝統的な建築様式が残る町並みが今も存在し、国の重要伝統的建造物群保存地区に選定されている。この地域に残る大正時代の建物を活用し、2018年に誕生した、卯之町バール OTO。西予市の地域おこし協力隊の任期を終えた藤川朋宏さんと奥様の晶子さんが営むお店だ。

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城川ベーコン、新鮮な野菜や海の幸など、地域の食材を生かした料理や、料理にあうクラフトビールを取り揃えている。ランチメニューは、カレーや季節の食材が散りばめられたピザ。季節がいい時は、屋外の席も気持ちいい。卯之町の町並みを眺めながら、ゆったりと味わうことができる。訪れた日は、入れ替わり立ち替わり、テイクアウトのお客さんがやってきていた。

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もともと、西予市出身の藤川さん。東京に出た後、地域おこし協力隊としてUターンした。協力隊の3年間という限られた任期の間、活動する中で、あるおばあちゃんが守り続けていた喫茶店「喫茶 春名」に出会う。しかしながら、お店は、おばあちゃんが体調を崩し、長らく休業状態に。そこで、この趣のある建物を活用して、古きを大切に新しきを取り入れる不易流行」をコンセプトに、人と人とを繋げられる場所をつくりたいと考え、クラウドファンディングで資金を集めた。

当時のクラウドファンディングの様子▽

結果、目標額の100%を超える支援を集めることができた。ところが、これからという時に、建物の持ち主の方の後見人問題が起こる。そこが決まらないと先に進めることができず、この問題を解決するために1年を費やすことに。


オープンまで、ただただ我慢。その時間に寄り添う

藤川さん:動けなくて、1年延びたんですよ。いざやりますってなってから、裁判所も巻き込むっていうか、行かなきゃいけなくて、まるまる1年、それに費やしたんですよね。その間は、何かあったらいけないから、申し訳ないけど触らないでほしい、調査も待ってほしいと言われて。調査で壊した後に、何やっているんだってなっちゃうと大変だからっていうのもあって。

酒井:もう、それはねえ、本人たちも大変だった。

藤川さん:途中、本当に酒井さんに連絡するのが、申し訳なさすぎて、嫌になっちゃったんですよ。どうしようと思って。かといって動けないし、なんかねえ、最悪のケースを少しは考える訳ですよ。やっぱり、ダメかもとかねえ。でも、もう、我慢で、信じるしかできなかった。僕らができることが何もなくて。

酒井:待ちやったねえ。

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藤川さん:クラウドファンディングでお金が集まっている状態からのそれだったんですよ。だから、もう、プレッシャーというのが……。みんなは何が起こっているか知らないから、やっぱり心ない人もいて。

半端ないストレスで、生まれて初めてハゲが出来た。小指の爪くらいのが2箇所。あの時、本当に、今、思い出してもドキドキする状況だったというか、自分でもよく耐えたなあっていうか。僕、なんか強く見られがちなんですけど、相当、精神的に弱いんですよ。

こういう愚痴も含めていろんな人生相談を酒井さんにして、設計以上の、なんか人生設計をしてくれたんですよね。あの時、酒井さんじゃなかったら、こういう話はできなかった。ということは、僕の心はもっとズタズタになっていたし、本当にもう酒井さんには感謝しています。

酒井:聞く側も辛かった。僕もその前から、いろんな協力隊の話を聞いてきていて、で、クラウドファンディングをやったことによる地域でのプレッシャーと、あと市からのプレッシャー両方かと。なんか、それは大変やなと思った。

藤川さん:そうですね。確かに。市もねえ、すごいですよ。僕が、建物の持ち主の娘さんや司法書士さんとも連絡を取って、「こういう状況で2ヶ月先に結果がわかります」って市にも伝えるんですよ。でも、2ヶ月後に、「ちょっとまだわからないので1ヶ月後になります」みたいになって。そんな進捗を全部、市にも伝えているんだけど、クラウドファンディングを総務省の制度を使ってやっているわけだから、市は市でプレッシャーで、僕に言ってくるわけですよ。「本当にできるのか」って。その時は僕もちょっと不信感を持ちました。今では仲がいいんですよ。でも当時は、俺の状況をわかってよっていうのと、向こうは向こうで追い詰められていたから、「藤川くん本当に大丈夫なの?」って言ってくるし、なんで俺に聞くんだろうみたいな。

酒井:完全に間に挟まれてた。あれは綱渡りやったもん。ある意味、みんなが切羽詰まっていた。でも、結局、みんなこの二人のためでもあるなとちょっと思っていて、で、この局面では、僕は設計士というよりも、昔、一緒にテーブルを囲んだ仲間として僕も一応、移住者だから、そして店をやって潰している経験もあるからっていうので、それで話を聞いていた、そんな感じです。で、話せば話すほど、なんかこの人いい人なんじゃないかって。

藤川さん:いやいや(笑)

酒井:ある意味、繊細。感じやすいから、いろんな人の言葉が入ってきちゃって、言葉の奥の本音とかまでわかってしまって、そこまで考えて、自分の立ち居振る舞いを決める人だから。なんかじゃあ、ちょっと吐き出しなよって思ったのは間違いない。

