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読書感想

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読書の夏

夏になると読みたくなる本、暑くなってから最近読んだ本の紹介をします。夏バテで三度の飯より読書がしたい、みたいな人がたまたまこのnoteを目にする可能性も0%ではないだろうと思って、その人に向けて書きます。でも多分あまり内容には触れません。そして私は最近自分の異様な食欲に驚いていました。やっと落ち着いて良かった。 TUGUMI/吉本ばなな まずはこれでしょ。中高生の頃毎夏読んでいた気がする。私の中での『サマーウォーズ』的な立ち位置。病弱で口の悪いつぐみがいる海辺の

本屋で一万円使い切る(その2)

またしても図書カード一万円分頂いてしまったので、二度目の使い切り計画を実行した。今回は一日ではなく数日に分けてその都度欲しいものを買ったという感じ。本屋に入った時、図書カードを持っていることへの安心感、すごい。ありがたいね。 図書カードの絵柄が前回と同様ルノワールの絵だったんだけど、一万円分はこの絵柄って決まっているのかな。自分で買うことないから分からないな。 まだ温かい鍋を抱いておやすみ/彩瀬まる くちなし/彩瀬まる 骨を彩る/彩瀬まる 生のみ生のままで 上・

『N.P』

私にとって吉本ばななの好きな作品というとずっと『哀しい予感』で、でも同じくらい気になっていたのがこの『N.P』。なんとなく似た気配を放っていた。読んだ後もそれは変わらない。叔母が一番好きだと言っていてやっぱり、と思った。いつどこの本屋に行っても置いていなくて、通販で買って先日読んだ。読めてよかった。 97本の短編が入った小説「N.P」を残した作家の遺児と、未収録の98話目を訳そうとして自ら命を絶った男、そしてその恋人。何が起きてどう転ぶか、というよりもただ人と人

最近読んだ小説

『こちらあみ子』今村夏子 すごい。後味がすごい。あみ子の目からみた世界を感じる一方で周囲との隔たりもひしひしと感じる。読んだ後に映画もみにいった。大沢一菜さんの演じるあみ子、良かった。そして尾野真千子の号泣するシーンも。ただとても印象深く好きな場面が少し変わっていたりこう撮るのかと思ってしまう所も個人的にはあったので、映画だけみた人には小説読んでみてほしいな。他2篇も好きだった。 『ペーパー・リリイ』佐原ひかり たまたま13日の迎え盆に読み、おおっと思った。夏に

分人とか

平野啓一郎の『空白を満たしなさい』を読んだ。本当に久しぶりに長編の小説を読んだ。そこに割く分の余裕が少し出来たので。 この本を手に取るまでに、ドラマ『初恋と悪魔』をみてそれに関連してTwitterで分人というワードを目にし、分人について書いた平野啓一郎の『私とは何か「個人」から「分人」へ』を読み、そこに「分人」を扱ったこの小説が紹介されていたという、経路がある。 まず坂元裕二脚本の『初恋の悪魔』。回を重ねるごとに引き付けられていったのは事実だけれど、ちょっと私

本屋で一万円使い切る

少し時間が出来たのでなにか書きたいなと思って。約一ヶ月前、図書カード一万円分を貰ってしまうというきゃーーと飛び上がりたくなるくらい嬉しい出来事があった。そしてこれは一思いに使ってしまおうと機会をうかがっていたところ、先日ついにそのタイミングが来たので、やってやったぜ。大型書店の地下一階から五階までをうろちょろし、気になっていた本や目についた本をカゴに入れまくっていくという至福の時間。楽しかった~。豊かだった。 はこにわ虫/近藤聡乃 三拍子の娘/町田メロメ ルーヴルの猫

この夏面白かった小説たち

川上未映子『乳と卵』 ゼミの友達が、私が江國香織を好きだと言うと、じゃあ川上未映子は?と教えてくれたのをきっかけに手に取った本。"現代日本文学の風景を一夜にして変えてしまった"と。わかる。凄いなと思った。描かれているのはもっぱら女性性のことで、女であることそれ自体。この方のTwitterをフォローしたけれど、そこに関心をもっている方なんだなというのがよく分かる。胸大きくしたい女と冷っと女との言葉の応酬の場面がとてつもなく面白くて、何回も読んだ。 とてもクセの強い文

