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「評価モデル」実装化を踏まえ、「新・議会改革運営ビジョン」「活動目標・アクション」を策定へ――長野県飯田市議会

 長野県飯田市議会は2023年4月26日、臨時の記者会見を開き、公益財団法人日本生産性本部の研究会が作成した「地方議会成熟度評価モデル」導入の中間的取りまとめ(実施報告書)を公表した。飯田市議会はほぼ1年かけて「議会プロフィール」と「地方議会成熟度評価モデル」を実装化。今後、進行管理の新たな組織を立ち上げ、「新・議会改革運営ビジョン」や、今任期の残り2年間+次任期4年間の「活動目標・アクション」を定める予定だ。全議員で評価モデルを実装化し、一定の成果をまとめたのは飯田市議会が全国初と見られる。


■3層体制で評価モデルを実装化

飯田市議会では、3層体制で評価モデルの実装化に取り組んだ。

 

記者会見で取組みの概要を説明する井坪隆議長(4月26日)。

 評価モデルに取り組むにあたって飯田市議会(議員定数23人、現員22人)では議員を3つのグループに分けて議論してきた(一グループ7~8人)。リーダーは2期目、サブリーダーには1期目の議員が就任。「リーダー・サブリーダー会議」の運営管理などを行う組織として「運営プロジェクト」(統括:永井一英議員)、全体の評価モデルの進行管理として「議会改革推進会議」(委員長:古川仁議員)という3層体制を敷いた。

 4月26日の記者会見ではまず、井坪隆議長が取組みの概要を説明した。井坪議長は、「飯田市議会在り方研究会」の発足(2002年9月)から20年、「議会改革・運営ビジョン」の策定(2012年3月)から10年という節目を迎え、「存在する議会」から、「機能する議会」へ質的転換を図る必要性を強調。「持続可能な改革につなげたい」と評価モデル導入のねらいを説明した。

 2022年3月の導入初期時には、「チーム飯田市議会(議員の連合体と議会事務局)が地域経営に責任を持つ」「議会改革・運営ビジョンの課題解決のために『身体検査・自己評価』」などからなる「議長レポート」を発出し、全議員の積極的な参加と理解を求めた。
 今回、評価モデルを全議員で取り組んだことについて井坪議長は、「飯田市議会のクオリティの維持・進化・発展につながる。今後、マネジメントサイクルを徹底させることで市民にとって身近な議会になるし、将来を見据えた議会改革の足がかりができたと自負している」と語った。

■「成熟度評価」◎は「総合計画、政策評価、予算・決算の連動」の1項目のみ

「成熟度評価」の結果について説明するリーダー・サブリーダー会議の運営管理を行ってきた「運営プロジェクト」統括の永井一英議員(4月26日)。


 「議会プロフィール」は「基本データ」に加え、①議会に期待される役割(ミッション)②議会が実現すべき理想的な姿(ビジョン)③現在の姿④今後の議会を取り巻く社会環境の変化⑤これから取り組むべき課題⑥通任期(4年間)の活動目標・アクションーーで構成される。議会が進むべき方向性や議会改革の方策について、1枚のシートで検討を行っていくためのツールだ。

 飯田市議会では独自に次のような「スローガン」を、「ミッション」「ビジョン」の上位概念として設定した。

「『くらし豊かな いいだの未来(あす)を 市民とともに』~市民のしあわせに貢献する議会~」

 これはミッションやビジョンを議論する中で「誰でもわかるよう、封筒などに印刷できるようなものがあればいい」といった意見から創出されたものだという。

 ミッション(4項目)とビジョン(4項目)は22年11月にまとめた案通り(*2022年12月19日公開記事参照)。⑤は「政策サイクルにおけるタウンミーティングの実施と定着」「議員間討議を行うための論点を明確にする仕組み」「予算提言を行うための予算決算委員会の機能向上」「事務局体制の充実、強化」「所管事務調査などにおける専門的知見の活用」「議会BCPの磨き上げ」「次の任期においても、継続して取り組むことができる制度」など計28項目を挙げたが、⑥通任期の活動目標・アクションは空欄で先送りとなった。

