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是安則克メモリアル

「是安則克メモリアル」(2012年、アケタズ・ディスク)。その前年に亡くなったベーシスト是安則克の追悼盤で、ピアノ小太刀のばらと是安のデュオのライヴ音源。是安のアルコで始まる小太刀のオリジナル「ジ・エンド」から、明るく締めくくるラスト「ユー・アー・マイ・エヴリシング」まで、8曲74分32秒。1曲平均9分超だが、ダレる部分がなく、ヘッドホンで爆音で音を追っていくうちに、あっという間に時間が過ぎてしまう。しかも何度聴いてもそんな感じ。名盤だと思う。

是安のベースは長いソロのなかで、ものすごい数の音を使い、生きたフレーズをつなげ紡ぎ続ける。そして、弾かれる弦の音色と音圧はめちゃくちゃ太く強い。繊細な音の紡ぎと超重量感ある音の質感。両者がセットで絡みあってこちらの耳を奪う。小太刀のキレが良く美しい響きのピアノがまた、そんな是安の超個性的なベースの音によく合っている。

まずは、オーネット・コールマン「ロンリー・ウーマン」を聴いてみてほしい。過去でも現在でもいろんなミュージシャンが演奏している曲だが、この二人のヴァージョンの音楽的濃密さと緊張感は、そんななかでもランキング上位に入る個性ではないだろうか。聴きながら思わず「すげえ」という言葉が漏れてしまう(毎回)。

オーネット以外でもミンガスの曲もあったりで、熱く燃える「黒い」ジャズの空気ももちろんある。しかしそれ以外の選曲になかなか味がある。例えば後半の是安のベースの歌い回しが優しく泣けるメロディアスな「キャスバー」のオリジナルは、1949年のファッツ・ナヴァロ&タッド・ダメロンの怪しいキューバ音楽もどきジャズ。メランコリックな曲調「オールウェイズ&フォーエヴァー」は、パット・メセニーの92年作「シークレット・ストーリー」から。何度も聴いているうちに、ジャズの王道から外れたこの2曲の演奏が最も好きになった。

「私はパーカーに始まり、モンクやパウエル、ドルフィー等の影響を受けて来たが、是安さんが、ヨーロッパ音楽の風、フリージャズの風を吹き込んでくれた」。当作品のライナーノーツのなかで小太刀が書いているこの言葉が、2人の演奏の雰囲気を最もよく伝えていると思う。

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