宝物

少し前の話。どうかな、もはや結構前になるのか。

今もあの頃と変わらずに生きているつもりだけど、きっと変わってきてしまっているものはあるし、実際はよくわかっていない。

幼い頃から大切なものはあった。
昔から綺麗なものが好きだったな。

綺麗な色鉛筆、ビー玉やおはじき、カラフルなスーパーボール、キラカードやキラキラしたシール。

色がついているものが好きだった。

自分には色がないから。
何をやっても得意なものはなく、苦手なものばっかりだったな。

そんな時も色がついたキラキラしたものを眺めている時間は今思うと幸せだったのかもしれない。
あの時間は一瞬だけど他のことを忘れられる、そんな時間だった。

幼い頃に行った場所はいくつも、沢山覚えているし、友達もわりといた気がする。
本当の友達とかそういうのはわからないけど、誰かしらと毎日遊んでいたことは覚えてる。

だけどどこか満たされなくて、その頃はそんな風に感じてなかったのかもしれないけど今思うとそんな気がする。

どこか行く時はほとんど車でバスや電車に乗ってどこかに行った記憶はほとんどない。

車ではいつも姉が音楽を流していた。

本当に様々な曲が流れていた気がする。
何歳からだろうか、おそらく5歳くらいからの記憶はあるかもしれない。

それこそミスチル、スピッツ、ドリカム、チャラ、My Little Lover、奥田民生だったり、当時のインディーズバンドの曲や洋楽もあったと思う。

俺の中の音楽はそれらから形成されていて、未だにメロディが綺麗な曲だったり声に特徴があるアーティストの曲が好きである。

もちろん楽しい時は他にもあったんだけど、音楽のメロディが耳に入っていくあの瞬間は本当に楽しいというか何もかもうまくいくような、希望に満ち溢れているあの感覚で満たされていた。
すごく気持ちの良い感覚。言葉で表現できないのが悔しい。

それから音楽を聴くことが好きになった。

車に乗る度に音楽を聴いた。
10分で着くようなところでも音楽を聴いた。
あの時間が幸せで、大嫌いなスイミングスクールに向かうあの時間でさえ音楽をを聴いた。

イノセントワールドを頭の中で流しながら今日もクロールを頑張ろう。
明日運動会で本当に嫌だけど白いカイト流しながら運動会終われば休みじゃん！って気持ちを奮い立たせたりした。

そうやっていつのまにか音楽は日常の一部になって中学生になる頃にはCDをかなり集めていた。

お小遣いでCDを買って誕生日とかもCDを貰って。
TSUTAYAのレンタル落ちCDを漁ったりブックオフの掘り出し物を探しに行った。

あの頃はネットも今ほど普及していなくて、新しい曲の情報は掲示板に載ってたスレッドから探したり、mixiとかモバゲーで知らないバンド名を探したり深夜の番組の合間にあるCMで探した。

中学の頃に出会ったのはスキマスイッチだったりフジファブリックだった。
サスケとかもそうか。
誰かからのおすすめじゃなくて自分で見つけた時は本当に嬉しかった。

このバンドめちゃくちゃいいじゃん！
俺が最初に見つけた！！みたいな宝箱を見つけた海賊のように喜んだ。

もちろん勧められたバンドでめちゃくちゃハマったバンドもあるし、それも関係なしに喜んでたけど。

音楽はいつのまにか宝物になって、俺の中ではCDは買うものって言うこだわりがあった。
誰かから借りたりTSUTAYAで借りたりするのが嫌だった。
貸すのも嫌だった。（返ってくる時にケース割れてたり、紙ジャケのプラスチックケースだけ無くされてたり大切にしてくれない奴がいたから）

CDからカセットテープやMDに焼いてラジカセやMDウォークマンで聴いて中学から高校にかけて過ごしていた。

そしたらiPodっていう神様みたいなオーディオ機器が現れた。

iPodの存在を知った時に少し戸惑った。
今までMDやカセットテープで聴いてたのに、こんな新参者に誘惑されていいのか？みたいな。

でも友達が持ってたiPodを見て相当欲しくなった。
それからはCDを全てiPodに入れて1つの機器で何枚ものCDを楽しむことが出来た。

神のオーディオ機器だった。
iPodは肌身離さず生活していた。
CDで買ってiPodで聴く、それが当たり前になっていた。

CDで聴いていた時代、カセットテープやMDで聴いていた時代、iPodで聴いていた時代。

CDそのものでは聴かなくなってしまっていたけどそれでも自分だけの宝物が詰まったiPodがあるだけで本当に幸せだった。

誰も知らない自分だけの音楽が詰まった宝物。
(実際はそんなこと無いけど自分だけの特別なんだっていう心持ちだったってことです)

それから数年経ってiPodtouchが出てきて、更にはiPhoneが出た。
スマートフォンの到来だ。

音楽を聴くための機器iPodじゃなくても音楽は聴けるようになった。

もちろん便利にはなったけど音楽を聴くためだけのあのオーディオ機器が好きだった。
iPod classicが廃盤になった。
ウォークマンにして足掻いたけどそれも1~2年で辞めた。

そしてさらに数年経ってサブスクリプション音楽配信サービスが始まった。
CDを買わなくても音楽が聴ける便利な時代になった。

ほとんどの人はきっと嬉しかっただろう。
もちろん俺も今では嬉しいと思ってる。

だけど俺の宝物だったCDを詰め込んだiPod。
中古、新品関係なしに良い音楽を探し続けたあの頃の宝物がいとも簡単に誰にでも聴けてしまう時代になってしまった。

自分だけが見つけた音楽、誰かに教えて、逆に教えて貰ってCDを買いに行ったあの時代が消えてしまった。
(もちろん今でもCDは買ったりしますけど、サブスクで聴いて満足してしまったりもしています)

宝物が宝物じゃなくなってしまった気はするけど新しい音楽を見つけやすくなったのは音楽を仕事にしている人達にとってもとてもいい事だから今の方が良いに決まってんだけど。
なんだか少しだけあの頃の宝物とは違うように感じたり。

それでも今も音楽は素敵な宝物に変わりはない。

いつまでもずっと俺の宝物。
離さないから離さないで欲しい。
誰かに裏切られても、誰かに意地悪されても、粗末な扱いをされても、運命の人に出会えなくても。
音楽だけはずっと一緒にいて欲しい。

これからもずっと。