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【ともにつくるひと】家大工 家守屋|大石誠さん、大石司さん

インタビュー「ともにつくるひと」。
graftの仲間である、さまざまな分野のつくるひとをご紹介します。
私たちの強みは、最高の腕を持つ職人さんと一緒にものづくりをしていること。そんな職人さんたちのことをもっと知りたくて、graft・新米スタッフの武田由梨が、リスペクトしている職人さんに、普段は聞けないあれこれを伺います。


第一弾は、家大工 家守屋大石誠さんと司さん親子。大石さんに任せておけば大丈夫!  と、ついついさまざまなお願いをしてしまう、経験豊富で、いつも良い仕事をしてくださる大工さんです。そんな父の下で修行した司さん。3年間の弟子の期間が終わり、これからの伝統構法を担う期待の若手です。

大石さん親子の日々の仕事は、ブログで見ることができます。


そんなお二人の拠点となる、刻屋にお邪魔して、お話を伺いました。

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溢れる大工道具への愛

愛媛県砥部町。伝統工芸「砥部焼」の窯元も点在するエリアの中に、長閑な風景に佇む木造の建物が見えてきます。ここが、家守屋の刻屋です。

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中に入ると、一角には、ユニークな形の道具が並んでいました。

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大工道具の中でも、実物を見たことがある人はあまりいないのではないでしょうか。「釿(ちょうな)」と言います。柄は、木を曲げて自作するというからすごいです。

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毎年、ここに大工仲間が集まり、「はつるう会」という会を開いているそうです。原木を買って、大きい斧で角材にして、釿で仕上げて、さらに槍鉋(やりがんな)で仕上げるという、職人の腕が鳴るイベント。そこで使う斧や槍鉋まで見せていただきました。

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槍鉋。材木の表面を削る道具。


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斧の使い方を実演


人との出会いに恵まれ、進み続けた大工の道

−−大工になったはじまりから教えていただけますか?
大石さん:そうですね。18歳の時に、嫁さんと出会って子どもができて、可愛いし、ちゃんと働かないといかんなって思った。ちょうどその時、建築屋さんが大工の弟子募集をしていて、行ってみたのがはじまりですね。その前までに何件かした仕事はどれも続かなかったけど、大工は続いている

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大石さん:それは、仕事の面白さもあるけど、そこで、出会った親方や社長が、すごくいい人たちだったから。まあ大工って弟子の間、当時では1日3000〜4000円くらいの給料だったんですよ。当然、それでは食べていけないので、夜、バイトに行っていたら、「仕事の覚えが悪くなるし集中できないだろうから、足りない分は、わしが出してやる」って、社長が言って、生活費を出してくれたんです。軽トラも当てがってくれて、野菜を持ってきてくれたりとか、色々してもらった。そこまでしてもらうと、一生懸命やらないといかんなみたいになって。

一方、親方は、何も言わない人やったんですよ。パンチパーマで体格もいいし、ぱっと見た感じは、怖いんです。でも、逆に何も言われなかったのが、自分には良かったのかもしれないです。

−−何も言わないから、見て学ぶという世界だったのでしょうか?
大石さん:聞いたら怒る
んですよ。昔の人なので。どんなに時間がかかっても教えてくれなかった。でも、間違っている時は、パーっと横に来て、ボソっと呟いていく。そこで、「あ、こういうのは駄目なんや」と思ってやり直す。そんな感じやったですね。

褒められたのが3回かなあ。初めて階段をかけた時墨付けをした時。そして、弟子抜けして一人でするってなった時に、「お前、根性あるのう」って。それぐらいかな。

その頃はインターネットとかないでしょう? 本屋で本を買って、親方の倉庫に行って図板(図面)を取ってきて、それを見ながら、こうかなみたいな。必死でしたが、それがうまいこといって、ちょっと褒めてくれたかな。そんな感じで、あとは、失敗ばかりですね。

−−その会社では何年くらい働いたのですか?
大石さん:えっと、5年。弟子とお礼奉公をさせてもらいました。3年が弟子、1年がお礼奉公で、社長にも世話になったので、さらにもう1年。
23歳くらいやったかな。一人で現場に行くようになると、施主さんが、「僕? 棟梁さんはいつからくるん?」「いや僕ですけど」「えーっ!」となり、すごく嫌そうな顔をされましたけど(笑)。

−−23歳で棟梁! 早い! もっと修行期間が長いイメージがありました。「お礼奉公」っていうのは弟子とどう違うのですか?