 「成熟度評価」は5つの視点で計16項目あり、自己評価→各班のグループ討議→リーダー・サブリーダー会議を重ねて集約。最終的には2023年2月8日に全体会を開催し、全議員で情報共有、合意形成を図った。

 「成熟度評価」は「◎:継続的に成果を生んでいる、〇:取り組んでいる、△:模索している、-:いずれにもあてはまらない」の4段階で評価。その結果、◎は「総合計画、政策評価、予算・決算の連動」の1項目、△は「課題解決の具現化」「主権者教育と選挙の充実」の2項目、そのほかの13項目は〇となった。

 かなり辛めの評価に見えるが、記者会見で運営プロジェクト総括の永井一英議員は「どちらかというと『伸びしろがある』という評価。(実施しているが)果たして市民に伝わっているか、議員全員が理解しているかといった議論があった」と説明した。

■「新しいカタチ(組織体制)」で成果を引き継ぐ

代表者会(3月14日)に提示された、評価モデルの成果をつなぐための組織案。


 飯田市議会の議会改革推進会議は3月14日、代表者会に評価モデルの成果をつなぐための組織案を提示した。
 評価モデルの成果を引き継ぎ、課題解決の実践を担うマネジメント組織が必要であり、その役割は▽「今後取り組むべき課題」から“取り組むべき優先課題”を精査▽現行の「議会改革運営ビジョン」を振り返るとともに「新・議会改革運営ビジョン(仮称)」の策定▽議会プロフィール⑤「これから取り組むべき課題」+⑥「通任期の活動目標・アクション」を仕上げた上で、変革の断行と進行管理▽「理想的な姿」の実現に向けて、必要な条例等の整備、市民への公表の在り方の研究――と整理。従来の議会改革推進会議ではなく、「新しいカタチ(組織体制)をつくる」との方向性をまとめた。

 「新しいカタチ」では、スローガンやミッションに「市民のしあわせ」「市民の意思」「市民に開かれた」などの記述があり、「議会は市民のために存在し、市民のために機能しなくてはならない組織」であることから「議会への『市民参加』が不可欠」と強調。進行管理の主体として「未来創造会議」(議長や常任委員長などで構成)、改革の実践組織として4つの専門部会(市民との対話、政策サイクル、研修・ICT、危機管理)、そして学識経験者や公募市民で構成する「わがまちの議会を考える市民会議(議会市民会議)」の設置を提案した(組織名はいずれも仮称)。

 飯田市議会は23年5月で今任期の折り返しを迎えることから、新たな組織体制は5月からを想定していたが「もっとみなさんの腹落ちしないといけない」という意見が出され、先送りとなった。
 23年度中には新組織を確定させる見通し。飯田市議会は2006年9月に議員提案による飯田市自治基本条例を制定した際、全国初といわれる議会による市民会議(「わがまちの“憲法”を考える市民会議」=公募委員8人、学識経験者4人、議員8人、行政職員4人の計24人で構成)を設置し検討してきた経験がある。今回検討されている「議会市民会議」は、条例設置の議会の付属機関として外部評価を想定しており、実現すれば画期的な取組みになるとみられる。


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1年間、評価モデルに「議員全員で取り組む」
――井坪隆議長、統括の永井一英議員、和泉忠志議会事務局長に聞く


