ナチュラルな造りを求めたら菩提酛に辿り着いた
2007年に杜氏になった時に、自分たちの新しい形の「御前酒」を追い求めた。お酒というのは太古の昔からある神聖な飲み物。長い歴史の中で発展しながら現在の製法が確立されてきたが、日本酒の世界はまだまだ未知の部分も多い。
現在の日本酒の製法は、安全に、かつ大量に造ることができるように改良されている。醸造用の乳酸を添加したり、純粋培養された酵母菌を添加したりするのが教科書通りの製法だ。
しかし、そんな製法は長い歴史の中で現代のごくわずかな期間のことだ。それ以前も日本人は様々な菌を仲間にしながら酒を醸し続けてきた。
杜氏になった時に思ったのは、乳酸を添加したり酵母菌を添加したりするのは技ではなく、知識があれば誰にでもできる「技術」だ。一方で、菌の声に耳を傾けながら酒を醸していく「技」は、長年の経験や努力や好奇心の結果磨かれていくもので、私は後者に惹かれた。
先代の原田巧杜氏が取り組んだ「菩提酛」。それは御前酒の宝ものであり、まさに菌と向き合い、技を磨くのに最適な方法だった。
醸造用の乳酸を添加するのではなく、蔵に漂う乳酸菌の力をかりて醸す酒は、うちの蔵にしか出せない味を絶対に出してくれるはず。原田杜氏のやり方もまだ完成形ではなく、より良い菩提酛の製法があるはずだった。
杜氏になってから今シーズンで15年目になる。まだまだ未完成の菩提酛は毎年工夫を重ねている。
特上雄町プロジェクトのお酒は菩提酛の純米大吟醸と決めていた。令和元年産最高品質の岡山県産雄町米と菩提酛の出会いは、果たしてどのような調和をもたらすのか。皆様もご自身の舌で確認してみて下さい。