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大石さん:弟子の3年間で仕事を覚えないといかんのです。そうして一人前に近い状態になって、1年間はお返しをする。その頃って、まだ、伝統構法や和風の家には辿り着いていなくて、在来工法の一般的な家をやっていたので、まあ、そこそこやれていたかな。

−−3年っていうのは、一通り覚えるのに十分な期間なんですか?
大石さん:
うーん、基本は、学べると思う。


伝統構法の技術を学び、お施主さまの願いを形に

大石さん:それで、2年くらい手間受けの仕事をしていた時に、先輩に「和瓦のああいう家、やったことある?」って言われて、すごく悔しくて。それから、もう1回、別のところに3年間弟子入りしたんです。そこで、伝統構法の建築を学んだ。20代後半くらいまでは、そうして、勉強しとったですね。

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まあ、それで、あちこちの仕事をさせてもらって。なんか目標になる人に出会ったりしたら、少しでも近付きたいなあと、その人がやることを真似てみたり。ある先輩からは、「ワシ、年間6棟やったら、全部違うメーカーや工務店。そんなことできる?」みたいなことを言われて「絶対やってやる!」みたいな(笑)

−−負けず嫌いなんですね(笑)。大石さんにとって「目標になる人」ってどんな人なんですか?
大石さん:
やっぱり、自分ができないこと、知らないことをやっている人ですよね。昔は、憧れつつ、あれがしたい、これがしたいっていうのがあったんですよ。デザイナーハウスとか、ログハウスとかも、ああ、ええなあと思っていたら、運良くやれたんですよね。

でも、ある時、お客さんと直でやりたいっていう気持ちが出てきて。メーカーさんの仕事になると制限があるので、そういう仕事は一切しないってスパってやめた。そうしたら、また、嫁さんが怒って(笑)。

でも、お施主さんがこうしたいっていうのを形にしてあげたい。それでいいかなみたいな。それが一番いい仕事かなって、今は思いますね。伝統構法じゃないといかんとか、そういう感じではなくなってきてる。

−−大石さんは、伝統構法にこだわる訳ではなくて、お施主さんの要望に応じて、自身が柔らかく変化して、変化させたものをつくる。そこがすごいと思っています。
大石さん:
こだわりというか想いっていうと、やっぱりあったんです。けれど、ある現場で、お母さんを最後に看取ってあげたいっていう、お話を伺った。時間もない、お金もないけど、どうしてもその部屋が欲しいってなった時に、土壁つけましょうとか、そんなことは言うとれんなあって。
その経験から、いろんな状況があるよねと思えるようになりました。自分がしたい仕事っていうだけではダメだなと

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ハウスメーカーとは違う、graftの現場

−−graft代表の酒井と出会ったのは、どのタイミングなんですか?
大石さん:
酒井さんに出会う前に、まずは、みずき工房水木君と出会ったんですよ。金物屋さんから、「水木君っていう大工さんがおって、刻みをしているんだけど、相方がおらんで困っとる。大石君、行ってあげてくれんか」って。じゃあ、ちょっとだけと思って行ったのがすごく面白くて、ずっと手伝っていました。伝統構法で、これでもかっていうくらい手を入れるんで、そこが面白かったですね。それで、建てた家の見学会に酒井さんがおいでて、そこが最初やったんです。

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みずき工房の建前に駆けつけた時の大石さんと司さん。


−−出会った第一印象は、シュッとしたクールな感じ?
大石さん:
ああ、賢そうな人やなあって。わしらみたいなバカな話はせんやろうなあって(笑)。すごい、柔らかいですよね。聞き上手やし。それでちゃんと気持ちというか想いを言葉にできるってすごいなあと。自分らとはタイプが違うなと思って。こう、一緒になって何かをするような感じの人には見えんかったですね。

でも、いざ、仕事をすると、職人ファーストでやらせてくれるんで、すごく、やりやすくさせてもらっている。提案をしても嫌がらない。やっぱり、予算とか工期とか、当然、都合があっての仕事なんですが、でもそこで、こうした方がええと思うよっていうのをすぐ呑んでくれる。ものすごく、尊重してくれて、気持ち良く仕事をさせてもらってます

