懺悔:何故私は「声優やってました」と言い続けたのか~3~

前回のあらすじ:そうや!声優専門学校の先生なったらええやんけ!「元声優なんて雇わねえよ」ガビーン!あたい!現実に殺されちゃう!でもね…戦うんだょ…役者には…役者の武器があるんだょ…https://note.mu/gotoofthedead/n/na7b292be73c5

非情なる現実にノッキンオン心臓されて就活WAYトゥーキルな世界。そこで私は打ちのめされながらも武器を得たのです。

「役者として受けて勝ち取る」

もはや残されたもの、武器はそれしかない。役者として戦い抜いてやる。そうなるとまずは芸歴のカサ増しを始めました。まずは書類面の武力を上げないことにはどうにもなりません。一声入れただけの仕事、オーディションに受かって録音に行ったは良いけど商品として発売された時には声が変わっていた物、それらを全て戦略的に配置していきました。
まずは関わったメーカー名を出す。そうする事で超大手広告代理店、携帯電話メーカー、有名ゲームメーカー等のハッタリとしては最強の装備が整います。俺は今から嘘をつくんじゃない。俺は今から役作りをするんだ。一度は捨てた、一度は裏切った、しかし心の奥底に安置されていた役者ソウルバトルアーマーをもう一度取り出しました。それしか無いからです。それを着ないとどんな攻撃でも致命傷になります。攻撃する時は弱いパンチでも威力を底上げしてくれるバトルアーマーです。しかし着続けていると自分自身がどんどん情けなくなるバトルアーマー、捨てた装備をもう一度付ける。埃を被り、あちこち破れています。そしてそのアーマーを着るには本人の能力値が必要でした。

「俺はまだ騙せるのか?その力が残っているのか?」

残っていたのです。役者を辞めてからも声優仲間やバンド仲間に影響を受けていて、もはや習慣となった役者としての行をひたすらこなしていたのです。脳が、体が、口が、嘘で身を固めていた時代を覚えている。これまでは嘘で自分自身を守り続けてきた。だから今度は嘘で真実を強化して風穴を開けねばならない。出来るのか?出来るのか本当に?社会からしたら俺はクズだ。職歴の無い三十代。それが何の意味がある?仕事が出来るのか?頭は良いのか?何を作り上げてきた?

嘘を積み重ねて作り上げてきたんだよ。自分を売るためのな!

これはオーディションだ!俺は戦う。オーディションの戦いなら分かっている。履歴書や職務経歴書はプロフィールとボイスサンプル、まさにターンテーブル、ミキサーにマイク!竹前裕のライムのような装備。いっこ足りてないがな!それはそれとして良いんだ。俺が最後の一つなのだ。

職務経歴書を埋める。大げさに書く。最近Twitterで流行りの主語を大きくするスタイルで。大丈夫、嘘は言ってない。俺は自分に金をくれる人、可能性がある人には嘘はつかない。それだけは戒律として守る。よし、書けた。うわ、ひでえ。嘘はついてないけどほぼ嘘じゃねえか。簡単に言えば「伊藤忠系列の会社です」と言いながらファミマでバイトしてる感じの職務経歴書になってしまった。大丈夫。相手も人を見るプロが面接をするんだ。だったら見抜くよ。見抜けないならそこまでの会社だし、そうなるって事は俺も入れる会社だ。俺は何か凄く不遜で失礼な事を考えているが、そうでも考えないと心が壊れちゃう!張り裂けちゃう!好きです!心!張り裂けそうな悲愴!!!現実から逃げるなあああああああ!!!!よし!書こう!書いたら心は落ち着くし、おちんちんは膨らんでくるんやで~!おかあちゃんの大好きなおちんちんなんやで~!かかってこい!手加減しろ!!バカ!!!!

よし、書けた。とりあえず俺の武器が一つ完成した。そして武器…武器…そうだ、俺は人より多く文章に触れてきている。それも武器だ。多分転職する人はウェブから送る時とか志望動機とかの部分は若干適当に書いているに違いない。だって適当に書いても経歴や能力があるからな。じゃあ俺はそこを書こう。でも…書けるのかな……俺は文章なんて書いた事が無い…ちょっとした台本ならあるけど…小説とかも書いた事無いし…書けるのか?ええい、書いたらなんとかなる。書くぞ!文章の事は全然わからないけど、とりあえず信じられないくらいに暑苦しく書いて、大量の企業に送るんだから大量に書けば良いんじゃ!コピペ禁止。全部手書き。やるぞ。

