懺悔:何故私は「声優やってました」と言い続けたのか~2~

芸歴is武器。武器は芸歴のみ。だったらもう話しが早い。迷っている場合じゃない。俺は、この俺は職務経歴書を真っ黒に染め上げてやる。十年やってきたんだ。とりあえず書き込めるだけの芸歴は持っている。アニメは少ないが、洋画やゲームなら結構出てきた。少ないながらも主役もやってきたし、映像作品では賞をもらったりもしてきた。だったらイケるぜ。

ハローワークの優しいおっさん(多分非正規雇用)から就活のイロハ、まずは履歴書や職務経歴書の書き方を学んだ私は進み始めました。とりあえず何か行動をしていなければ不安だったのもあります。しかし、現実問題バイト先にも「二ヶ月後には辞めます」と宣言してしまいました。とりあえずは進めないとダメなのです。嫌でも毎日は過ぎる。目標がある場合は心が満ちた状態で前向きに進めます。目標が無い状態なら目標を定める為にゆっくりと進めます。しかしケツに火が付いた状態ならどうか?答えは簡単です「多分なんとかナルンジャネー!?」と言うモードに移行してしまって全く何もしなくなります。それでは駄目で数ヵ月後にはもう駄目になってしまう。生きていられなくなってしまう。
ならば今動こう。そうだ、もうとりあえずリクナビとマイナビにウェブ履歴書を登録した。でもリクルートは…エージェントに断られたし…怖いなあ…よし、マイナビに決めたろ!こう言う風に今考えると「やらない理由」をなんとかひねり出して居た事に驚愕してしまいます。私はこんなに怠惰な人間だったのか?私はこんなに何かをやるために言い訳を必要とした人間なのか?
ああ、将来への不安が私の行動を減速する。しかしそれじゃ駄目だ。俺は社会の一員になるんだ。妖精になりたい?アホじゃねえの?会社員になるんだよ。しかし、本当に何の仕事をしようか…そう考えた時、ハロワで適当にほざいた「芸歴を活かした仕事をやりたい」と言う戯言を思い出しファンタジーしました。ろくでもないですね。適当に言った言葉にすがるなんて選択肢としては一番合うとじゃないですか。アホです。アホの極みです。でも行動するアホとしてなんとかこの状況をよくしないと!やるぞ!

「とりえず…マネージャーを検索するぞ!よし!結構出てくるやんけ!楽勝や!大手事務所も!!」

「30歳まで」

「大卒以上」

「経験者のみ」

アカーン!!全部あかんやんけ!でも言いたい事もわかる。とりあえず冷やかしでも良いから送ってみるか!この超大手事務所に送ってみるぞ!マネージャー!俺の事務所のマネージャーはストレスと付き合い酒で肝臓と腎臓一つが駄目になった伝説のマネージャーだ!俺はその人を尊敬していた!だったら俺は腎臓二つぶっ壊してやる!…やめとけ!!!死んでしまう!うるせー!死なばもろとも!ナニワトモアレ!そう言えばあの漫画、俺の実家近くが舞台だったな。まさか漫画で深井駅近辺とか見るなんて思わなかった。送信じゃ!!お!メールかえってきよった!「募集サンキュー!ウェブ選考するから待ってな!」ええやんけ!自動返信!素晴らしい!コーラでも飲むか!とりあえず動いたしな!!コーラ美味しい!黒い!シュワシュワしてる!あれ?またメールが着ているぞ。どういう事かしら?

「ごめん、君無理。がんばれよ!祈ってるぞ!」

ギャアアアアアアアアア!早い!早すぎる!これが学歴フィルター!?職歴フィルター!?そして人生初めてのお祈りメール!インターネットで見た!インターネットで見た!インターギャラクティカ!ライセンストゥーイル!サボタージュ!ツーエムシーアンドワンディージェイ!アハハ!妖精さんが踊っているよ~?今日の晩御飯は何かな~?ハローポンチャックマスター!ごきげんいかが?私妖精の「妖精川☆志☆次郎右衛門」よ!志は「サカン」って読んでね!おっす次郎右衛門!オイラはポンチャックマスター!万物の根源さ!オリジンオブシンメトリー!!!!

