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GOWお仕事図鑑 養殖供給部門編

グローバル・オーシャン・ワークスのぶりは、錦江湾上にある約200台の生簀で養殖しています。規格外の生簀数に、驚愕の病気予防策……。緻密な職人技を駆使し、もじゃこ(稚魚)から2年をかけ高品質のぶりを育て上げるGOW養殖供給部門主任の立山祥吉(たてやま・しょうきち)さんにお話を伺いました。

ぶりの状態、変化を見極める観察力

――立山さんの自己紹介をお願いします。

鹿児島市出身です。5歳の頃から高校時代まで志布志市で過ごした後、福岡の専門学校に進学しました。
専門学校では水族館や動物園、アクアショップなどに就職するための勉強をしていました。もともとは海洋生物の学者にあこがれて、魚に関わる仕事をしたかったんです。小さい時から祖父と一緒によく海に遊びに行っていました。モリで魚を獲る祖父にくっついて。だから魚のなかでも特に海の魚が好きで「海の仕事をしたいな」と思って今の職場にいます。GOWに入って8年になりました。

――魚を身近に見て育ってきたことはいまの仕事でも活きていますか?たとえばぶりの「表情」から状態を見極められるとか。

見られるようになりたいですけど、まだ表情までは(笑)「餌食い」の様子から、調子の良し悪しを判断しています。餌をあげた時、魚が水の表層を勢いよくバシャバシャすれば餌食いが良く魚の調子がいい状態です。海水1Lに含まれる酸素量が5㎎以下だと低酸素状態とされるのですが、そういうときはやはり餌食いが悪いですね。

カメラを水中に入れて試験することもあるのですが、その時は生簀の網汚れも確認します。網汚れがあると生簀に潮が入らなくなって餌食いが悪くなるからです。網の汚れは直径1m前後の網洗い機で掃除します。

10万匹のぶり1匹1匹に手作業でワクチンを接種

――ぶり養殖の一年の流れを教えてください。

3月頭から4月にかけて、もじゃこ(流れ藻を隠れ家とするぶりの稚魚)の漁をします。種子島で天然もののもじゃこを獲ってから、垂水と桜島の漁場に受け入れています。ある程度餌をやって育て、6月ぐらいに病気予防のワクチン接種をします。

――え?! ワクチン接種って注射ですか。

はい。

――1匹1匹に注射するんですか。

約100g、15㎝くらいのもじゃこ1匹1匹に注射します。

――いったい何匹に注射するんですか?

30万匹くらいです。秋ごろから定期的に入ってくる人工種苗のもじゃこも、受け入れるたびにワクチンを打ちます。負担を考えて夏場の時期は避け、なるべく水温・気温が低い時期に実施しています。

――ワクチンは1回だけですよね。

出荷までに2回ですね。

――ええ?! 毎回水揚げして打つんですか。

はい、2度打ちですね。1回目は100gぐらいの時に打ちますが、2回目は2年目の最終分養前の時期で、 2kg、50cmくらいになっています。麻酔を入れたタンクに水揚げして、台に移して注射を打ちます。 養殖ぶりがかかる代表的な病気に、赤血球のまわりに菌がつくレンサ球菌症と、魚の脳神経にダメージを与えるノカルジア症があります。レンサ球菌症はワクチンでほとんど抑えることができていますが、ノカルジア症は薬を入れても、完全には抑えきれません。ノカルジア症にかかったぶりはエラに結節ができたり、体表にブツブツができたりします。エラに結節ができると酸素を取り込めなくなるので、死んでしまうこともあります。 他のぶりにも感染するので出荷にも影響します。薬で一時的に抑えられることもありますが、夏場の高水温の時期は、抑えきれず、水温が下がるまで収束しないこともあります。天然ものは比較的強いのですが、※人工種苗は天然ものに比べて比較的弱いので感染しやすいです。

※人工種苗:人工的に孵化させたぶりのこと

変形を防ぐ「餌止め」 

――美味しいぶりを育てるために工夫していることを教えてください。

夏場に餌をやると尻尾が曲がるなどの変形が出るので、「餌止め」で対策します。はっきりとしたメカニズムはわかっていませんが、雨量が増え塩分濃度が下がることが変形の原因のひとつと考えられています。また、水温が上がり始め海水中の酸素量が少なくなっているなか給餌をすると、餌を食べて活性化したぶりが速く泳いでたくさん酸素を取り込もうとし、元々少なくなっていた水中の酸素量がさらに減っていきます。こうした理由から、水温の上がる梅雨前3週間〜1ヶ月は餌を止めます。
ただ餌をやらない時期があると当然成長は止まってしまうので、11月の出荷時に目標としているサイズに達しなくなってしまいます。そこで少しでも大きい※人工種苗のぶりを受け入れることで、目標サイズでの出荷に努めています。
天然ものの場合、餌止めは稚魚で受け入れてから1年ちょっとの時期にあたりますが、養殖ものは出荷間近のタイミングで餌止めをします。その時期には既にある程度大きくなっているので餌止めをしても出荷サイズにはあまり影響しません。なので、養殖もののほうが変形も防ぎつつ大きく育てることができます。
できるだけ脂ののったぶりにできるよう、餌の油分調節も工夫しています。夏場に油量の多い餌をやると魚の状態が悪くなるので、油分の多い餌は水温が低い時期に与えます。臭みを取るために茶葉を入れるなど、餌の配合も試行錯誤しています。できるだけコストを抑えて魚を大きくする餌を目指しています。
※人工種苗のぶり:ここでは人工的に孵化させてある程度の大きさまでそだてたぶりのこと

