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インド駐在員 シンガポール 食料買出しの実際(2010年頃)

日本人がインドで生活するにあたり、「僻地ご当地自慢」として食事事情が挙げられることは有名です。現地の料理はあらゆる料理がカレー味(風味)であること、そして、非常に油っぽいこと、重ねてベジタリアンが多いため一般的なマーケットではまともな肉(鶏肉は除く)や魚を買うことが難しいことが我々を悩ませています。調味料や米、味噌、レトルトその他常温品は会社の食料送付制度が大変役に立っております。また、最近では肉魚も現地でも知る人ぞ知るとされるお店に行けば、全く買えないわけではないのも事実です。しかしながら、停電の多いお国柄、鮮度や衛生の観点から、「う~む、大丈夫だろうか」と不安に感じて二の足を踏んでしまいます。このような状況下、シンガポールやバンコックの日系スーパーでの買い出し旅行は我々にとって、日常の食料調達という現実的な目的とともに「欲しい物を現物で選べるありがたさ」を気づかせてくれる娯楽として大変貴重な機会となります。今回はこういった肉、魚を中心とした買い出しについての実際を記したいと思います。
 シンガポールを例にとりますと「明治屋 シンガポール店」というのが、インドなどの駐在者の買い出しニーズを満たす日系スーパー界の殿堂です。まずは、鮮魚コーナーへ。鮭、マグロ、タラ、ブリ、いか、たこ、いくら、あじの干物、さんま、それらが切り身、さくなどになって発砲スチロールに小分けになって陳列されています。しかし、ここで出来合いのすでに小分けになっているものを選ぶのは素人です。鮮魚担当の店員に「このまぐろ、まだ冷凍したままで小分けにしていなものない?それを冷凍のままビニール袋につめてくれ」と図々しく頼むのが通です。なぜなら、飛行機にチェックインするに際して重さだけでなく、できるだけカサをへらしたいからです。一切れずつ発砲スチロールに小分けにされていたのではスペースがもったいないのです。そして、精肉コーナーへ。基本的な考え方は魚と一緒です。解凍するときのことを考えて、一食何グラム消費するのかを綿密に考え、必要な重さ単位で分けてもらう。加藤家では事前に家族会議を開催し、購買方針のおおよそのすり合わせを行った上で事に臨むようにしています。いずれにしても発砲スチロールは排除する。これがポイントです。
 品揃えについては全く文句のない、シンガポールの明治屋ですが一つ難点があります。日本だったらバカバカしくて買い控えてしまうような値段の高さです。肉魚に関して言うと日本のスーパーの1.5倍からものによっては3倍近くします。仮にぼくがシンガポール駐在員であれば、明治屋以外のもっと安いところを探す、ということも考えるのでしょうが、インドから来てそこまでの時間はありません。私はここ2年半の経験からこの難点に対する対処法として「値段を見ない」ことに尽きるという境地に達しました。買い出しのためにわざわざ飛行機に乗ってやってきて、値段が高いからと躊躇して諦め、インドにもどって「あ~、あのブリの切り身買っとけばよかった」などと後悔するのは愚の骨頂だと開き直るのです。
 その次は冷凍食品コーナー。子供の弁当用の品々、及び枝豆、かぼちゃなどの素材系の品々を物色します。最近これはいいと思ったのは「今川焼き」や「鯛焼き」の冷凍です。日本だったら買わないであろうものも思わず手をのばしていまいます。次は嗜好品的なものに移ります。娘もこのころには買い物に飽きてきているので、お菓子コーナーです。日本を離れてあらためて思うのですが、あめにせよ、チョコレートにせよグミキャンディーにせよ、小奇麗でキャラクターなどがプリントされたおしゃれなパッケージに包まれたで毒々しい甘さではない日本のお菓子は、大人の私もわくわくしながら選んでしまいます。娘の学校の外国人友達向けのお土産も日本ブランドのお菓子は鉄板です。空港で買う下手に高級な「舶来的」お菓子よりも小さな子供は日本のお菓子を喜ぶようです。買い物中には娘が「これとこれ買っていい?」などと聞いてくるのですが、この時ばかりは「どっちとも買ってやる。それぞれ5個ずつカートに入れろ」と子供に「大人買い」を促します。(こういう買い方が癖になってしまっては、娘のためにはならないので日本に帰任した時には教育をし直さなければなりません。)
最後に納豆と、ごちそうである卵かけごはんのための玉子を選び、そして、酒屋コーナーで焼酎と日本酒のパックを一本ずつ入れて、買い物が終了です。カート一杯の品々の会計をレジで済ませるわけですが、我々の後ろで並んでいるシンガポール駐在員夫人と思しき方の目は多少冷たく「一体この家族、どんだけの大量買いをしているんだ。」訴えてくる感じがしますが、そんなことは気にしてはいられません。長さが50センチ程度に達したレシートを受け取ると、店員に「シンパック(冷凍/冷蔵宅配パック)にして、空港にデリバリーしてくれ」と頼みます。すると、担当者(時に日本人)がやって来て、帰りのフライトNOとパスポートを提示させられ、手続きが終了です。
 その後、帰印の際にはシンガポール空港の手荷物預かり所でデリバーされたダンボール3個を受け取り、航空会社カウンターでチェックインとなります。ここで注意しなければならないのは、「ダンボールの中にドライアイスが入っていることを悟られてはならない」ということです。少なくとも認めてはなりません。シンガポールでは聞かれたことはありませんが、バンコクの空港で「中身はなんですか」と突然聞かれたことがあります。「子供のおもちゃと勉強道具、本」とつたない英語で答えたのですが、信用されずに疑い続けるので、私は「全く英語がしゃべれない人間に早変わりする作戦」に出て、日本語で「だから、子供のものだって。今までいつもOKだったのに、今日だけ難しいこといわないでよ」と逆切れ気味にまくし立てて相手をあきらめさせ、なんとか事なきを得たという、危ない経験があります。