落ち着こう。

まず一つ、そう、大卒じゃないしな。そして経験者でも無いし、悲しい事にペーパードライバーだ。それでマネージャーをやるなんてどう言う了見って話しだね?謝ろうか?形の上だけでも?甘えるんじゃない!!!!!しかし未経験OKで学歴不問ってだけで何か条件が悪そうだったり、ネットで社名を検索したらヤバイ情報しか出てこないってどう言う事なのか?そうだ、事務所を辞める時に取締役から「困った事あったらなんでも相談しろ」と言ってもらえたな。するってえと就職の斡旋も?いや、そうじゃない。そうじゃない。まずはこの就活を、就活を経験しよう。そうする事で芸の肥やしにもなるってもんだ。そうだ、もう、もう芸は必要ないのか。今必要なのは社会経験と学歴だ。どうしたらいい?もう31歳だ。ここからどう言う風にして学歴と社会経験をなんとかしたら良いんだ?そして経験者のみOKって所が多すぎる。芸能人としての経験は社会人経験にならんのか?ならんだろうなあ。結構遊んでたしなあ。でも礼儀とかの部分では結構自信はあるし、仕事とかに関しても芝居での頭の使い方をそのまま使ったメソッドでそこそこの成績を出す事が出来るで。

それはそれ、まずは何をやりたいのかを考えよう…そして俺が出来る事だ。そうだ、俺は人に物を教えるのが強烈に上手い。「役者やめてこっち来いよ。絶対モノにしてやるよ」と演出家の先生にマジで言われた。あの時は「この人ホモだし、ホモセックスの誘いなのか?」と勘ぐってしまったが、今思うとマジな誘いだったのか。しまったクソー!今から電話してケツと引き換えに何か仕事紹介してもらえないかなあ。だから駄目だって!就活や!楽な方に流れるのはたやすくて中々のクール人生がお待ちかねタイムかもしれないけど、その先にはミンチ製造機が待っていて心も体も口では言えないけど口で咀嚼はしやすくなるテンションにチェンジンググローリーしてしまうじゃないか。やめなさい。

教える仕事…そうだ、私は専門学校出身です。専門学校の時は先生方にお世話になっていました。悩める若者としていろんな相談をし、上京してからも地元に帰る時は顔を出して色んな事を報告していました。先生は嬉しそうに東京での生活を聞いてくれて、在校生に紹介までしてくれました。そして私は後輩たちに東京での生活の事や業界の事を伝えてある種の道作りを楽しんでいる部分がありました。その流れでそこそこ可愛い後輩と不道徳な性行為も楽しみましたがギャラ替わりって事で一つ許してちょんまげマーチ。そうか、専門学校の教務員。これなら資格とか関係ないし、最近は声優専門学校も多いしどこかしら受かるだろう。とりあえずマイナビ内を「声優」で検索や!うおおおお、結構出てきよるじゃないか!素晴らしい!でもなんで不動産屋が出てくるんや!お前は違う!専門学校もありました。そこにはこんな一文がありました「社会人経験3年以上」

!?

なんだこれは、なんだこの微妙な書き方は社会人経験って事は就労経験と同意なの?でも僕は声優だよ?そう、彼らが目指すべき位置に居た人間だよ?だったら社会人よりも私たちの方が有利に決まっているじゃないか。オッケーオッケー。
私はとりあえずウェブ履歴書を送りました。志望動機欄にはもう暑苦しい位の熱意を書き付けて送りました。4社送ってみました。そこまでしたのだからどこか一つ位は面接に行けるだろう。私が専門学生時代の教務員は「仕事辞めてインドネシア放浪して帰ってきてから何となくこの仕事応募したら受かったんだよね」とか「養成所行ってたけど、俺は役者向いてねえって思ったから応募したら受かった」と聞いています。そんな人でも受かるのです。だったら一度プロになった私が落ちる道理はナッシングですよ。感じるねえ。ポンチャックパワー感じるねえ。高まってくるねえ。でも…この頃はまだポンチャックマスターじゃなかったなあ。イんだよこまけえ事は!俺はこまけえ事が大嫌いなんだよ~!