業界の常識をはるかに超える約200台の生簀

――生簀はいくつあるんですか。

200台くらいです。

――とんでもない数ですよね!生簀の数って一つの会社に数台しかないんじゃないですか。多くても10台くらいかと。約200台もの生簀をどうやって管理してるんですか

1人あたり10台から15台の管理を担当しています。

――1人で1個の会社をまわせるじゃないですか(笑)

小さい生簀や魚の数が少ないのもあるので……。

――ひとつの生簀に何匹ぐらい入れているんですか

出荷前は3000尾……。

――「小さいので」って謙遜する数じゃないですよ(笑)立山さんご自身は何台担当されているんですか。

いまは20台ぐらいです。2年生(※養殖2年目のぶり)は給餌する月曜日・水曜日・金曜日の週3回まわっています。稚魚は毎日給餌するので、毎日まわります。品質管理部で取ってくれたデータ資料に目を通して「この時期に何kg餌をやる」という目標を決めています。3kgを超えてくるとノカルジア症など病気にかかってしまうことも多くなるので、注意が必要になります。出荷の目安は5~6.5㎏ですが、生簀のなかの魚の密度も成長に影響する要素なので、そのあたりのバランスも考えながら随時出荷しています。新物だと4kg弱で出荷することもあります。天然ものと人工種苗は成長時期をずらしているので、出荷時期もずらすことができます。年間通じて安定供給できるのは強みです。
一方で、人工種苗の稚魚を冬場にも受け入れるようになり、餌やりの業務は増えましたね。稚魚は一日に2回給餌なので土日も餌やりが必要で、シフトを組んで対応しています。

他部門との連携、「達人」からの学びでより良いぶりを提供

――加工部門や営業部門の方々と話す機会はありますか。

月に一度会議を持っています。加工部門から「何kgの魚が欲しい」と言われれば、養殖部門ではそれを目標に給餌の計画を立てます。営業からはやはり「できるだけ大きい魚を」という要望が出ますね。ほかにも「生簀を常に良い状態に保つためには、小さな魚もコンスタントに出荷の必要がある」「そのための売り先も確保しなければ」など、部門を超えて意見交換しています。
養殖部門としては加工や営業からの要求にできるだけ応えたいので、「何kgの魚を何月に欲しい」という明確な設定を早めにもらえるとありがたいです。それに合わせて給餌方法を変えて、目標体重の魚を育てるので、販売計画の共有などうまく連携が取れていると動きやすいですね。

――養殖部門一の「ぶりの達人」は誰ですか。

尾脇部長ですね。見ただけで魚の状態がわかるんです。海の色を見て、酸素の有無を判断したり、病気に早めに気づいたり。水の透明度を見ているんですね。珪藻類のプランクトンは二酸化炭素を取り込んで酸素を放出するので、珪藻類が多いときは酸素が多いのですが、その時は水に濁りがあります。逆に透明度が高い時は珪藻類がいないので、酸素が少ないです。一番怖い赤潮の影響もいち早く察知し、採水して漁協にプランクトンの量を見てもらうことで、影響を防いでいます。

一番の目標は「ぶりを死なせないこと」

――もともと魚が大好きで、魚に関わる仕事をしたいとGOWに入られたわけですが、実際GOWに入って8年間ぶりの養殖に携わってみてどうですか。

小さいうちから餌をやっているぶりが出荷されてお客様のところに届くところにやりがいを感じています。楽しいですね。魚を死なせずに成長させることが一番の目標なんですけど、それは一番難しいことで……。

――素晴らしい目標ですね。育てていたぶりが死んでしまったらショックですか。

……(無言で何度も頷く)。

――とても血の通った養殖をされていると感じます。

営業や工場とも連携しているので、そういう意味でもなるべく死なせないのが一番ですし、責任を感じています。昨年の歩留まりは稚魚から出荷まで無事に成長させられているのは、天然もので約9割、人工種苗だと約7割くらいです。病気の予防や環境面など、歩留り(生残率)を上げるための課題はまだいっぱいありますね。


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