『夏物語』

今年の八月三日に文庫版が発売された川上未映子の『夏物語』。ここに感想を書くのはかなり迷ったし躊躇ったし、まだ整理もできていない。が、無数にある想いをひとつでも文章に残しておかないと今後にも影響すると、そんな風にも感じたので。 とても良い読書体験だった。色々読んでると、正直読んでも読まなくてもどっちでもよかったな、とか思う小説もあって、何も残らないっていうような。この作品は、これでもかっていうくらい考えさせられるテーマが詰まっていて、小説を読むことで、こんな、大学

『出会いなおし』

「年を重ねるということは、同じ相手に、何回も出会いなおすということだ。会うたびに知らない顔を見せ、人は立体的になる」 という、そういう本。森絵都は『風に舞いあがるビニールシート』を読んで以来この人は短編がいい、好きだと思ってきたので昨日読んだ短編集『出会いなおし』も期待していた(帯に"短編の名手"と評されていてなーんだと思ったけど)。 ところが、うーん、正直なところ私はあまり引き込まれなかったかな。六つのどれもがいまいちピンと来ないというか、そのままあっさりと

人工的美を具えた生命力

岡本かの子ってセンター試験の過去問ででてきた『快走』の作者だったんだ!あの「あはははははは、おほははほほ」みたいな部分で話題になったやつ。しかも岡本太郎の母親だったんだ!調べていたら知った衝撃の事実。 私の所属しているゼミでは今、昭和期の短編小説を扱っていて、今週の発表者の担当した作品が岡本かの子の『金魚撩乱』だった。私は初めて読んだのだけど、これは好きだと感じたし、発表内容もディスカッションもとても面白かったのでまとめておきたくなった。ので、考察も含めてする。

『物語のなかとそと』

私は江國香織のようにはなれないと思い知らされた。みてる世界が違う。でも、この人の言葉を通して垣間見れる、読んでる間だけその世界に入り込める、そのくらいで充分なのだと、知った。 久しぶりに行けた大きい本屋で、最新刊、との帯を目にして即購入した江國香織の散文集。後から分かったことだけど、これ最新刊なの?と一瞬思ったのは2018年に単行本ででていたからで、文庫本がこの春にでたということだった。何故今の今まで読んでいなかったのか不思議。 だめだめ一気に読んだら、

シンクロニシティのような

角田光代の『対岸の彼女』を読んだ。やっとかい!と自分にツッコミながら。この人の作品を、私はほとんど読んだことがなかった。他でも書いたしわざわざこの小説の感想メインというより関連して感じたことをまとめようと思う。 恐らくこれはまた三十代とかになった時読むと、感じ方も変わってくるのだろうな。結婚、育児、家事、それらの愚痴、女性同士の区別の仕方や関わり合いが煩わしすぎて、でも同時に学生時代の葵の話とそれらが交互に展開されるから狭間に立って、うわうわ…と思いながら読めた

虚実

呆けながら相変わらず江國香織を読んでいた。今日は『泣かない子供』。エッセイ。ぼんやりとページをいったりきたりしていたのだけれど少しそそられる文章があって、それが江國さんがインタビューの時に、作品のどこからどこまでがフィクションか、ノンフィクションかと質問されたときの話。 そんなこと、作者にわかるわけがない。小説とはまるごと全てフィクションである、と私は信じているし、それでいて、どんなに嘘八百をならべてみても、書くという行為自体、作家の内部通過の時点で内的ノンフィクショ

読めない小説

どうしても読めない本というのは誰にでもあるものかなと考える。読みたい気持ちはあるけれど進まない、一度中断すると次手に取る気分になかなかなれない、というような本。好き嫌いというより合う合わないの話になってくるのだろうけど。昔友達に借りた小説が読みにくくてそれを伝えると、そういうのあるよねと共感してくれて嬉しかった。 私は太宰治の『人間失格』が読めない。森見登美彦の『夜は短し歩けよ乙女』も。伊坂幸太郎もなかなか。大学に入ってからも、曲がりなりにも日本文学を専攻してい