 そして、チェンナイ空港に着くと税関という、文字通りの関所があります。ここでは忘れてしまいがちな「そもそも肉魚なんて持ち込んではいけない」という常識的ルールは念のためにもしっかり意識すべきです。しかしながら、インド側の関所破りは子供がいれば容易です。カートに密輸品の入ったダンボールを積み、その上に子供をチョコンと座らせて疲れ果てた顔をさせる。という浪花節に訴える作戦です。この状態でナチュラルに税関を通り抜けていくと職員も「子供と一緒ではややこしい物は持ってきてないだろ」という判断がなされるのか、一切声をかけてくることはありません。ことに買い出しにいたっては「かわいい子とは一緒に旅をしろ」と言えます。
 さて、シンガポールやバンコクからの帰印(チェンナイ、バンガロール)の便はたいてい22:00から23:00に到着します。入国審査、チェックイン荷物の受け取り、関所の通り抜けにはそれなりの時間を要し、アパートにたどり着くのはたいてい23:30から24:30。帰宅後は素早くダンボールを開け、食料ストック専用冷凍庫、冷蔵庫に収容し全行程終了です。しかし、ここでも油断はできません。経験から得た教訓の一つに「買い出しは冷蔵庫、冷凍庫の収納にも気を配り、適切な場所に収容するまでが『買い出し』だ」というものがあります。遅くに帰宅して疲れ果て、あまり考えずに生卵を冷蔵庫(ワンドア)の上部の冷気吹き出し口近くに収納してしまい、一夜で生卵は寒さに耐えられず凍死、破損という悲劇によって導かれた教訓です。「危険一杯の移動中はあんなに元気だったのに。なぜ家にたどり着いてから様態が急変したのか!!」としばし絶句しました。あのような悲劇を二度と繰り返してはなりません。

おまけ:2月17日夜にシンガポールから買い出しダンボール二つを携えて帰ってきましたが、夜遅く、冷凍庫に収容して一息ついて寝ましたが、なんと扉が半開きだったようで、それに気づいたのは丸1日後。上の段に入っていた魚は結構ヤバい状態。でも、再冷凍して食べるつもりです。
以上

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