藤川さん:そう、話を聞いてもらって、酒井さんとは、お願いしてからの方が、どんどん信頼関係ができていきました。普通は、信頼関係ができて、お願いするんだろうけど、なんか逆というか、不思議な感じでしたね。人生相談までもしていましたからね。3回くらいしか会ったことのない人に。でもそれくらい、信頼仕切っていましたから。

酒井:それは、お互い様でした。ありがとうございます。本当に、頑張っていた。

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藤川さん:だからもう、施工が始まってからは、そんな無茶苦茶しんどくはなかったです。始まったんで、安心っていうか。細かいことを言うと色々あるじゃないですか。「酒井さんやっぱりこうしたいんです」とか、まあ、それはすごいポジティブなやつで、それまでがあまりにもきつすぎたから。

でもやっぱり面白いもんで、やっとスタートして、だいたい始めた時くらいに、ビビるみたいなのはありました。やばい! 本当に始まった! みたいな。今、思うと完全に病気でした。一週間くらい、目眩というかずっと目が回りながら仕事していたんですよ。その時、初めて、キューピーコーワゴールドを飲みました。あんなもん、爺さんが飲むもんだと思っていたものを、うちの母親が買ってきて、ちょっと飲みなさいって言われて。今、思うと、オープンの緊張から来るストレスですね。店の営業は本当に楽しかったですけど、プレッシャーとか緊張で。でも、その時は、そんなもんなんだって思っていました。

酒井:誤魔化し、誤魔化しだったね。

藤川さん:誤魔化してましたよ。今、思ったら、ようやっとたなあって。

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組織に属すより、喜びも責任も自分の手に

いきなり、山ありのスタートとなった藤川さん。なぜ、そんな道を選んだのだろうか。

藤川さん:なんでですかね。いや、これもわかんないんですよ。本当に。だって、僕、飲食店をやめたくて帰ってきたんで。本当に。

地域おこし協力隊」って、ものすごい名前じゃないですか。でも、全然、そんなつもりなく帰ってきてますから。僕、どっか就職するって思っていたんで、自分で何かするっていうのは何も考えてなかったんですよ。3年間で考えようみたいな感じですよ。手取り13万くらいで、一応嫁がいて、まあ、でも何とかなるだろうみたいな。本当に甘い気持ちで来たというか、表向きはやる気満々みたいな感じでしたけど。でも、協力隊の勉強会などに行っていろいろな人に会うと、やっぱり、そこは何かしなくちゃ、みたいなところに変わっていきましたね。

それがすぐに飲食店に結びついたかといえば、全然そうじゃなくて。どうしようかなって悩んでいた時に、あの、お金がないじゃないですか。マジで。協力隊って本当にお金がなくて、これ、何かして稼がないと、飲みにも行けないなって思った時に、うちの嫁さん(晶子さん)が、東京でつくっていたオランジェット(砂糖漬けの柑橘の皮をチョコレートで包んだお菓子)をこっちのみかんでつくろうっていう話になって、それを売り始めたんですよ。加工場も借りて、食品の表示もして。で、そういうのをやって、いろんな方に買ってもらって、そのお金でご飯を食べに行ったりとか、例えば、本当にご褒美っぽく、安いものだけど洋服とか靴とかを買ったりとかして。何かそういうのも幸せで。これも、食品表示法が改正されてからだったら、やっていなかったかもしれません。だから、タイミングやったんやなって、思うんです。いろんな奇跡が重なって

オランジェットをつくって、食べて美味しいと思ってもらって、で、それでお金をもらってって、やっぱ、分かりやすいですよね。そういうのから、あ、地元のものを使って、何かつくってみようかなみたいな感じになってきて。城川の加工されている、そのままでも美味しいベーコンであったり、ソーセージであったり、なんかそういうもので、オーブン焼きやグリル、ザワークラウトとかを、公民館からお金をいただいて、うちの嫁さんと一緒につくって、地域の集まりの時に出したりしたんです。

そういう機会をもらって、やっていくうちに、あ、なんか面白い! なんか、そういうのが楽しくて。それと、10年くらい飲食店のバイトとかやっていたので、経験はもちろんあったし、そのノウハウもあると自分では思っていたから、これ、1回やってみようかなみたいな。その辺から、飲食店をやってみようかなって思い始めたのかなあ。

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藤川さん:飲食店が嫌になって帰ってきたって、最初言ったんですけど、やっぱり改めて思うのは、飲食店というよりかは、会社員というか、組織に属すのが嫌だったんですね。僕的には。

協力隊の時も、僕、配属は城川支所ですけど、最後の1年間はほとんど宇和に来ていたんです。だからもう、直で行って、直で帰る、もちろん連絡はしてっていうのをやって、もうタイムカードを押さない、押したくないみたいな感じで、役場に寄りつきたくないみたいな感じになっていた。その辺でもやっぱり気づきましたね。ダメだな俺って、タイムリミット2、3年だなって。向こうでもそうだったんですよ。

で、やりだしたら、飲食店が嫌いじゃなかったんですね。結果的に。だから、今、すごい楽しいです。

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藤川さん:あの、東京で飲食をやっていた10年間のうちに、やめたいと思ったことが1、2度あったんですよ。その、やめたいと思ったことの理由は、僕の中では別のようで一緒だったんですね。それは、責任の所在が僕に来なかったのが嫌だったんです。会社で、僕が働いていて、例えばミスをして、お客様にコーヒーをぶっかけてしまったとするじゃないですか。で、弁償しろよってなり、申し訳ありませんって言っても、結局、責任を取るのは僕じゃなくて、例えば、クリーニング代を出すにしろ、謝るにしろ、結果的に、そのお客さんって僕も見ているけど、僕よりも上の上司も見ていたりする訳じゃないですか。それが嫌で。俺が悪いのに、みたいな。

