見出し画像

橋本『中国語とはどのような言語か』東方書店

橋本陽介『中国語とはどのような言語か』(東方書店、2022年)を読んだ。全体の感想と気になる点を記す。

感想

細かい構成は出版社紹介ページに紹介されている。章タイトルだけ抜き出すと次の通り。

まえがき
第一章 基本文法
第二章 語彙
第三章 中国語の品詞と文成分
第四章 中国語における主語、主題、目的語
第五章 連動文と前置詞
第六章 中国語の時間表現
第七章 現代中国語の“是”
第八章 連体修飾と“的”
第九章 中国語の「一つの文」と「流水文」
第十章 流動する叙述と修辞構造
あとがき

全体的な流れとして、総論から各論、初級文法の基礎から構文論を通って文体論という流れになっているので、読み進めていくうちに内容の難度が上がっていく。

取り扱っている内容も網羅的という訳ではないだろうが、各項目ごとに参照すべき参考文献が挙げられているので、既に中国語を教えていて学習者の質問に備えておきたい人や、これから学問としての中国語学に進みたい人には特に有用だと思う。中国語を始めたばかりの人には全体を読み通すのはキツそうだが、ひとまず買っておいて、学習の進度に合わせて少しずつ読み進めるという使い方もできそうである。

私自身は「中国語チョットヤッタ」レベルなので、前半は楽しく読めたが、例文に小説からの引用が増え、それに伴ってピンインの併記もなくなるあたりから読み進めるのが大変だった。それでも、日本語との対比もあり、また頭の中で馴染みのある西欧の言語と比べながら、対照言語学的な視点で読むのでも十分楽しめた。ところどころに挟まる、歴史的な説明、漢文との比較も興味深かった。

まえがきにある「中国語がどのような言語か知りたい人、すでに学習中の人、言語学的な研究を志す人、研究者の人、とにかく中国語に触れたことがある人[…]。どの段階にある人でも、新たな発見があることを保証する。」という言葉に偽りはないだろう。

他の言語でも、類型論や対照言語学的な視点を含めた、初学者から研究者まで幅広く対象とするような本が出てほしい。本書はその一つの模範になりうると思う。

気になった点

2022年9月20日 初版第1刷のKinoppy電子版で確認できたもの。

p. 46
この“叫”は、もともと「呼ぶ」の意味であるが、「〜を呼んで〜させる」ということから使役になったものと思われる。

とあるのだが、直前の例文は「让我看。」と「老师让我们买他写的书。」の二つで、どちらも「让」を用いたものなので、ここで「この“叫”は」と続くのは唐突の感がある。草稿の段階では二つ目の例文、ないしは消されてしまった三つ目の例文に「叫」が使われていたのであろうか。

p. 60
並列形式の場合、“东西 dōngxī”“左右 zuǒyòu”“表里 biǎolǐ”“风雨 fēngyǔ”“山海 shān hǎi”などのように、原則として声調順で並べられる(もちろん、例外はある)。

ここでいう「声調順」とは、第一声・第二声・第三声・第四声の順ということであろうか。他に読みようがないと言われてしまえばそうなのだが、もう一言説明が欲しかった。あるいはこの声調のナンバリングは並列語での順序を元につけられたものなのだろうか。いずれにせよ、“东西 dōngxī”“表里 biǎolǐ”のように前後ともに同じ声調の場合は「声調順」で説明できないので、ここに掲げる例としてはふさわしくないように思う(または追加の説明が欲しい)。

p. 78
电脑坏了。Diànnǎo huài le.
(パソコンが壊れた。)
我弄坏了我的电脑。 Wǒ nònghuàile wǒ de diànnǎo.
(私は私のパソコンを壊した。)
电脑弄坏了。Diànnǎo nònghuài le.
(パソコンが壊れた。)

「他動詞+結果を表す自動詞・形容詞」が合体して、一つの他動詞のように振る舞うという話の流れで、「壊れる」を意味する“坏”に、他動詞“弄(〜する)”を加えることで「壊す」の意味を表せるとして、上二つの例が説明される。それはいいのだが、三つ目の例文については何の説明もない。主語を明示しないことで、結果的に日本語では一つ目と同じような訳になってしまうということかとも思うが、説明は欲しい。

p. 99
英語ではこのような移動の行われる場所は目的語にできないので、fly in the sky ,walk on the road などのように言う。

コンマとスペースの順が逆になっている。

p. 105
最初に参照にするもの(第一項)は、既に話しても聞き手も知っていることであることが多い。

「話し手」であるべきところ。

p. 109
[…]おそらくこの男たちがドアを開けたのだろうが、誰が開けたかついてはわかっていない。

「誰が開けたかついては」

p. 117
(下記画像参照)

組版の問題だけれど、和文と英文が混ざっている場合、英文側で文字間調整して欲しい。

p. 215
父亲应声弹起,与罗汉大爷抢过去,每人抓住一面早就铺在地上的密眼罗网的两角,把一块螃蟹拾起来,露出了螃蟹下的河滩涂地。
父ははね起きて、羅漢大爺にまけじとかけより、各人が地面に広げておいた細い目の網の両端をつかみ、蟹どもを持ち上げ、その下に隠れていた干潟の地面が姿を見せた。(莫言《红高粱家族》)

原文は、「父の行動→羅漢大爺の行動→二人の行動→地面が姿を見せるという状態の変化」と続いている。

最初の二節はどちらも「父の行動」のように読める。

ここから先は

0字

¥ 100

期間限定 PayPay支払いすると抽選でお得に!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?