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【短編】俺はクレクレ星人

俺は「クレクレ星」の住人でもなければ、その星の出身でもない。俺は普通の地球人で(『普通の地球人』というカテゴリーがあればだが)、見た目はいたって普通の成人男性だ。アメリカの心理学者アダム・グラントの言葉を借りれば、つまり俺は「テイカー」なのだ。

テイクするのはお金だけに限らない

俺のモットーは「テイクできるものは、根こそぎ手に入れる」だ。しかし、俺は法に触れるような詐欺まがいのことは一切しない。あと、できるだけ簡単に手に入れられるものを狙う。

俺は仕事もちゃんとやっていて、テイクだけして不労所得で生活しているわけではない。俺の仕事は飲食店やコンビニの店員、food koala という食事の自宅デリバリーサービス、日雇いの試験監督なんかをやっている。贅沢しなければ、ひとりで生活するには十分といったレベルだが、その分職場で貰えるものはすべて貰う。

例えば、飲食店のまかない大盛りは当然。あと、店長には「新メニューを思いついたので試作品を作りたい」と申し出て、まかない+試作品が夕食になることもある。だから俺は、キッチンで働くことを強く希望する。調理中に味見もたくさんできるのも利点だ。

コンビニでは賞味期限切れの商品をいただくのは当然として、キャンペーン終了後のグッズも店長におねだりする。

food lionについては、できるだけ個人経営の店からのデリバリーを引き受けるようにしている。それはお店側はお客さんを少しでも増やしたいので、付加価値を付けて他との差別化を図っているからだ。俺はもうやっていないが、付加価値として添えられたサンプリ品やちょっとしたプレゼントを貰ったりしてた。あとは、できるだけ気前のいいお店の経営者と仲良くなって、お客さんの食事ができるのを待っている間にドリンクや食べ物を貰うようにもしている。そう、経営者とかシェフとか、ある程度上の人たちと仲良くなってうまい汁を吸っているのだ。

日雇いの試験監督をするのは人数制限もあるし、経験者優遇みたいなところもあるので、なかなか雇ってもらえないことが多い。試験にもよるが、たまに豪華なお弁当が出される。もちろん無料だ。バイト代はあまり良くはないが、業務はさほど難しくないし、残業もない。気が合わない人がいても、数時間我慢すればいいから楽だ。試験監督の仕事をしている人は、ほぼ毎週末はどこかの試験の監督者をしているようだ。そんな人達と仲良くなると、他の試験のバイトも紹介してくれたりする。たまにお弁当が余ると、バイトにくれることもある。

国、地方政府から提供されているサービスは全て利用

俺は38歳だが、昨年まで民間企業の医療保険に入ってなかった。だって、病気やケガで入院して医療費が高額になったとしても、きちんと申請すれば後でいくらか戻ってくるからだ。でも昨年「アホラック」とか言う保険会社の掛け捨ての医療保険に入った。なぜかと言うと、母親が「医療保険に入ってないと、安心・安全な生活ができへんから、私が保険代を払ってあげるで入りなさい」と言ったからだ。

俺はこの「安心・安全」という言葉を毛嫌いしている。理由は上手く説明できないが、この言葉を聞くと虫酸が走る。

国からの給付金についてだが、内容を逐一調べ、一番手でごっそり貰うようにしている。俺はある飲食店の共同経営者にもなっているから、あらゆる給付金・助成金は貰っているよ。

俺のようなギグワーカーが最近ニュースで取り上げられることが多くなっているので、フードデリバリーの大きなバックパックを背負ってバイクに乗っていると、よくテレビの取材を受ける。そんな時は思っきり「自分は不幸です」を装うようにしている。するとテレビ局の人が「大変ですね。こんな状況下でも頑張ってください」と言って、飲み物とかお菓子をくれる。たまに局のグッズもくれるが、直ぐにフリマに出店するようにしている。取材を受けた俺をテレビで見たお客さんも同情してくれることもあって「よかったら、貰ってください」とお菓子とかくれる。

俺は提供されたものは有り難くいただく。相手の好意の気持ちを大切にしたいのだ。

そして今日も、色々計算してどこまでテイクできるか、ゲーム感覚で1日を楽しんでいる。

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