今思うと私の文章の雰囲気と速度はこの時に培われたのだと思います。その後、私はとりあえず十社にウェブから送りつけました。自己PR、フリースペース、そこには全部の企業文字数の限界まで書きました。そして一次審査用の作文等があれば全力で暑苦しく、ドラマ仕立てで書くなどしました。そう、ポンチャック文章の始まりなのです。この時はまだ小説的な文章を趣味で書くだなんて思っていませんでした。しかし、まずは就職しなければ飢え死にしてしまう。そのためには頭を振り絞って熱くポンチャックスピリッツ溢れる文章を書かねばなりません。今の基礎、この文章の基礎は就活で企業に送る文章なのです。
だからこそ暑苦しく、そして相手が読む事を考えた文章として形が出来たのです。これだけでも就活をやってよかった。文章をきちんと書き始めたキッカケがこんな感じだとは今さっき「澄みわたる林檎酒」と言う粗末だけどバキバキに美味しいお酒を飲んでいる時に思い出しました。そしてその後の地獄も思い出していたのです。

とりあえず一日使って十社に送りつけました。専門学校を中心にとりあえず気になった企業に送りつけたのです。ドキドキしながらメールチェックを続ける毎日、バイトをしながらも心はそこにあらずと言う感じでした。メールが来た。落ちた。メールが来た。落ちた。メールが来た。落ちた。その連続でした。ここまで落ちるか?ここまで面接まで行けないか?しかし折れない。当たり前なんだ。世間一般で言うところ、俺は十年以上遊んだきた。声優として生きてきたつもりではあるが、そんな職業この世界に無くても誰も困らない。そんな仕事なんて遊んでいるのと同じだ。芸能の人間は社会人が毎日を頑張る為のピエロでいれば良いのだ。遊んできたからだ。負けるかよ。周りの人はみんなもっともっと多くの企業を落ちている。それも大学を出たり、職歴がある人がだ。だったらそれが無い俺は何倍もやらないと駄目だ。そこでやっと普通の人の同等より少し下の惨め猿程度に上がれるのだ。

なんとか気合いだけで生きている内に一通のメールが届きました。

「こんにちは。良いね。面接しようか?日にちを選べ!」

来た。面接だ。それも専門学校。声優は扱っていないが芸能関係の専門学校。職種は教務員、在校生のケアや講師たちのスケジュール合わせや事務一般。来た。来たぞ。これだ。このチャンスを逃しては駄目だ。最初が肝心って言うしな。とりあえず面接は一番早い日にしよう。それしかない。

「履歴書と職務経歴書も持って来てちょんまげ」

ついに、武器の威力を計測する時が来た。もちろん相手は芸能系の専門学校だ。そこがとりあえずあの経歴、元声優と言う経歴で面接してみようって部分を感じてくれたのならまあ、第一関門突破だ。面接、誰がどんな形で面接をするのかわからないけど、会う事さえ出来ればなんとかなる。そう言う教育を十年以上受けてきたからな。

私のテンションは最大限まで高まっていました。戦う。戦う。ついに最初の戦いが始まります。社会人になるための戦いが。

面接の日がやってきました。スーツに身を包み、書類を用意しています。面接で何を聞かれるのか?面接対策は立てませんでした。どうせ用意した答えなんて用意した答えでしかないです。それを用意していないように言うのは簡単にできますが、それは嘘になる。だったらもうそのままで戦おう。

面接の地、某専門学校に来ました。時間10分前、とりあえず受付で名乗ると空いた教室に案内されました。ここが、ここが俺の戦場になるのか。ここでどんな地獄が。圧迫面接とかされたら怖いなあ。マジでどうしよう。僕ちゃんブチキレてしまうかもしれない。いや、ダメだ。社会人になるのだからそんなので切れてはならない。そう、クールに。ソークールに。

「お待たせしました」

あれ?ホームページで見た人が居るぞ。この人は教員じゃない。校長じゃねえか。面接って大抵人事とかなんて言うか最初に誰か他の人が見てから役員面接じゃないの?どう言う事?

「本日は面接の機会をサンキュー。後藤です」

「どうもどうも、まあ座って座って」

「よろしくお願いします」

「じゃあまずは自己紹介してもらおうかな」

とりあえず自己紹介をしました。出た所勝負です。芸能のお陰でこう言うのには慣れていて1分から時間無制限バトルまで対応出来るのです。すごいでしょう。

「…と言う感じです」

「なるほど。いや~、元声優って凄いね。そんな人初めて応募してきたよ」

「恐縮です」

「社会人経験は無いんだよね?」

「そうですね。役ですらホームレスとかニートとかばかりでしたね」

「ガハハハ!筋金入りじゃないか!」

あれ?これは好感触じゃないのか?面接と言うよりは和やかな雑談と言う感じで進んで行きました。仕事に対してどう思う?とか、バイトはどんなのしてきた?とか諸々を聞かれた感じです。