というのと、ものすごく楽しくお客さんと話して、楽しんでもらった、今日はバーカウンターで気持ちいい接客ができたなあ、友達になれたじゃないけど、嬉しいなあって思えた。でも帰る時、フロントに店長がいて、お会計でお客さんが店長と話をしていて、なんか持って行かれているなあっていう気がしたんですよ。なんかあれ?って。こんなに話をしたのに、帰る時、なんか浮気されたじゃないけど(笑)。これ、ちょっとした嫉妬になっているんですけど。やっぱそこは、責任もそうだし、喜びも全部持っていかれるような気がして、これが嫌だった。どうやったら、俺、一番になれるんだろうとか考えた。

役所もそうじゃないですか。僕が何か失敗したら、支所長が叩かれる訳じゃないですか。で、支所長が謝りに行く。それも、嫌で。それは違うでしょう、俺でしょう、みたいな。これは本当に思ってました。ずっと。

そして、そういう所だと、なんかやる気がなくなっちゃうんですよ。それも嫌で何のために生きているかわからないじゃないですか。やめたい理由はこれだったんだなってわかった時に、自分の店ならやれると思いました。

だから、今、喜んでくれるのが全部俺に来るじゃないですか。まあ、嫁さんでもいいけど(笑)。なんか、独り占めしたいじゃないですけど、そういうのがあって、何かあった時に怒られるのは怒られるで、僕が怒られなきゃならないし、それは全然それでいい。それですかね。やろうとかやれるって思えたのは。もう、属せないですよね。

酒井:そういう考えを持ってたら、そうだねえ。そして、小さな奇跡の積み重ねだね。

藤川さん:本当にタイミングと、なんかねえ、本当に全てがこう細かく、実は決まっていたかのようにあったんで。

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酒井:藤川さんは、愛媛県立八幡浜高校のバスケ部のキャプテンで、ちゃんとそれで、国士舘に行けてるからすごい。国体も出てる。だから、自分が一番になりたいとか、なんか、自然とこう思うようなメンタルは既にあったと思うんです。まあ、身体能力が良かったというのも、もちろんあると思うんだけど、その時のキャプテン心みたいな話を他の人から聞いたことがあって。なんかね、目配り、気配りのキャプテンだったらしい。パス回しとかもそうだったらしく、いかに、メンバーを生かすかを考えてゲームメイクをする方だったらしいですよね。

藤川さん:そっち系ですね。ちょっとおせっかいやきも好きで。

酒井:それが、間に入ることの辛さを味わう宿命でもあるんだけど、でも、それで、自分も生きるし、周りの人も生かされるっていう、マネージメント向きだよね。

藤川さん:酒井さんにねえ、こう聞いてもらえるわけですよ。酒井さんもそういう人だから、わかってくれるんですよね。もう、ついつい長くなっちゃって、話が。

酒井:そう、すごくわかる。すごく共感できるの。話、聞いていると。どっちつかずというか、グレーを漂っているというか。みんな苦労しているポイントがちょっと似ている


目と目があった、運命としか言えない出会い

藤川さん:酒井さんとの出会いは、ECPR(公益財団法人えひめ地域政策研究センター)主催の地域づくり人養成講座ですね。そこで、同じ班になって。

酒井:あの時、建築の話もしたけど、実は、副業で入っていた広告代理店の人間として、行っていたんです。

藤川さん:あ、そうだったんですか。

酒井:それでね。あ、なんか東京の匂いがする人だと思った。でも、話を聞いたら、こっちの人なんやって。

藤川さん:うわ、そんなこと、ありましたかね。そう、当時、どんな話を僕が酒井さんにしたか、実はあんまり覚えてなくて。その時、まだ、店をやることを決めてなかったと思うんですよ。何かを探しに行った訳なんで。結局、出席日数が足りず卒業できてないんで、3回くらい行ったのかな。

酒井:だから、会っていたの、その3回です。僕、すごくはっきり覚えていることがあって。あのね、最終日の授与式かな。あれにも来られていて。

藤川さん:行きました。卒業できないのに(笑)

酒井:それでね。僕は、広告代理店の話そっちのけで、graftの話をしたんですよ。皆さんの前で。で、その時にね、藤川さんと目があったの。なんでか。それをすごく覚えてる。

本当に見られとると思って。多分、古民家の話をした時。その時、なんか妙に目があったのを覚えていて、でも、それはそれで終わっていたんだけど、その後、まさか連絡が来るとは思っていなかった。でも、あれ、どういう……。連絡くれたんですよね?

