文章組手「東京」3000字

　東京、もう18年ほど住んでいる。故郷の大阪府堺市とは比べ物にならないレベルの過ごしやすさ。しかし、18年前の私は東京にビビっていた。東京に恐怖していた。なぜなら「緊急！歌舞伎町警察24時！」やゲームの「ザ・警察官」を見たりやったりしていたからだ。
　歌舞伎町、東京と言えばアジア一の歓楽街として名が知られる歌舞伎町。龍が如くでも似た感じの名前で出てくる。ヤクザ・犯罪・麻薬。そんなイメージしかなかった。いや、大阪も割とハードコアな店は多いし生まれ育った堺市甲斐町って街は結構すごく、ヤクザと憲法って映画にも出た組の関係の所や古くは難波安組も存在した。そこは小学校1年の終わりに引っ越して平和を絵に描いた街に引っ越したが、今でも頭には残っている。
　小さい時、難波安組の近くの魚屋で買い物をしていた親、井戸端会議をしている親を尻目にボールを蹴りながらうろついていると大人の男性が遊んでくれた。最初は私と二人だったが、何人か増えてボールを蹴り合い遊ぶ。そこに親が迎えにきて大人とバイバイして帰宅。ヤクザ関係のことをネットで調べたりしているうちにあの時のことを親に聞いてみたら「覚えてないけどあの魚屋の近くなら確実にヤクザやで」と聞いた。
　裏ではヤバイことをしているのだろうが、子供だったので気がつくこともなく、相手も近所のガキに暴力することもなく、厄介さには気が付かなかった。テレビで見るヤクザとは全く違っていた。

　警察24時はすごかった。歌舞伎町というさほど広くない街でありとあらゆる犯罪。銃撃事件まで発生する。子供・少年・青年を大阪で過ごし、テレビで東京のヤバさを知った。東京isハードコア。あ！僕がやっている「カリー・ザ・ハードコア」の宣伝じゃにゃいよ。。。？そう、東京=犯罪。この公式が成り立ってしまっていたのだ。声優になるために上京する時も親に「犯罪に巻き込まれないように」と言われた。やはりそんな街なのだ。妙な薬物も溢れている街。そんな東京に物件を探すために専門学校で同じクラスだったNと深夜バスで上京した。
　花の都大東京。東京駅八重洲口バス停に到着した私とN。出発した梅田駅も大きな駅だが格が違う。とりあえず有名な駅入り口がみたいと目指すが超迷う。そして感動。TVで、TVでみたやつだ！！初めての東京を味わったあと、大阪人二人は目をつけた物件を扱う不動産屋がある池袋を目指す。さあ、今から山手線に乗る。こち亀などをはじめ、色んなメディアにも取り上げられ大都会の足として活躍する山手線。大阪にも環状線という似た物がある。東京を感じる。ホームで待っていたところ、近くに立っていた女性が倒れた。我々は「え！？」と顔を見合わせると周りの人が介抱に走る。良かった、俺が知っている東京と違ってここには人の優しさがある。助け合おう。日本。AC。

　そんなこんなで山手線。到着はたしか朝六時半とかだったので山手線を一周して暇をつぶそうと相成る。風景を見ていると凄い。全部都会。大阪と全く違う。どこの駅にもデカいビルなどがあり信じられない数の人間が乗り降りしている。こんなにも多くの人がいる街で我々はやっていけるのかと不安になり、Nに話しかけようとしたがヨダレを垂らしてガン寝していた。こんな胆力がほしい。キャンタマ縮み上がりゼーション発動中の私は大阪の片田舎出身らしく外を眺めているといつの間にか私も寝入った。起きると二時間ほどが過ぎていたので2周はしたのだろう。Nに声をかけ池袋で降りた。

　池袋。不動産屋は池袋東口。とりあえず一番近い出口から出るかと池袋の地を踏みしめると西口だった。田舎者あるある「適当な出口にでる」ムーブである。ぐるりと回り東口、東急ハンズの近くなので向かうが人が多い。東京駅も多くて池袋も多い。ワクワクしながら不動産屋に向かい、色々と相談。狙いを付けていた家は成増駅から徒歩15分。埼玉県は和光市白子。分かる人には分かるが島忠のすぐ近くだ。他にもココス、くるまやラーメンがある。
　2dkで82000円。Nとルームシェアなので一人4万円弱。想像はしていたがめちゃくちゃ高い。いや、東京の相場で言えばお手頃と言えるだろう。しかし、大阪の片田舎では借家でも借りられる値段。これが東京か。話はトントン拍子で進み、そのまま内見に向かうことになった。車で向かう道すがら不動産屋と話をしている。本当は池袋近辺に住みたかったとかと話していると「いやー、男性だから大丈夫とは思いますが治安が良くないっすねー」などという。治安が悪い街、そりゃ大阪にもある。しかし、不動産屋がそんなことを言うレベルの街はあまり知らない。そしてそんな街に来てしまった。
　池袋成増間は車でも数十分。10km程度しか離れていないので田舎の人間からすると余裕で自転車距離。東京は距離の感覚がおかしくなる。駅から15分離れているだけで家賃がグっと下がる。思っている以上に狭いがそんな場所に大阪以上の人が住む。
　内見も終わり契約、そして大阪に戻り学校の卒業式を経て引っ越し。初めてのひとり暮らし。それも東京。家に荷物を置いた私はとりあえず向かった。歌舞伎町に。

　こわああああ！！！どっからどうみてもヤクザやんけ！？キャッチ多すぎる！！外国人キャッチが話かけてくる！！！マッサージを勧められる！！！幼き日に見た、あの恐ろしい歌舞伎町がそのままだった。追い剥ぎのようなキャッチから逃げ、とある病院の横辺りにたどり着くと立ちんぼの群れ。恐れをなして新大久保まで歩くと外国人立ちんぼのお誘い攻撃。これや、これが東京やごっついところやで。そして東京でのアルバイト生活が始まるがそこで起きた東京らしいことを並べよう
・池袋でギャル男がヤバそうな人に拳銃を突きつけられていた
・カラオケルームでの乱パ（清掃時すごいセックス臭かった）
・銃声らしき音が聞こえ、翌日のネットニュースを見たら音が聞こえた所で銃撃事件発生
・飲んでた店の裏で銃を使った殺人事件（痴情のもつれ）
・カラーギャング乱闘
　枚挙にいとまがないとはまさにこれ。東京、TOKYO、頭狂。しかし恐ろしいものでそんな状況にも慣れてくる。びっくりしていたパトカーのサイレンはうるさく感じ、たまに見かけるユニークな人も受け流せるようになる。東京の凄さはどんな異常でも東京という膜に包んで東京と同化することではないか？

　東京と同化すると全ての真新しさが消える。東京のどんな風景を見ても斜に構えるようになる。東京に住んでいるあなた。東京をつまらないと感じたことがありませんか？それは東京の異常性があなたの心を包み込んだ証拠ですよ。そして東京の異常に影響を受けて頭がおかしくなることを耐えていることの証左ですよ。
　こんなひどくて面白い街、飽きるにはまだまだ早い。役者を目指して上京した。そして役者を辞めても東京に住んでいる（厳密には埼玉だが）。この東京、今、大変なことになっているが、どうなっていくのかが非常に気になる。こんな騒動すら東京は取り込んでしまうのか。それとも瓦解するのか。

　今、東京の新宿区にカレーの店を出している。東京に根付き、東京を見守りたい。それがまともでいられる唯一の方法だと感じている。