「じゃあ、今度はこっちから質問していくね。うーん。長所と短所は?」

「そうですね…じゃあ、まずは長所ですけど…人にどう見られているかを分かるのと、やはり芸能に関してのパイプは他の人よりあると思います。変わった長所と言うなら…臆病な部分が長所ですね」

「臆病な部分?」

「はい。臆病なのでめちゃくちゃプランを立てるんです。一つのプランから枝分かれさせていって、いくつもの着地点を考えて行動します。声優をしてきたって部分があるかもしれないですが、やはり自分がどんな役作りをしてもディレクターや演出、そしてクライアントの思いは違う事が多いのです。だからこそ、何かを持って行くときは異常な種類を持っていきます。準備は怠らないですね」

「なるほど。でも臆病を長所で言うってめずらしいね。普通、それ短所で言うよね」

「短所って「まだ認識できていない長所」って側面が非常に強いと思うんですよね。例えば諦めが早い人って、言い換えたら切り替えが早いって事じゃないですか。本当の短所は自分で認識しているけどどうしようも出来無い部分だと考えていまして」

「その上で君の短所は?」

「そうですね…同年代より髪が薄いって部分ですね」

「ガハハッハハハハハ!それ、いじって良い部分だったのね?」

「いじるほどの本数も無いですけどね」

「ガハハッハハー!」

これは好感触だ。行ける。行けるぞ。そして面接は和やかな感じで進んで行きました。相手の質問に答えたり、自分のビジョンを言ったり。考え込むときもありますが、それにびびっちゃだめだ。ここで喋っているんだからそりゃ考える時もある。そう自分に言い聞かせて戦いました。面接ももう終わろうかと言う時、校長が最後の質問をしてきました。

「そうだなあ…君を雇う事で得られる当社のメリットは?」

「声優事務所になら数人は必ず所属させられます。あと、職場のハッピー度を上げられます」

「なるほど。じゃあまた結果を連絡するね。今日はありがとうございました」

そうして面接の地を後にしました。これは落ちたとしても納得できる。自分のやるべき事はきちんとやった。言うべきこともきちんと言った。そうだ、決めた。俺は面接で絶対に面接相手を笑わせよう。何も誇れる物が無いとは思っていたが俺には喋ると言う武器がある。その場の空気を感じ取れる武器がある。ならばそれを使うぞ。
以前は忌み嫌う部分もあったバトルアーマーに感謝を伝え、そしてまたこれからもよろしくなとつぶやきました。次は二次面接か…受かっていると嬉しいな…

二日後メールが来ました。二次面接です。今度は他の職員たちも居る中での面接です。指定日にまた学校に行き、そしてドアを開けると面接官が校長を含め四人いました。また一次面接と同じような感じで和やかな感じでした。その時、一人の面接官が口を開きました。

「後藤さん、私はあなたが好きなんです。あなたみたいな人は珍しい。でも一つだけ気になる。社会人経験が無い事なんです。信用したいけど中々出来無い部分でもある。そこはどうしますか?」

どうしますかって言われても。ここで小指を切断したら信じてくれるの?ないものをどうかしろって困る。困っちゃう。泣いちゃうよ?

「そうですね…それは絶対に感じる部分だと思います。しかし、バイトですが、一つの場所に七年居ました。声優は十年以上です。長く続けてきた物はその位です。だけどその二つがあるから今ここに立たせていただいている。だったら私は忠義を誓いますよ。認めてくれる人には絶対に忠義を貫く」

「ね、彼、良いでしょ。僕も社会人経験無い部分がネックに感じているんだけど…良いんだよね」

校長が皆にそんな事を言ってくれました。どうなるんだ?結果が見えない。どう転ぶ?とりあえずその日は帰宅し、しばらく結果を待っていました。同時期に送った物は全て一次審査で落ちていました。マジでどうなるんだよ。怖い。

そしてメールが届きました。

「お祈りー!」

うぎゃあああああああああああああああああああ!!!!!

マジかよ!?なめとんか!クソが!!!
呪いの言葉を吐いてもしょうがない。どうにもならない。俺の方向は間違えてないし、これしかできない。だったらこれでやる。俺は戦う。やるぞ。次だ次!

~4に続く~

恐ろしい。思い出すのも恐ろしいけど頑張ります。よろしくお願いします。
あと11/16 日曜日のコミティアですが、「え23a」で文章を寄稿した本が領布されます。よろしければよろしく!

※この記事は投げ銭です。何かポンチャックパワーを感じましたらよろしくお願いします。

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