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藤川さん:なんでですかね。あ、俺、そこ抜けてる。連絡しましたよ。したんですけど、なんか、本当に理屈抜きで、わかんなくて

だって、うちの親父が大工なんですよ。親父に言ったら、会社に勤めているから建築士さんや設計士さんの一人や二人、絶対知っている訳ですよ。その相談は、親父には一切しなかったんですよね。だから、あれは……。あのちょっと、気持ち悪いかもしれないけど、運命みたいなのが絶対あったんですよ。

酒井:確かに。だからね、なんでそれだけパッと覚えているのかって言うと、直感とか運命としか言いようがないんですよ。

藤川さん:ないですよね。本当に。

酒井:いきなり連絡が来て、嬉しかったんですよ。ものすごく嬉しかった。

藤川さん:その代わり、ものすごい迷惑をかけたんですよ。本当に。だから、そういうのも含めて、もう、酒井さんしかいなかったんですよ(笑)。

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呼び寄せて、つながる場と人の力。合言葉は「集中!」

酒井:あれは遠回りじゃなかったね。

藤川さん:そうですね。精神面において、こんなに弱いのにあそこをよく我慢したなあって、今になっても思う。でも、1年間延びたことによって、細かいことが、パパパって繋がってきて、結果的にそれが良かったから、あれは、絶対に無駄な時間じゃなかったって、今でも思う。

このカウンターの板にしても、1年前だったら手に入っていなかった。これねえ、びっくりするくらい安かったのが、あのタイミングで出てくるっていう。こんなの、うち、寿司屋になるんかなって思うくらい。

酒井:そうそう、それぐらいのクオリティ。すごくいい

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藤川さん:うちの親父が勤めている社長さんが、「なんか、すごい恐ろしい値段の材がある。これ、もう買うで」と。僕ら、全く見てないのにうちの親父が、社長が言うんだったらって買ってもらって。で、持ってきたのがこれだったんです。ビックリした。安い言うても高いやろうと思ったら、本当に安かったんです。

このテーブルもそう。いつも行っていた雑貨屋さんで、テーブルを入れ替えたいということで、たまたま半額以下になっていて。まだ綺麗じゃないですか。入れ替えで処分するっていうのが、このタイミングで。こういうのが、どんどん出てくるんですよ。椅子も、1年ずれたから、その店が先に改装して、この椅子いらないからとか。もう本当にすごいんですよ

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酒井:呼び寄せられているんだと思う。なんか、いつもそういうのに囲まれていたような気がする。行くたびに。そして、あの当時も今も、いろんな人の力が集まっていた気がする。

藤川さん:今も、本当に助かってます。コロナ禍で、3月頭の団体予約は、かかってくる電話がすべてキャンセルで、これは、ちょっと覚悟しようって思っていたんです。

けど、本当にありがたいんですけど、今はめっちゃ忙しいんですよ。地元の方もそうですし、結構南予の方が夜も昼も来てくださるんです。少人数ですけどね。当日・前日予約が逆に増えて、団体がなくなった分、個人で動いている方がたまたまうちに連絡くれて。まあ、うちだけじゃないと思うんですけど、嬉しいですね。そして、やっぱり常連さんに助けられるっていうところはありますね。

今のところ、本当にいい感じのお店になれている気がしていて、自慢は、僕というより空間かもしれないですけど、めっちゃ呼び寄せるんですよ。呼び寄せて、お客さんで来た人同士がどこかでまたつながるんです。気が付いたら、みんなで話していたりするんですよ。3つのテーブルとかで。それ、すげーなあと思って。それねえ、最高ですよね。

酒井:僕ら、グレーゾーンを漂う人間の性質かもしれないよ。なんかやっぱり、人と人をつなぐものを背負っちゃっている人たちなんだよ(笑)

藤川さん:ですよねえ。時にしんどいけど。

酒井:時にしんどいだけど、それに助けられる。それが根本的にわかっているんだと思う。

藤川さん:そうですね。確かに。本当に不思議に思うんですよね。このお店。

酒井:そういう意味で、やっぱり居場所なんだよ。場所に生かされているんだよ。

藤川さん:なんか、運命感じますね。いろいろと。この場所も。

酒井:そうとしか思えないね。すごい所、させてもらったなあ、俺。

藤川さん:いやいや、酒井さんだったからっていうのもあるし、いろんな人の力がここに入っているんで、パワーが入っているからこそ、そういう人が来てくれるのかなあって。

酒井:本当に、みんなだね。みんなでここをつくった

藤川さん:だからこう、いい意味でそういうのを背負わしてもらっているというか、だから、僕が今、毎日言っている言葉があって。「集中!

一同:

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藤川さん:僕、毎日、言っているんです。晶子にも言っていて、「集中しよう、とにかく集中」。

酒井:おもろい、それ。

藤川さん:やばいでしょう。僕、毎日言っています。気が付いたら、「集中! 集中!」(笑)。お客さんがいるところでも、大声で。気を緩めるとねえ、絶対になんかこう、駄目なことが起こると思うんですよね。

酒井:慎重なんだよ。

藤川さん:本当に集中なんですよ。その時に集中を切らしたら、サボると絶対に崩れるから。在庫も全て完璧に揃えて、ないって言いたくないし、これがロスになると絶対嫌なんですよ。ロスを出さないのが絶対目標で、出さずにうまいことやるっていうのが目標。これにはもう絶対に集中力が必要で、これ、でもね、はまると面白いんですよ。でも、やっぱりはまるためには、集中しないといけないんで。