まあ、ハウスメーカーが嫌になった理由が、こうした方がいいっていうのは言わないでくれ、お施主さんとは話さないでくれっていうのが、暗黙の了解というかルールというか、そんなところにあった。予算も工期も変わってくるので、それをすごく嫌がる。誰がやっても同じじゃないといかんと。

−−お施主さまからも、大石さんとの出会いが何より嬉しいという声をいただいています。
大石さん:
リフォームなどは特になんですけど、お施主さんの生活を見るようにしています。そこで、こうかな、ああかなってすごく感じ取るんです。お施主さんが話したこととかも、聞き漏らさないようにして、仕事に反映するようにしてきたかなと思いますね。

「なんでもいいよとか、どうでもいいよ」とか、面白くないですよね。「あんなんしたいな、こんなんしたいな、できますか?」って相談されたら、「できますよ」って、言ってしまいますよ。


伝統構法に惹かれて、父に弟子入り

−−司さんは、そんなお父さんの姿を見てきた訳ですけど、いつから、大工に興味を持ったんですか?
司さん:そうですね。大工に興味が出たのは、小学2年生。そこから、図工とかめっちゃ好きやって、ずっと大工を目指してました。鑿(のみ)を使ったりとか、楽しくて。

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−−大石さんは、司さんに背中を見せるみたいなことはあったんですか?
大石さん:いや、全然ないですよ。でも、なんか現場に来とったよね。

司さん:あー、現場には、母さんに連れてこられた。そして、大工はカッコええなあって。

−−息子さんが大工の道に進むことをどう思いましたか?
大石さん:大変やなあとは思ったんですけど、最初は自分の弟子にはなりたくないって言ってたんです。

司さん:まあ、稼げる大工になりたかった。本当に、お金がないイメージやったんで、大工は大工でも稼げる大工やったらなりたいなって。

大石さん:失礼やな(笑)。「お金払わんでもいい、貰えるだけの大工ってどうするん?」って聞かれて。本当に、ちっちゃい時、お金が好きやったなあ。

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司さんが高校生の時に製作した模型。壁にオブジェのように飾られている。


−−それが、なぜ、お父さんのところに?
司さん:
そうですね。伝統構法の現場を見てから、こんなんできたらいいなと思って。そこから、父さんのところに行ってます。高校卒業してから弟子入りして、3年が経ちました。

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柱を打ち込む作業も、親子で息ぴったり。

大石さん:もう4年目なんで、夏からお礼奉公に入るんですよ。ちょうど今日、初めての一人の現場がやっと終わったところです。

−−それはお疲れ様でした。どうでしたか?
司さん:
ああ、もう、楽しかったですよ。ちょっと、間仕切りの壁とか、カウンターとかをつける感じだったのですけど、お施主さんも褒めてくれて

−−お礼奉公の後も親子で一緒にやっていくんですか?
司さん:
どうかな。一人でやるかな。その時その時で。

大石さん:一人では無理。仲間もやし、仕事を紹介してくれる人とか、横のつながりが、まだないやろう。

自分らは、そういうのも大事やなって思っていて、年間100棟近く、建前を周っていたんですよ。そこで、あちこちの職人さん、工務店さんやメーカーさんなど、いろんな人と出会う。そういうのはじっとしていても絶対に来んし、自分から出ないと。長いことやっていたら、お客さんのご紹介とか出てくるんで、まずは、自分が大工やっていうことをいろんな人に知ってもらうこと。これからだから。

−−これからですよね。でも、早いうちに伝統構法と出会って、それでスーッと進んでいるのがすごいなあって思います。

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司さん:恵まれている。運よかったね。俺。

大石さん:仕事的には、いい仕事。いい仕事っていうか、滅多にない仕事。けど、伝統構法になると、すごく狭い輪の中のことなんで固まるでしょう? そこだけ突き詰めていくのだったらいいですけど、難しいですよね。

−−息子さんが弟子入りしてきて、独り立ちしていくって、どんな気分ですか。父親の気持ち? それとも、親方の気持ち?
大石さん:
なんかなあ。完璧に自分が甘えてるんですよ。こう、自分がゴソゴソとしだしたら、「何がない?」って、物がなくなっても探してくれるし(笑)。

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建ててからもずっと寄り添う、家守屋の男前の仕事とは

−−大工さんと喋ってると、設計士なんていらないんじゃないかなって思う時があるのですが、大工さんにとって仕事をしやすい設計士ってありますか?