そんな気持ちで二日目は終わりました。昼過ぎに起きてメールをチェックすると四通届いていました。送ったところ全てからです。

「ダメ」

「不可」

「ノー」

「頑張れ!」

ぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!
これは駄目だ。駄目な流れだ。おいおいおい、俺は声優だったんだぞ!あなた方が送り込みたい所に居た人間だよ!?そして元専門学生だから専門学生の心もわかるガイなんだよ?なんで落とすかね君ィ!せめて面接で落としてくれよ!

いかん。駄目だ。このままでは駄目だ。落ちるって事は応募出来る所が一つ減るって事だ。だったら少し慎重になろう。ただでさえ募集が少ない職種だ。弾薬を最初に使ってしまった。こうなったら…相談するか…

恩師に…専門学校時代の恩師…「心臓男 軍曹」先生に…

私が最も頼っていて信用している男、それが専門時代にお世話になった心臓男先生です。軍人のような規律を守る精神。厳しさ。そして優しさをもったナイスガイでした。今は東京の学校でまだ教務員をしているとの事で相談をしてみることにしました。

「もしもし、心臓男先生ですか?後藤です」

「おお!後藤か!元気にやってるか!?」

「はい。でも声優は辞めたんです」

「それは事務所の社長から聞いた。残念だったな。しかしこう言う風に連絡をくれると言う事はまだお前の中の海兵隊魂は死んでいないと言う事か!ウワハハハハァー!!!」

「それで就職をしようとしているのですが…少し相談したくて…お時間いただけますか?」

「よかろう!就活は私も殆どした事は無いが人を選ぶ仕事もしてきた!では明日飲酒をしながら語ろう!」

「よろしくお願いします」

持つべきものは人だな。良い人だ。とりあえず一日は考えをまとめて心臓男先生との会に赴きました。新宿の小料理屋。声優も結構使うと評判の美味しい店でした。会うのはもう五年以上ぶりです。それでも私のことを気にかけてくれていて、尚且つ事務所の社長に私の進退まで聞いていてくれた先生にちょっと涙が出るほどありがたいと思う気持ちがスパーキンしました。

「久しぶりだな…まあ飲め。バーボンで良いか?」

「レモンサワーください」

「元気そうで安心したぞ。みんなはどうだ?」

専門学校時代の人間の話しで盛り上がりました。声優を辞めて結婚した水堂、今も劇団で芝居を続けている雛子、心を病んで自殺未遂をしたポム巻、消息不明の笹本…楽しい事ばかりではなく、殆どがハードな話しでしたがまあ笑うしかないよねって感じで大人としてアハハと笑っておきました。上記の人は何者だ?と思われる方は私の名作長編~ばあれすく~を読みましょう。http://www.pixiv.net/novel/show.php?id=5479964

「そして…後藤も就活か…首尾はどうだ?」

「既に五社落ちました」

「なるほど…狙っている仕事はあるのか?」

「先生の前でこういう事を言うのはアレですが…専門学校の教務員になりたいです」

「声優のか?」

「はい」

沈黙が流れました。何かを言おうとして黙っている沈黙です。レモンサワーやホッケの炙りを口に運びながら言葉を待っていました。

「簡潔に言うぞ」

「はい」

「多分成れないぞ」

「はい?」

「細かく言うと「今は」なれないな」

「どうしてでしょう?」

「昔の声優専門学校は適当だった。いい意味でも。そして全員がメチャクチャ熱かった。お前等みたいにな」

「はい。今は?」

「簡単に言うぞ。良いか、後藤、お前は優しいし、本当に生徒を考えて行動するだろう」

「はい、そのつもりです」

「その気持ちをもったまま非情にビジネスの判断が出来るか?」

「!!?!?!?!?」

「良いか、ビジネスなんだ。学校は金の為にあるんだ。もちろんその中でもお前たちをなんとかしたいと思い俺達は動いた。それが海兵隊魂だ。しかし、納得出来無い事も死ぬほどある。学校が決めたら一介の教務員の意見なんかゴミだ」

