見出し画像

泣き止まない空

百貨店からバスターミナルへ向かう道中の冷たい空気は、容赦なく私の身体を凍らせた。
ダウンコートもファーのマフラーも手袋も帽子も、何ひとつ役に立たない程、寂しい冷たさだった。
ビルとビルの隙間から小さな空を眺めて、"こんな日になってしまったね"と思ったら、今まで閉じ込めていた何かが両方の目からポロポロと落ちてきた。

ぶくぶくと溢れそうになるものを何とか堪えながら、途中で六花亭のバタサンドを買った。
鼻を啜ったが、それは寒さのせいだと誰もが思うだろう。
バスに乗り込み、曇りと雨で薄鈍色になった何も見えない窓の向こうをじっと見つめ、マスクの縁に温かいものがこぼれ落ちるのを感じた。余計に何も見えなくなった。
人の為なのか、自分の為なのか、その透明な液体は何故流れ落ちるのか、もはやわからない。単なるこの寒さのせいかもしれない。
2停留所目を過ぎるくらいで、ようやくそれはおさまった。

その便りがもう少し遅かったなら、こんな寒い日も多少はマシに感じていただろう。
もしそれが、私のあずかり知らぬただすれ違う人のことだったなら、私は今日勢いで買ってしまったピアスをウキウキして持ち帰るただの買い物客だった。

何のことを言っているかわからないように書いている。
それで良い。
悲しみは伝染するから、本当はこんな公の場で書くことではないかもしれないが、書きながら私は感情を解放している。

今私が知覚しているすべてのものが、「悲しい」と叫んでいる人の声のように思える。
世界中の「悲しい」が、そこや、ここや、あそこに散らばっている。
22時。
空もまだ泣き止まない。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?