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大石さん:やっぱり、全体を見れる人ですかね。それで、見て欲しいところ、見ないといけないところをわかっている人ですかね。まあ、仕上がりは当然なんですけど、職人と職人のつなぎ目のところ。段取りというのは、ちょっと違うかな。なんかこう、雰囲気です。ある業者はこれくらいでやっていこうとしているところに、これくらい(下の意識)の人が来られると、すごく困る。その辺の業者さんとかの意識を合わせてくれたら……、これが言いたかったんですよ。


−−「家守屋」という屋号は独立された時につけたのですか?
大石さん:
何件かの経験を経てですね。まあ、思ってはいたんですけど、照れるというか、恥ずかしいなあという思いも当時はあって、なかなか表に出すこともせずに、やりおったですね。

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刻屋のあちこちにヤモリグッズがいる。


−−建てて終わりではなくて、ずっと関係を築き、家をみていくというような想いが伝わってきます。graftのプロセスを大事にするところと通じるものがありますね。
大石さん:
そうですね。それは、新築だけじゃなくて、リフォームで知り合ったお客さんもですけど、自分らを気に入ってもらって、「大石さん、また来て」って言われたら、やっぱり嬉しいんで。だから、ずっと守っていけたらなあって。

そのためには、自分ら一代限りで続かんかったら、やっぱり迷惑をかけるんだと思う。司、まあ、もしかしたら、他に弟子ができるかもしれんし、続いていければなあって思っています。

−−誰かお弟子さんを取るんですか?
大石さん:
ああ、何人かは取りたいですね。なんか上がいいかな、下がいいかなっていう状況やったんですけど、こうなってきたら、下でもいいかなって思ってきたりとか。弟子を育てて、みたいな。

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愛車にもヤモリ


−−古民家の改修も手がけられていますが、昔の人の仕事から学ぶことってあるんですか?
大石さん:
ありますね。だけど、同じことはできないと思う。時間の流れが違う。本来だったら丸太もそうなんですけど、昔は、原木を買ってきて、転がして皮を剥いで、コチコチとやっていくんだろうと思います。でも、それは、今はできない。

もし時間の流れが同じだったとしても、現代の便利さを知っていると、ちょっとできないですね。それは、古民家は寒いっていうのも同じで、生まれた時から死ぬまで、その生活がどこもずっと一緒なら、それで我慢していけることなんやろうけど。暖かい家から、寒い所、隙間風の多い家になったら、多分、気になってしょうがない。

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−−大石さんが、大工として思う「いい仕事」とはどういうものなのでしょうか?
大石さん:
それも、感覚が少しずつ変わってきています。全てが隙間なくびっちりしているって、いい仕事って思うやろ?

司さん:うん。

大石さん:自分らもそうやったんです。例えば、床の間のある和室をやりますという時に、すごく神経を詰めてやって、まあ、感覚ですね。そうすると張り詰めた感じの和室ができる。

一方、先輩が手がけた家を見せてもらったら、似たような収まりなんだけど、柔らかい。その感覚が、その突っ張った感じと柔らかい感じだと、柔らかい感じの方がいいなって。その感覚の、感性の持ちようで随分違うとは思うんですけど、その辺がいい仕事、悪い仕事かな。自分が決めるのも何なんですけど。

なんかなあ。家の雰囲気って出るじゃないですか。柔らかい丸い家ができると、一人前、男前な仕事になったかなと思うんです。

−−graftのコンセプト「しなやかな暮らしを紡ぐ」の「しなやか」にも通ずる感じがしますね。
大石さん:
そうですね。目一杯ではなくて、余裕がある。そんな感じかな。

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インタビューを終えた後、刻屋内部を案内していただき、休憩室へ。砥石がずらりと並ぶ光景からは、道具の手入れを怠らない職人の姿が窺い知れます。よく見ると、ヤモリグッズや趣味のバイクに関するもの、今年の物欲リストを発見したり。二人の遊び心が散りばめられた、秘密基地のような空間は、時間を忘れてしまいそうでした。

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<取材を終えて>
初めてのインタビュアー、緊張しました!
大石さんと司さんの、人となり、お仕事に対する想いを、皆さまにお伝えできていたらうれしいです。
これからも、graftとものづくりをしてくれる、ともにつくるひとを紹介していきます。お楽しみに!


家大工 家守屋
松山市北井門1丁目4-35
TEL 089-956-2293
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