井坪隆議長、「運営プロジェクト」統括の永井一英議員、評価モデルの実装化を補佐してきた議会事務局の和泉忠志局長に、取組みの成果や今後の展望などについて聞いた。


■一つの言葉をめぐって白熱した議論

井坪隆議長。
「運営プロジェクト」統括の永井一英議員。

ーー飯田市議会では、1年がかりで評価モデルに取り組んで中間的なとりまとめを行った。
井坪 「議員全員で取り組む」という飯田方式を掲げて、まさに全員で取り組めたことについては大いに達成感がある。
ーー新しいことを導入すると、拒否感を示す人が出がちだ。
井坪 そう。途中でベテラン議員から、「分かった人たちが評価すればいいじゃないか」という声も出たが「そういうものじゃない」と理解してもらった。3つのグループに分け、全員で取り組んだことで、お互いに気づきを発見するなどの効果があった。
ーー飯田市議会は、議長が先頭に立って音頭を振ったのも特徴だ。
井坪 前任の議長が地方議会評価モデル研究会に参加していて、申し送りがあったので引き継いだ。みなさんに参加してもらうために議長レポートで「なぜ取り組むのか、何を目指すのか」を示して全員で取り組む意義を確認した。
ーー導入してからは、議会改革推進会議委員長の古川仁議員や運営プロジェクト統括の永井一英議員がまとめ役となった。1年間取り組んでみて永井議員の感想は?
永井 2011年のとき(自治基本条例検証会議:全議員が3グループに分かれて検証)、私は1期生の後半でグループリーダーを務めた。記憶に残っているのはリーダー同士のぶつかりあい。今回は3つの班のリーダー・サブリーダー会議の意見を飯田市議会の意思にすることになったので、そこは思ったよりも大変だった。
 リーダー等は1期生と2期生。特に1期生は議員になって1年余りなので当然ながら議会のルールもさほど知らない。悩み、苦しむところから聞き出しながらまとめる作業はそう簡単ではなかった。
ーー期数の若い議員がリーダー・サブリーダーを務めた。議長が配置したそうですね。
井坪 自己評価は議員個々の感性や感覚で評価していく。当然、期数によってばらつきが出てくるので、まとめるときのリーダー・サブリーダー会議の役割は非常に大きかった。グループに戻し、たたかれて、また戻ってくる。行ったり来たりの議論があったが、それが非常に有効だった。
永井 3つの班は、会派も期数も男性・女性(の数)もぶち抜いて、できるだけ均等につくったことがポイントだった。そしてリーダー・サブリーダーが意見を束ねる。今後、彼らは常任委員会の委員長等になるかもしれない。その大きな訓練の場にもなったのではないか。
ーー言いたいことを言えないでいると腹落ちしない。ミッションの「経営」など一つの言葉の意味をめぐって白熱した議論があった。
永井 ミッションでは、「経営」に加え、「協働」ではなく、「共働」を採用したことも徹底的に議論した。
井坪 そのような議論はいくつもあった。全体会議などでは「主権者教育はなぜ議会がやらなくてはいけないのか」という指摘もあった。

第1回全体会。3班のリーダーがそれまでの議論の経過を説明。全体会は本会議場で開かれた(2023年2月8日)。

■議会の「健康診断」に

ーー次に内容面について。議会プロフィールでは独自にスローガンを設けた。
井坪 ミッション・ビジョンを議論する中で、「何か一言で表せないか」という意見が出た。たとえば「市議会の封筒に書ける言葉はないか」と。ミッションとビジョンをまぜて、そこから抽出されて出てきたのがスローガンだ。
永井 スローガンという言葉もあとからできた。最終的にこうなったが、行ったり来たりの議論を繰り返した。
 スローガンに「市民のしあわせ」という言葉がある。いわゆる住民福祉の向上だが、「意味がよくわからない」という意見がある班から出たり、別の班からは逆に「それ(市民のしあわせ)を入れないと通さない」という想いがあったり。それぞれの班と班の想いがぶつかって最終的にまとまった。
ーーまさに議会における合意形成をどう図るかという難しさですね。そして成熟度評価では16項目について評価を行った。
永井 日本生産性本部から「評価の理由と根拠を大事に」と言われた。理由と根拠はプロフィールの③で検討していたが、もういちど見直し、それを持ち出した。一人ひとりから出た評価はバラバラだったが、各班で議論してまとめていった。はじめにリーダー・サブリーダー会議で見方(評価の手法)について意思統一したのも特徴かなと思っている。
ーーリーダー・サブリーダーは1・2期目の議員で、ベテランに比べれば議会の理解が浅いところがある。
永井 議員間討議は議会でルールが決まっているが、十分に周知されていなかったり、法令順守についてもルールが一部知られていなかった。そういう状況が明らかになったのはむしろよかった。16項目は、民間の経営品質なり、研究会で数年かけて検討してきただけのものがあって、飯田市議会がこれに取り組む意義があった。議員の意識が上がってくるし、「そのように考えるんだ」という新たな気づきにもつながった。
ーー現状の洗い出しが、議長が指摘する「健康診断」という意味もあったと。
井坪 個人の評価なので、ばらつきが出るのは当然のこと。リーダーが取り組んだ感想に「期数の差で自身の意見が言えなくならないように『正解はない』『気づきが大事』という点を重視して進めている」というものがあった。このあたりがテクニックかなあと思う。
永井 プロフィール③のところで各班から「知っているベテランがつくればいい」という意見が出た。それをリーダーが「いや、そうじゃないんです。全員でやるんです」と自分の言葉で説得したのも感動的だった。