そういえば、バスケの時にも「集中」って言っていましたけど、これって結構、自分に言い聞かせる言葉で、もう、本当に、抜けはないかみたいな。

酒井:僕、よく、バランサーって言っていて、それって満遍なくするっていうよりも、一時偏って、また一時別のところに行ける人だと思うの。多分、それって、疲れるよね。

藤川さん:疲れましたよ。

酒井:だって一時、集中をやめる時があって、みんなの話を聞かないといけないことがあるから、その時はすごく集中したいんだよね。集中ばっかりしていると、今度は自分が何者にも繋がっていないっていう孤独感に苛まれるから、繋がりたくなったりとかね。行ったり来たり

藤川さん:そうなんですよ。だから、心は結構しんどいですよね。今、週休二日、月・火休みにしたんですよ。今年からですが、今のところ、功を奏していて、お客様もわかりやすくなって、休み開けの水曜日とかは忙しい。僕自身も二日休みにしたことによって、体も休めるし。

酒井:水曜にお客さんが来てくれるって、いい流れができてきたよね。聞けば聞くほど、すごいなあ。実はね、設計していた時から、僕が一番見たかった景色なのね。だって、どこ目指すって言ったら、こういうこと目指してないと、楽しくないんだもん。本当に。だから、これ、ちょっと、至福の時。こういう話を聞けるのが。本当に。

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みんなのパワーが入った空間を背負う

酒井:この建物を初めて見た時、いいお店だなと思った。おばあちゃんがやられていて「喫茶 春名」っていうでしょう。なんかお洒落だなあって。

最初に、僕、必ず、身構えちゃうところがあって、それが何でかって言うと、古い建物を良しと言ってもらえるかどうか。でね、話していくと、二人のキャラが全く違うことに気づいた。

藤川さんはねえ、結構、今の現状を受け止めるところから始めようっていう感じのスタートなの。で、晶子さんは、結構イメージ、ビジョンが絵として見えていて、それをここに実現させようって考えるタイプで、そこの着地点を僕が見つけていくのが仕事やなって、結構、最初の方で考えた。で、ペンキを塗ったり何かがしたいっていうのが晶子さん。極力、活かそうみたいな話が通じるのが藤川さんの方なんで、あ、藤川さんと話そうってなって。

で、それも正解やなって思ったのは、結構、晶子さんのイメージが日に日に変わっていった。で、藤川さんは、僕の話と彼女の話も受け止めていて、その時点で、僕と晶子さんの間に入ってくれて。実はここもベンガラじゃなくて、白でって、あのままならなっていた。壁の一部には、オレンジ色が入っていたかもしれない。

藤川さん:ありましたね。そんなのね。

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酒井:で、いろいろあったんだけど、それを僕は、残すべきところは残して、ここはカウンターに集中してもらおうっていう作戦にして。事実、それが飲食店だし、この二人がキラキラ見える場所にしたかったから。

それを結構ねえ、ある意味完全に我慢強く聞きながらも、打ち返して、それを受け止めてくれて、最終的には受け入れてくれた。でも、彼女はずっと提案し続けてくれて。だから、そこの壁の色は晶子さんの提案で、カウンターもグレーと黒のツートンやったのを、現場で塗っている側で、僕の代わりに指示して、黒に変えてくれた。これ、大正解。これは、自分の判断を後悔しているんです。あれは、やっぱり晶子さんの勝利やねえ。

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酒井:だからね、僕、みんなでつくったとしか言いようがないんですよ。で、この色を再現してくれたのは、僕じゃなくて、左官屋さんやし。そして、物が入って、見事にねえ、二人のバランスがなんか絵になっていったなあ。

藤川さん:なんか、ごちゃごちゃしていますよね。

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酒井:この黒のカウンターだけやったら、ただのストイックな空間だったと思う。それをかわいいというか、いい感じで、あの、いい意味で雑貨感とまとまり感とがすごく共存している。一個一個、気になって見たくなるような感じになっているの。

藤川さん:ちょっと関係ないかもしれないけど、なんか持ってきてくれたりしたものを置いてみたりとか、それがなんか割といい感じになったなあって。

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酒井:なったなった。だから、色とか素材的なことは、晶子さん。で、やっぱりねえ、藤川さんはねえ、オペレーションのことを考えていた。それは、もう、本当にシミュレーションにシミュレーションを重ねて、持ってきてた。

藤川さん:最初は、2箇所から入れるキッチンでしたよね。でも、図面で見ると広いんですけど、来ると狭いんですよね。あれも勉強になったんですよ。やっぱダメだ!となって、すみません、あそこをもっとこうみたいな。それがね、1回だけじゃないんですよ。毎回。

毎日ここに来ていた訳じゃなく、ずっと図面ばっかり見ていると、広く思えて、こうしたいってなってきて、また、ここに来ると、はー、狭いってなって。で、酒井さんにお願いするっていう、本当にその繰り返し。

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酒井:確かに、それは、本当にそう。僕もここが肝って思っていたから、そこはちゃんと、聞いて。シェフがすぐ側にいたから、そういう一個一個を多分、彼女ともよく話していたんだと思う。何を、どういうメニューをどうするかで、とにかく決まるからっていうところで一致していて。だから、そこはだいぶ時間をかけたと思う。

もう、あとはねえ、建物ありきだから、配置的なことはほぼ決まっていて、細かいところの図面をやってた。だけど、1年待たされたっていう。でも逆にその1年、二人はずっと見て、練りに練っていたんだと思う。

