歴史資料の研究ってお金がかかるー歴史資料をどのように手元におくかー

 こんにちは。
 文系大学院生のアーニャです。
 今回は、題名の通り、歴史資料を集めて研究をしようとすると結構お金がかかるというお話をします。
私の卒業論文執筆の際には、こうした資料収集をよくしたので、そのエピソードの派生版みたいな位置づけで読んでいただくと面白いかもしれません。

1、歴史資料をどのように研究するか

2、資料の管理は厳重

3、歴史資料の集め方
4、資料収集はお金がかかる

今回は、この4点です。

1、歴史資料をどのように研究するか

 ここでいう歴史資料は、「活字化されていない、現物の資料」を指すものとします。日本に限らず、歴史資料が「すべて活字化されて本として刊行されている」ということはありません。
 今でも日本全国で近世~近代現代の歴史資料(書簡、記録)などがどんどん発見されています。こうしたいわゆる古文書は、一説によれば「全国で20億点」、一都道府県あたり平均「4300万点」の古文書があるという試算があったりします。
 そのうち、文化財指定されるほどの重要な資料は、だいたい博物館や大学図書館などに所蔵されて貴重書としての扱いを受けています。

 歴史資料の研究手法はもちろんひとそれぞれです。
 「すでに刊行されたり、よく知られて一般的となっている歴史資料と、未だに知られていなかった新たな歴史資料とをつきあわせて、これまでとは異なる歴史的事実や説を検証する」という手法もあるでしょう。
 また、地道な実証研究、文献研究のように、「一つのテキスト(例えば『古事記』のような)について、各地に現存する写本(書き写された資料)ごとの文言の違い、内容の違いを調査してゆく」のも研究の一つです。

 これらを検証するには、まず「歴史資料を手元におく」ことからスタートしなくてはいけません。

2、資料の管理は厳重

 歴史資料の多くは、当然ながら「一点もの」です。
 例えば、「織田信長本人が書いた書状」は、仮にカラーコピーをとっていたとしても、現物を破いたり、燃やしたりしたら、この世から存在しなくなります。
 先ほど紹介したように、そうした歴史資料は博物館や図書館などに所蔵されて丁寧に管理されています。もちろん、文化財指定(なかには国宝になっているものも)されている資料の場合は、より厳重な管理体制が敷かれています。
 ここでいう「厳重な管理」とはどういうことか。
 もちろん、「歴史資料が劣化してしまわないような温湿度管理」といった資料保存的な意味でもありますが、「利用の制限」という点でもあります。

 こうした、「一点物の歴史資料」の多くは、資料の破損や劣化を防ぐため「現物の貸し出し」や「コピー機でのコピー」を認めていないケースがほとんどです。
 すると、歴史研究者はどのようにして「歴史資料を手元に置く」ことが可能になるのか。次に見ていきましょう。

3、歴史資料の集め方

 「歴史資料を手元に置く」ことができないと、研究が始まらない歴史研究。とはいえ、「現物貸し出し」や「現物のコピー」ができないとすると、どうするか。
 まず、「翻刻(活字化)されて本になって出版されている」場合は、その内容を本を買えばわかりますから、基本的には問題ありません(中にはその翻刻が間違っていることもあるのですが…)。
 ほかにも方法はありますが、簡単に書き出すと以下の通りです。

まず一例をいうと、
・「資料やデータベースで資料の存在を確認」
・「個人or自分の所属大学図書館→相手の所蔵機関に所蔵確認」
・そのうえで「閲覧が可能かの問い合わせ」
と続きます

ここで、「閲覧が可能」となった場合です。

現物の閲覧をして…」
①メモをとる
②代替資料のコピーを取る、デジタル化資料を閲覧する
③写真撮影をする
④業者に撮影を依頼する

と、ざっくり挙げるとこのような方法があります。

 は、現物の歴史資料を目の前にして、隣に置いたノートに鉛筆で内容を写し取って帰るという方法。最も古典的だけど、確実な方法です。※ペンだとインクが飛んでしまうのでNG
 は、所蔵機関によって資料を「マイクロフィルム」化していたり、「現物のコピー」を準備していて、閲覧も現物ではなく、こうした複写物やレプリカを利用させる場合もあります。なぜならば「現物を直接出納したり、手で触れさせると破損や劣化の可能性があるから」。こうした代替資料の場合は、直接コピー機でコピーしても問題ないので、複写物を取得するには便利だったりします。
 また、既に撮影したデジタル画像をネット上で閲覧できるようにしている所蔵館もあります。すると、ネット上で一点物の資料画像が閲覧できるので、図書館でも家でも史料調査が可能になります。

