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ふたりでお出かけしようね

こんばんは。
レモンコマドリの小野寺ゆきと申します。

私はお笑い以外では看護師としておつとめをしているのですが、そのおつとめ先の老人ホームに、
とっても仲良しのご婦人がいます。仲良しというのが正しい表現かは分かりません。私が一方的に大好きなご婦人がいるのです。

今回はそのご婦人とのお話をさせて
頂けたらと思います。

そのご婦人、詳細はあまり言えないのですが
様々な疾患が影響して、私をご婦人の
"職場の後輩” だと思っておられるのです。

「仕事は終わったの?」
「ちゃんと掃除はできてる?」
「サボってばかりいちゃだめよ。」

と、ことある事にそう言われます。

私は健康観察のためご婦人の元を訪れているのですが、ご婦人からすると、後輩が自分の元にサボりに来ているというわけです。

それを聞いた私は、

「仕事は順調ですよ。」
「しっかり掃除していますよ。」
「疲れちゃったので少しサボらせて下さい!」

と返します。

一般的に嘘をつくのは良くない!と言いますが、
この場面においての嘘は嘘ではないと思うのです。私の嘘がご婦人の本当で、ご婦人が本当だと思うのならば私の嘘は嘘では無いのです。

ご婦人のお母様はまだご存命で、ご婦人のお子さんはまだ10〜20代で。ご婦人はその世界で生きています。ご婦人がいちばん思い入れのある時代で時が止まっているような。

時に、
「あなたはとっくの昔に仕事は辞めてるの!
訳の分からないことばっかり言って。」
「母親だってとっくの昔に死んでる!
幾つだと思ってるの!」
という場面を見かけます。

なぜそんなことを言わなければならないのでしょう。ご婦人の顔はどんどん曇っていき、一人になった時に泣いておられるのです。パニックでしょう。自分の人生を否定されているような。私はそんな場面に出くわすと、二人きりでお話をするようにしています。お話と言っても私はほとんど話しません。手を握り、はい、はいと言い、うんうんと頷くようにしています。できるだけ同調し共感し、傾聴するように。絶対に否定だけはしないように。

「お寿司を食べに行こう」
「焼き鳥を食べに行こう」
「プリクラを撮ろう」
「お家に遊びにおいで」
「泊まっていってもいいよ」

ご婦人とは、たくさんのことを約束しています。
私と一緒にお出かけしたい、遊びにも来て欲しいと、そう思ってくれているようです。これは看護師冥利に尽きるというか、正味看護師どうこう関係なく、私個人がとっても嬉しく感じています。

たかが一看護師が、一入居者様とこんなに親しげでいいのか?と思う方もいるかもしれません。
ですが私は基本的に全員に同じ接し方をしています。それに対する返りが違うため、親密度が変わってきますが。このご婦人とは同じ太さの矢印が向いているというような感じでしょう。

時に本当のことを言ってしまった方がいいのでは無いかとも思ってしまいます。出来ないことを出来ると言い続け、誤魔化し続けるのにも限界があります。申し訳なくなるのです。本当はいけないのにごめんねと、心の中で何度も何度も謝ります。こんなに素敵なご婦人。関係が違ったら、例えば親戚だったら、喜んでお出かけしていたでしょう。でも、来ない日を楽しみにしているご婦人を前にして、どこどこにいいお店があるのよ、なんとかが美味しくてね。とにこにこ笑うご婦人を前にして、行けないなんて言い出せないのです。
結局私は、お別れの日が来るまで、お別れの日が来ても、本当のことは言えないのでしょう。

老人ホームに勤め始めて一年が経ち、
5人の方とお別れをしました。 
「また明日!」と手を振った姿が
最後だったこともありました。
いつもと変わらず元気だった方が、
次仕事に来た時、居ないこともありました。

そのくらい死が間近にあるのです。
わかる人にはわかる言葉でいうと、
「老年看護」
というのですが、新卒の時から私は老年看護を
選んできました。母性でも小児でも成人でもなく、終わりに向かっていく老年看護を。
最初はそんなに大きな理由はなく選んだのですが、今ではこの選択は正しかったと思っています。自分の性に合っているようです。

ご婦人の人生のひと瞬間に関わらせていただいている。それも最後になるかもしれない瞬間に。
時に本当では無いことを言うかもしれない、
けれどいつだってご婦人の味方で、ご婦人を思っての言動であるということを大事にしていきたいです。間違っても独りよがりにならないように。

何でかこの文章を書きながら、いつか来るお別れを考えて泣いてしまいました。さよならしたくないなって会う度に思います。そんな心よわよわの私ですが、明日はおつとめの日です。ご婦人始めたくさんの方とお会いします。みんな元気で、
笑顔溢れる一日になりますように。

ご覧いただきありがとうございました。
おやすみなさいませ🌸



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