藤川さん:毎日、練ってました。もう、本当に穴が空くぐらい見てましたね(笑)。何枚も印刷して。例えば、この冷蔵庫はこの大きさがいいとか、製氷機はこのサイズがいいとか、何回変えていますかね、あれ。

酒井:本当にわからんくらい。

藤川さん:もう、わからんくらい変えましたね。でも本当にいい店になったなあというか。

酒井:もう、ここにはまっている形になっていると思う。

藤川さん:やっぱ、考えたら、考えただけになるんだなあっていうのを、本当に思いましたし、それを実現してくださったんで、もう、出来上がった時に120点だなと思って。予想を遥かに超えて良かったんですよ。本当に。

できるまでって、やっぱ不安で、本当にできるの? って思えてきて。これは誰を信頼していないとかじゃなくて、見えないものに対しての不安がそういう気持ちにさせるだけで、どんどんどんどん出来上がっていって、気づいたら本当120点だ! みたいな。これ以上ないと思ってます。

酒井:それは嬉しい。やっぱり、お父さんもだし、大工の兵頭淳さんが良かった。だから、僕からしたら、もう一つのプレゼントは兵頭さんですよ。本当に。彼との出会いですね。大好き。いい職人さん

藤川さん:淳さんねえ。いい人ですよね。よくやってくださったなと本当に思いますね。一つ一つ。

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酒井:今回の現場で難しかった点を強いて言えば、みんな知らない職人さんだったということ。工事が始まってからずっと、週一しか来れないっていう中で、その緊張感でやってました。一番助かったのが、藤川さんのお父さんの存在です。お父さんが、ここの鍵を開けに来てくれたり、だいぶ世話してくれたと思うんですよ。それと、兵頭さんがほぼ監督みたいにやってくれたんで、僕がいなくても、ここまでになった。あの二人ですね。

兵頭さんからは提案を受けて、ちょっと図面を変えているんです。まあ、兵頭さんの言う通りやなっていうことばかりやったから。本当に、もう2、3回話しただけで、この人、いいなって思ったもん。最初は、図面持って待ち構えてられたので、怖かったけど(笑)。

でも、兵頭さんに、ビス仕事じゃなくて、木を組みたいと思わせたくなって。柱のところとか、柱のところでカウンターを受けているとか、あとそこの手洗いの上とかの棚もビス仕事をしていないんです。蟻ですっと差すんだけど、そこからボードが出てくるみたいな。

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酒井:そうすると、だんだん兵頭さんのエンジンがかかってきたんですよ。最後、楽しい、楽しいって終わってくれたんで、それが何よりやって。気持ちが手に出る人たちだから、楽しくないといい仕上がりにならないっていうのが僕の中の鉄則で、兵頭さんに「楽しかった」って言わせたのが、ある意味、僕の価値なんですよ。

それを結果的に、120点って言ってくださっているのが、何より。僕と兵頭さんで泣きながら、酒が飲める(笑)。

藤川さん:カウンターは、さっきも言ったようにええのがあるって言われてこの板が来て、これはいい!すごい!ってなって、即、決まったんですよ。それで、一つどきっとしたことがあって。ここの下に冷蔵庫を置く予定だったんですよ。で、やばい。板が厚くなったから、入らないかもってなったんです。でも実際は、本当にぴったりはまって、あれもびっくり。

今は、もっと席数を増やしたいというのがあって、大きいサイズの冷蔵庫を買ったんですね。それで、ここにあった冷蔵庫は、今は2階に上げて、瓶ビールとかを入れて、宴会の時に使っているので無駄ではなくて。そして、これがうまいこと床の間にはまるんですよ。

酒井:すごいね。

藤川さん:新しい冷蔵庫もギリギリここに入るんですよね。側にテレビがあるから電源も取れて。当初と違うことをやろうと思ってもできているんですよね。マジでやばいんですよ。奇跡的に色々、なんかある。ここにコンセントがあってラッキーみたいなことが、どんどん出てきて

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酒井:いやあ、もう、本当に、ポジティブに運用してくれているっていうことだと思います。いや、ありがたい。そして、それは、もう、僕の力の及ばないところですよ。なんか全然違う力だよ、やっぱ、力があるんだ、この場所が

藤川さん:本当に場所が持ってますね。なんか、面白いのが、ここで店を始めるって結構簡単ではなかったらしくて。ある時、以前にこの町並みで店をしようと考えたことがある人から、「あそこでやるっていうのは相当大変なことだと思うっとった。だからよくやった」って言われた時は、ちょっとなんか涙が出そうになった。だから、そういうふうに新しいことを受け入れてもらえるタイミングでもあったんかなあみたいな。

でも実際は、地域の皆さん、みんないい人たちで、お向かいの方とか、夜中、24時まで、本当にうるさい時があって、絶対に怒られると思って、次の日挨拶して、「本当にすみません」って謝ったら、「何が?」って。「大丈夫、大丈夫。私らは、ここが灯りがついているのが防犯って思ってるし、飲み屋さんはうるさくないといけん。うち、本当に聞こえんけん、全然気にせんでいいけん」って言ってもらって、相当ありがたいです。それは、3回くらいあったけど、3回とも、本当に気にしなくていいと毎回言ってくれる。ありがたいですよね。