「地方議会評価モデル導入に伴う江藤教授との懇談会」(2023年2月14日)。江藤俊昭・大正大学教授から課題等を解決する手段や進行管理のあり方などについてアドバイスを受けた。

■市民も委員とする議会の付属機関も視野に 

ーー具体的に取り組む⑥「活動目標・アクション」欄は空欄。今後の方向性は?
井坪 取り組むべき課題が明確化されたので、これを精査して、確定をめざしていく。課題を振り分け、どのセクションで研究・検討していくのか進行管理の組織づくりが必要だ。本当は体制まで整えて、次期(今任期の後半)に申し送りをしたかったが、「もっとみなさんが腹落ちしないといけない」という意見がたくさん出された。全員参加で取り組んでいる以上、案は示したが、それに対してもう少し練った方がいいということになった。
ーー今後、さらなる改革に踏み出すということだが、市民への伝え方は?
井坪 いま三つ考えている。一つは記者会見。できるだけ多くのマスコミに声をかけ、マスコミを通じて取組みを紹介する。二つ目は評価モデルの取組みについてわかりやすい資料をつくって市民に配布したい。三つめが10月に行われる議会報告・意見交換会。このときも評価モデルに取り組んだ経過や内容について説明したい。
永井 ツールも手法もこれまではどちらかというと市民の意見を聴くことを大事にしてきた。でも広報も大事だという議論になりつつある。

■「事務局体制の充実」を議会全体で議論

和泉忠志・議会事務局長。

ーー「チーム飯田市議会」として、井坪議長は議会事務局について「議会側からは“僭越”とも取られるほどの進言があった」と指摘している。今回の取組みにおける議会事務局の役割、評価は?
井坪 三つある。一つは日本生産性本部との連携を図ってもらった。全体の運営では、レールを敷き、軌道修正もしてくれた。そして評価モデルの作成に当たって、言うべきことを言ってくれた。
「僭越」という言葉は僭越だが、きちんと言うべきことは言う体制をわれわれもとっていたし、かつてのように議会事務局(職員)は黙っていればいいものではない。事務局は脇役ではない。一緒にやる体制にしたら十分に応えてくれた。
ーー和泉さんの感想は?
和泉 議長レポートの中で「チーム飯田市議会」と提示してもらった。そういう体制を持つと言ってもらえたのは、(局長の)上司が議長なので、業務に携わっていく中で非常に職員の安心感につながった。そして、結果としてやりがいがあった。
 評価モデルに取り組んでいく課題(項目)の中で「事務局体制の充実」がある。それを議会全体で議論してもらった。いままでは個々の議員が「事務局は大変だろう」とは言っていたが、議会全体での議論はなされなかった。それを組織として議会全体で議論して、「事務局を何とか充実しないといけない」となっている。
 それは僕らにとっては非常にありがたいこと。事務局サイドとしてもこのままの体制ではやり切れると思っていなくて、職員を増やしながら議会の政策機能をしっかり補佐していきたい。そして、議会事務局への異動が「左遷かな」と思う職員を市役所から皆無にしたい。「議会事務局は政策にも関われるし、議員と対等に議論しながら、まさに自治の根幹にかかわるおもしろいところだ」と思ってもらえるように、今後も頑張っていきたい。
(文・写真/上席研究員・千葉茂明)

(注)記事中の肩書きは取材日(4月26日)時点。飯田市議会は5月9日の臨時会で、議長に熊谷泰人議員を、副議長に竹村圭史議員をそれぞれ選出した。

〇日本生産性本部・地方議会改革プロジェクト
https://www.jpc-net.jp/consulting/mc/pi/local-government/parliament.html

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