「…」

「例え話をしよう。二人の生徒が居る。一人は才能にあふれ、すぐにでもプロになれそうな奴だ。しかし全く金がなくて学費が払えない。もう一人は全くのゴミだ。だが金はうなるほど持っている。学校に入れるのは残り一枠。どっちを選ぶか答えろ」

「!?」

「…」

「…」

「…」

沈黙が支配しました。人情とビジネスの話しです。会社としてはそりゃビジネス。わかっています。しかし人情としては…

「即答出来無いか?もちろん取るのは学費を払える方だ。あふれる才能があったとしても無料で入れる事は出来無い。そう言う制度がある学校もあるが、途中でやめたり何かあったらすぐに金を取れる形を作って居る所が多い。俺達は慈善団体じゃないからな」

「そうですよね」

「声優を辞めた人間が何人も俺のところに訪ねてきた。そして後藤と同じ事を俺に聞いてきた。だから言ってやる。声優をやっていた人間を教務で雇うところは無いぞ。少なくとも都内には。それだけ都内は人材にあふれているし、元声優のダメなところも分かり尽くしている。そして都内でなんで声優上がりを雇うんだ?幾らでも現役声優がいるのに」

完璧な意見でした。そうだよ。マジでそうだよ。俺はまだ夢を見ていたのか。俺はまだ甘かったのか。当たり前だ。ビジネスだ。夢の世界からビジネスの世界にいく。それを甘く考えていた。ビジネスの世界で生きる心構えができていなかった。甘かった。甘かったと気がつくのが遅すぎた。

「後藤。本気でなりたかったら地方の専門学校を狙え。しかし…そこにもお前が望む世界があるかわからんぞ…時代は変わったんだ」

「と…言うと…?」

「もう声優業界は飽和状態に近い。しかしビジネスとしては肥大し続けている。こんないびつな需要と供給は無いんだ。マーケットは年々縮小している。しかし志望者は増えている。そして声優は金になるとの気持ちで大型資本が参入してきた。良いか。金を稼ぐには良い地盤が出来た。しかしだ、生徒一人一人を支える地盤はもう無いんだ。お前たちは運が良かった。十年以上前のあの空気、最高だった。誰もが本気だった。金とか関係なかった。あの世界は滅びたんだ。俺も守ることができなかった」

「…」

「良いか後藤。何か一つでも良い。まずは社会人になれ。そこからだ。その後この世界に入ってわがままを通したいなら俺が鍛えてやる」

打ちのめされました。打ちのめされたのです。そう、今の声優専門学校業界は私が入る隙が無いのです。一番雇いたくないタイプだったのです。私を取るのだったら社会人未経験でサバサバっとビジネスで割り切れる人間とりまっせと言う世界だったのです。

何も手につかない。闇だ。就活は思っている以上に闇だった。俺は社会を舐めていた。シビアな世界に居ると思っていたが完璧に舐めていた。このままではマズい。しかしなんとかしないとダメだ。まずは社会の一員に…なるしかない。でもどうやって?

簡単だ。俺は役者なんだ。武器を全て使う。就活はオーディションと同じだ。気に入られた者勝ちだ。だったら気に入られてやる。人間の心をひたすら研究し続けたんだ。やってやるぞ。俺は…意地でも社会人になってやる。

~3に続く~

ウワーー!胃が痛い!思い出したくない記憶ですね。これ、結構面白いでしょう?ほら、ネットメディアの皆様…盛り上げてくださいよ。私、頑張りますので。

※この記事は投げ銭です。何かポンチャックパワーを感じてくださったらよろしくお願いします。

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