酒井:みんなよくやってる、本当に。いろんな意味で。ここの人たちも。

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「しなやかさん」がここに!

graftのコンセプト「しなやかな暮らしを紡ぐ」について聞いてみた。

藤川さん:難しいですねえ。しなやかな暮らし。でも、気持ちいいですよね。言葉として。

酒井:なんか、それだと思う。気分がいいとか、気持ちいいとか、結局そういうことなんだと思う。しなやかって。しなやかじゃないと、間に入りながらっていう風にできないね。ガチガチだったりふにゃふにゃだったらできない。白とも黒とも言えない、しなやかさというか、ある意味したたかさだと思う。

だから、しなやかな人なんだよ。グラフト的に言うと。藤川さんはしなやかさんです。

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藤川さん:ああ、ありがとうございます。嬉しいです。めっちゃ気持ちいいですね。

酒井:本意を言うと、僕、「しなやか」が一番強いと思っているんですよ。しなやかな人とか、しなやかにできているっていうことが。折れないから。でも、優柔不断に見られるんですよ。右に行って左に行って。そこを指摘されると、まあ、痛いんだけど(笑)

藤川さん:確かに。でもいいかもしれないですね。僕、あの、めっちゃ自由で、暇に見られたいんですよ。暇っていうのは、お店が忙しい、暇とかそういうことじゃなくて、なんか、よく生きてられるねって思われたいんですよ。本当に「え! この店で食っていけるの?」 って。

酒井:本当、笑っちゃうくらいわかる。

藤川さん:でも、めっちゃ一生懸命働いているんですよ。本当に集中して働いているんだけど、でも、飲んでいる時に、「いっつも飲んでない?」とか、「遊んでいるよね」とか、「お前はいいよな。気楽で。暇でな」とか、そう思われたい。

酒井:俺はねえ、「ところで、酒井さん何やっている人なの」って言われるの、結構好きなの(笑)

藤川さん:そう、嫌いじゃないっすよね。なんかそう思われたい。それって、こう、しなやか……、まあ、言い方はフラフラじゃないけど、これ、結構目標で。なんかこう、「別に楽しんでいるし。別に食っていけるし」みたいな感じで言いたい(笑)

酒井:でも、ちゃんと話したら深いことを言う

藤川さん:あんまり、見た目では出したくない(笑)。でも、そういう熱い話もしたいんですよ。それは楽しいじゃないですか。でもなんかふらーっといて、なんかだらしねーって思われて全然よくて。なんか、そういうのも、いいなあ。しなやかな生活

酒井:なんか、暮らしって言ってるけど、そういう生き方なんだと思う。藤川さんは既に実践されている方でした。

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店をフルで使い切った、その先は……

藤川さん:市役所から質問があって調べたんですけど、1年目で、常連さんも含めてで、約3000〜3500人はお店に来てくれてる計算になるんですよ。それは嬉しいですし、それだけ町並みにも足を踏み入れてくれたってことじゃないですか。これは、一つ目的を達成できているなあって。2年目はもっとたくさん来てくださっている。なんかこう、いい感じで、宇和町に、こういうところがあるんやなって思ってもらえるだけでもいいかなって。知ってもらうきっかけはどっかあればいいなあと思うので。

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藤川さん:実は、ここからすぐ近くに空き店舗の洋館があるんですけど、何かねえ、本当ならやりたいんですけど、明らかにおかしい距離で、ちょっとあいつ、頭悪いっていう感じになるじゃないですか(笑)。近すぎて、流石にそこではできないなあと思っていて。

酒井:何かねえ、協力隊をやっていて、続けて商売するって、移住絡みでちょっと期待される部分もあるじゃない。それって、ゲストハウスとイコールにされたりとか。ちょっとそういうことも考えていた時、2階をどう活かそうかみたいな時ね。難しいというか、やりすぎちゃうと本末転倒になるし。

藤川さん:これ、本当に難しいんですよね。何か、あんまり意識しすぎちゃうと、移住とかあんまり背負いすぎちゃうとね。当時やっぱりそういうのがあったんで。

酒井:いろいろと、声をかけられていた覚えがある。

藤川さん:なんかねえ、やりたくなっちゃっていて。で、思ったんですけど、体は一つしかないし、時間的にできるわけないんですよね。そこがまだ現実的に見えていなかったんで、あの時はちょっといい顔しすぎたなっていうところがありました。やりたいのは本心だったんですけど、結果的に何もできなかったんで。やっぱまだやりたい欲はあって、本当は2店舗目をしたいんですよ。でも、現実、まだ無理で、今やると一番失敗するパターンっていうのもわかっている。

こうやっぱり、お店をフルで使いきって、もうこれじゃ無理だっていうくらい使いきらないと、絶対に2店舗目ってつくっちゃダメだと思っていて。飲食店あるあるじゃないかなって僕は思っているんですけど。まだ2階をフルで使ってないですから、先走ると失敗するなと。だから、それはやりたいっていう気持ちだけなんですけど。

ただ、飲食店じゃなくて、ゲストハウスとかは確かにないんですよ。これは、結構悩ましいです。この町並みの中で、1軒もないのはもったいないかなって。これは、いつかしたい。でも、業態が変わるんで、やろうと思えば出来ると思うっていうのもありますしね。