 は、現代の歴史学科の学生の多くが、その方法を習うのではないでしょうか。三脚にデジカメを固定して、その下に資料をひろげて…などなど、その資料撮影の方法は史学科では必修のように扱われます。
 この場合、閲覧の許可とは別に、商用利用ではなく「個人の研究のための利用」であることを明記したうえで許可願いを提出し、認められる必要があります。
 ただ、資料の利用の場合、所蔵機関ごとに様々なルールが存在しています。その場合、に該当する場合もあります。これらは資料を持っている博物館や図書館のルールに従うことになります。

※いずれの場合においても、論文などへ引用する場合には、「〇〇図書館所蔵」「〇〇博物館蔵」などと記載をする必要があります。
※また、「資料の翻刻をメインとするとき」や「資料の画像を引用・掲載するとき」はさらにその許可を取る必要があります。

4、資料収集はお金がかかる

 歴史資料の「現物をみよう」と思ったときに、活字化されている資料ならばどこか図書館に行ってその本を読めば、一応内容や文面はわかります。いくらもコピーも可能です。
 しかし、資料の多くは活字化されていないことが殆どです。すると、先に見たように、現地を訪ねて現物を見なくてはいけないことになります。
 そのうち、「資料がデジタル化されていてネット上で閲覧できる」場合などを除いては、「所蔵している図書館、博物館などがある現地」へ訪ねる必要が あります。
 資料の劣化の可能性から、現物をコピーすることが基本的には禁止されているからです。すると、現地までの交通費がかかることになります。
 たった一つの史料ならまだしも、複数資料をみようとすると、全国各地を巡る必要があります。
 現地に訪ねた後は、その資料の閲覧に加えて、先ほどの③自身での写真撮影ということになります。これは事前に図書館経由で申し込んだり、指導教員の紹介状が必要な場合、現地で許可願いに記入・提出が必要な場合など、いずれも許可を取る必要があります。
 商用利用などではない「個人の研究利用」の場合の写真撮影は、基本的には無料で行えることが殆どです。しかし「全体の半分のページまで」などの所蔵機関のルールには従う必要があります。
 対して、さらにお金がかかる場合は「現物閲覧不可」もしくは「写真撮影不可」かつ「業者による写真撮影、紙焼きを依頼する必要」があった場合です。

 これは資料の所蔵をしている機関によってその対応は様々です。
・「現物の閲覧不可、かつ、マイクロフィルムなどの代替物がある」場合
・「現物の閲覧不可、かつ、マイクロフィルムなどの代替物がない」場合

 前者は、マイクロフィルムや既に撮影されたフィルムがあって、そこから紙焼きをしてもらうため、紙焼きをしてもらう料金のみがかかります。

 対して、後者の場合は、「撮影業者が入り撮影」そのうえで「フィルムから現像して紙焼き」ということになるので、撮影業者の撮影費用も負担する必要があります。
 誰かが先に撮影業者に撮影を依頼していた場合、既に撮影されたフィルムがあるので、撮影料金はかからずに、紙焼き代金だけがかかることになるようです。

5万329円の領収書 とある大学図書館に複写を依頼したもの

  私の事例を書いておきます。
 今年の初めころ、とある大学附属図書館に所蔵されている資料の閲覧、撮影が可能か問い合わせました。
 すると、「現物の閲覧は可能。撮影は不可で、複写物が必要な場合は、提
携している業者の撮影→その後に紙焼きしたものを発送
」との連絡でした。
 その後、資料のページ数から計算されたところの、撮影コマ数(資料の見開き1ページ=1コマ)は100ちょっと。
 資料が数百ページに及ぶ以上、現地で全部のページをメモするわけにもいかない。と、すると、「撮影を…」と思うわけですが、それは業者に依頼するという。
 意を決して依頼をお願いしました。
 
 数日して、料金は「送料を含めて、6万円ほどになりますがよろしいでしょうか?」と、念を入れて確認の連絡が。ここまで来たら、頼んでやろう!という、少々やけくそでお願いしました。 
 結果として、「5万329円」の請求がやってきました。これ以外にその大学図書館に依頼していた複写分も別に払った結果、まさに6万円弱の料金になりました。
 

 学生の身分で6万円というのは、普通に考えて大金です。普通に考えなくとも大金です。とりあえず、申し込んでしまった以上、奨学金などを貯金してなんとか支払うことができました。

 そこまでしてなぜ資料を集めなくてはいけないのか。例えば、こうした資料の中に「これまで注目されてこなかった(著者の)書き込みやメモ」が見つかったり、同じ本の写本でも内容が異なる場合があります。
 まさに、歴史学における「動きようのない証拠」が史料ですから、それを丹念に調べてゆくためにも、カラーで綺麗に撮影された資料をじっくり眺めることは大事だったりします。
 その結果として5,6万円が飛んでいきました。
 
 実は歴史研究も、ただ本を読んでいるだけではなく、それなりにお金がかかったりします。

 ここまでお読みいただきましてありがとうございました。
 


 


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