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お台場の記憶 〜ジミー大西のオブジェ〜

ヴィーナスフォート閉館に寄せて

今から十数年前の学生時代、お台場でアルバイトをしていた。お台場といってもなかなか広いが、ヴィーナスフォート、観覧車、Zepp Tokyoなどがあるパレットタウン周辺。3年くらい通った。

その店のバイト募集を知ったのは偶然で、そもそもZepp Tokyoでドリンクカウンターのバイトでもしようと思って応募したのが、なぜか宛先不明で履歴書が戻ってきてしまい、近くにあった店に乗り換えたというだけだった。

お台場はどの店も慢性的にバイト人材が不足していた。そりゃそうだ。遠いから。求人広告に「お台場は意外と近い」みたいな文言もあったと思うが、やっぱり遠いのである。パレットタウンの最寄り駅はりんかい線東京テレポート駅かゆりかもめ青海駅だが、まずゆりかもめはお台場をぐるっと回るモノレールで遠回り感がかなりある。りんかい線はめちゃくちゃ地下深くて乗り換えが大変(特に大井町駅)。埼京線直通なので渋谷から1本だが、当時はホームが渋谷駅の一番端にあり、こちらも乗り換えるのにずいぶん歩かないといけなかった。

私は自宅から向かうときはりんかい線を使ったが、授業の後に行くときはわざわざ遠回りしてゆりかもめに乗ったりしていた。今考えるとめちゃくちゃ暇だったなと思う。「もう一生分お台場来たよね」とよく言っていた。

ジミー大西作の謎オブジェこと「オン・パレひろば」(2007年撮影)

パレットタウンの入り口に謎のオブジェがある。ジミー大西が作ったというやつ。私はいつもこのオブジェの下を通った。特に理由はなかったが、観光客が「これ何だろ?」と見ている横をさっさと通り抜けていた。バイト仲間に「後ろ姿でそうかなと思ったけど、あのオブジェの下歩いてたからあんたで間違いないと思った」と言われたことを思い出す。

パレットタウン側から見たオン・パレひろば。
大人1人で下を通る奴なんてまずいない(2007年撮影)

オブジェを通り過ぎて短いエスカレーターに乗ると、右手にヴィーナスフォート、左手にトヨタのメガウェブという展示場がある。メガウェブの中はいつも独特のにおいがした。新車のシートのにおいだ。動体視力をはかるゲームがあり、親子連れがよく挑戦していた。

ヴィーナスフォート側から。左がメガウェブ。
右奥にゆりかもめ青海駅(2007年撮影)

メガウェブを抜けた先に観覧車がある。休日は特に賑わう。しかしイルミネーションがしょぼかった。照明がちゃんと点灯してない部分が放置されていたし、文字が表示できる部分になぜか「COOL BIZ」と光らせていた。フジテレビの社員に向けたメッセージだろうか。

観覧車の足もとにはZepp Tokyoがある。東京テレポート、ヴィーナスフォート、メガウェブ周辺をうろうろしている若い男女のTシャツやグッズを見て「きょうは●●のライブかな」とアーティストを推測するのがバイト前のお決まりだった。東京事変のライブがあった時はめちゃくちゃ行きたかったがチケットが取れず、結局その日もバイトをした。行きのりんかい線でドラムの人を見たと言ったが信じてもらえなかった。まあそんなアーティストが電車で来るわけないか。

初めてZepp Tokyoに行ったライブ。出演者で「他」とされてるのがフジファブリックで、ここからどハマリした。よく考えたらバイト先よりZepp Tokyoの方がよっぽど思い入れがあるかもしれない

こんな嵐の日にお台場なんて誰も来ねーよ!という日もお台場に行った。「お台場は遠い」とお客さんにも言われた。お台場には居酒屋がほぼなかった。コンビニは小さくて地味だった。早く着いたからとスタバでコーヒーを飲んでいたら、隣に座った外国人男性(50代くらいの欧米系)に話しかけられ、最終的にメアドを聞かれた。一時は中国人観光客が押し寄せていて、店に中国語ができる人がいなくて面倒だったこともある。終電が早くて、バイト後に駅まで走ったりもした。

ただ、バイトそのものは面白かった。バイトや社員がわざわざ渋谷、新宿に集まって飲むくらいには一体感があった。お台場くんだりまで働きに来るような人たちだから、まじめな顔した変人が多かった。たぶん、当時の私も。

こうして思い返してみても、私にとってお台場は「思い出の地」「ホームタウン」などではないような気がする。観光客やライブに来た人であふれていて、何度行っても「よその街」「非日常の街」みたいな感覚があった。かといって思い入れが何もないわけではなく、強いて言うなら「古巣」だろうか。いつかパレットタウン周辺が更地になって跡形もなくなっても、数年に一度くらいはこの街のことを思い出したい。

写真が小さいのは、拡大に耐えられない画素数だから。
タイトル画像も2007年撮影。ガビガビしてます。時代。

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