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酒井:そういうビジョンを聞いてみたかった。

藤川さん:やりたいです。だから、まあ何組も入れるような立派なのはできないですけど、一組か二組で入れるような所なら、良さそうな物件はあるんです。ご飯はうちに来ればいい訳だし。いやあ、本当にもったいない。実現したいですよね。そういうことがあれば、絶対、酒井さんに頼みますわ。

酒井:あの、がっかりさせないように、今後も頑張ります。

藤川さん:いや、絶対大丈夫です。それも含めて、僕らも頑張んないといけないなと思いますし。もう胸張ってね、うちgraft第一号の店だから。本当にこれは言いたいですし、これからもあの、死ぬまで長い付き合いになる、絶対そうですよ。

酒井:間違いなくできると思う。ビジョンに自分が寄っていくから。で、それを言い出すと、周りもそこに寄っていくから。

藤川さん:僕も、できると思ってます。今は、本当に。とりあえず、ちょっとねえ、ノリでもいいからやってみるっていうのがすごい大事っていうか。ねえ。

酒井:そういう人ってねえ、あまりいないの。

藤川さん:意外にそうかもしれないですね。だから、なかなかこうやってお話しできないんですよ。なので、酒井さんが来てくれるのは、やっぱ嬉しいです。こういう苦労を知っていたり、動いているとか、なんかそういう人じゃないと、話がわからないんで。だからやっぱり付き合う人も変わってくるじゃないですか。別に嫌いになったとかじゃなくて。

酒井:そうやって、環境が変わるっていうことは、ステージがやっぱり変わる……。

藤川さん:やれることも変わって。

酒井:求められることも変わる。

藤川さん:もし、飲食店じゃなくて、何かしようと思った時に話していたのが、甥っ子を雇おうみたいな。全然、世間話的なレベルですけど、それはそれで、ちょっと面白いかもと思ったりしているんですけどね。

酒井:多分、そういう次の何かを託せる誰かがいるんですよ。僕も来たから。今、一緒にやっているんだけど、設計のアシスタントを。

藤川さん:やっぱ出てくるんですか。

酒井:これは、もう、ご縁としか。でも、確実な流れの中の一つ。それは、自分の私利私欲を遥かに超えたところの目的のために動いているんだと思う。自分の力だけじゃもちろんなくて、ただその力を生かすことを託されている、なんかそんな気がしてならない。

藤川さん:いやこれは、また嬉しいですよ。こういう話を酒井さんとしていると、なんかモチベーションが上がるのと、やっぱ第六感を超えた、第七感っていうじゃないですか。僕も第七感だと、最近、本当に思っているんですよ。

酒井:もう、そういう流れに入っていると思う。だから、僕も常に意識しているのは、自分の心の中に浮かぶ声は必ずキャッチしようって思っている。それが本当に道標。それが孤独との闘い方だと思う。

それが、一見ネガティブなこと、自分が損すること、自分がお金を払わないといけない、何かを引き受けなきゃいけないっていうことでも、心が言った時には引き受ける。で、その引き受ける立場になって初めて見えることが、多分やるべきこと。なんかね、そういうのを思っている。

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藤川さん:これから色々とやれるような気がしてきて、なんだか楽しくなりました。あの、確かにお金の使い方は変わりましたね。なんか、今までお金に支配されていたっていうか、そんな感じがちょっとあって、縛られていたんですけど、お金ってそういうことじゃないんですね。汚いものでもなくて、汚くするかしないかは自分次第っていうか。だから、お金って綺麗なものだと最近は思っていて、使い方というかツールとして。わかりやすく言うと。

だから、うちは、今、飲食店をやっている以上は、外食を絶対にします。昼か夜、どっか出かけるんですけど、もう、それは、いい意味で行かないといけないし、昨日も夜、友達と、その子が行ったことがない店に連れて行って紹介して。そういう使い方って滅茶苦茶いいですね。高かったけど(笑)。

酒井:本当に、見えている景色が全く一緒です。

藤川さん:ですよね。よかったー! 置いていかれないようにしないと。

酒井:いや、それは、必然にたどり着くところだから。お金って本来そういうものだったのに、違う情報とかを刷り込まれているだけなんで。

藤川さん:そうですね。僕、協力隊の時、ちょっと色々やばかったんですよね。本当に甘かったんで。やっぱ、半分行政に入るだけでも、危ないんだなって。僕はですけど。

酒井:でも、本来の自分を取り戻す道で、居場所を自分でつくれたから。本当に、これを伝えたい人たちがいっぱいいる

藤川さん:集まりたいですよね。本当に話したいです。

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––時を経て受け継がれてきた建物が持つ力、藤川さん夫妻やgraftも含め、そこに携わった多くの人々の想い、そして小さな奇跡が積み重なり、楽しめる人々を引き寄せる、光のような場所。そんなバトンを受け取った藤川さんは、目の前のことに集中しながらも、その目はしっかりと未来を見据えていた。藤川さん夫妻がつくる、あたたかで、それでいてとびきり愉快な、誰かと何かとつながれる場を、自慢の料理とともに楽しみたい。


卯之町バールOTO
愛媛県西予市宇和町卯之町3-216
営業時間:lunch/11:30-14:00 (LO:13:30)dinner/18:00-23:00(フードLO:21:00)
定休日:月・火

https://www.instagram.com/unomachi.bar.oto/




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