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映画「ラストマイル」感想

※鑑賞後部分はネタバレを含みます


鑑賞前

私はこの映画の公開を本当に心待ちにしていた。
2024年の8月まで何があっても死ねない、と思い、道端を歩く時は常に自動車の気配に気を遣っていたくらいである。

なぜこの映画にここまで期待を寄せていたかと言えば、「アンナチュラル」と「MIU404」の両作品にどハマりしていたからである。
特に上記2作品の何よりも脚本に魅力を感じていた。
要するに野木亜紀子御大の脚本が大好き(でぇすき)なのである。
御大の脚本は各キャラクター達の関係性について、類似と比較の関係が馬鹿にもわかるように作られており、我々馬鹿でも「ドラマで気持ちよくなれるようにね...」という御大の慈悲を感じることができる。
正直、有り難すぎる。

とはいえ、2時間ほどの映画で「アンナチュラル」や「MIU404」ほどの満足感を得られるものだろうか、という疑問はあった。
前述の通り、両ドラマ(の脚本)における魅力の大きな部分を占めるのはキャラクター同士の関係性やその密度・解像度の高さであるため、2時間の「ラストマイル」でそんな掘り下げが果たしてできるのだろうか?という意図での疑問である。

しかし、このような疑問は御大を甚だ舐め腐った不敬極まる発言だということも同時に私は知っている。
なぜなら今年の1月、私は映画「カラオケ行こ!」を10回以上は鑑賞してしまったからだ。
野木亜紀子御大は映画「カラオケ行こ!」の脚本を担当され、あの2時間の中に聡実や狂児、合唱部部員の人柄・関係性をガッツリと詰め込んでおられた。
やはり類似と比較の関係性を用いて描かれたその脚本はあまりにも気持ちよく、あ、薬物を打つ人たちはこういった心持ちなのか、と私の中に些かの理解すら生まれた次第であった。

果たして「ラストマイル」はどのような物語なのだろうか。既にワクワクが止まらない。




鑑賞後※ネタバレあり

「ラストマイル」を観てきた。

Q.すみません、誰ですか?このホラー映画の脚本を書いたのは。
A.御大‼️


と言った感じで、この映画を一文で表すなら、バカデカい「人間の欲」が怖いという話である。

ざっくりな粗筋としては、大手ショッピングサイトの倉庫から発送された荷物が連続して爆発する事件が発生。
倉庫に勤める舟渡エレナと梨本孔は、ブラックフライデーの障害となる爆発事件を阻止するべく奔走。事件の煽りを受けるのは倉庫だけでなく、荷物の配送会社やドライバーたちにも影響は及び...といった感じ。

面白いのかどうか、ということについては、御大の脚本なので中弛みなどもなく当たり前に面白かった。
ただ、「アンナチュラル」や「MIU404」ほど最後を綺麗にスパッと終わらせる作品ではなかったし、上記2作品同様に扱うテーマは重いものの、上記2作品と比べて小気味良い会話の応酬は少ないため、見る人によってはウ...といった心持ちのまま鑑賞を終えることもありそうだと思った。

以下には本作品のホラー要素も含めもう少し詳しく感想を書いていきたい。(大体こういった映画鑑賞のあとの評価点として良かった点・悪かった点を分けて考えるのだろうが、私は御大信者のため全てを好意的な偏見でしか見ることができない。そのため、なんとも読みづらく意図の伝わりにくい文章になってしまうと思う。すみません。)

まず本作のホラー要素について。
最後にスクリーン中にこだまする「what do you want?」が表す通り、本作の元凶はモノを欲する「人間の欲」であり、それを具体化したものが「大手ショッピングサイトの倉庫」なのだと思う。
ブラックフライデーに恐怖し稼働率0を目指して飛び降りた山崎佑、山崎の飛び降りを完全な他人事だとは思えなくなってしまった五十嵐道元、倉庫業務へのストレスから不眠症を抱えカウンセリングを受けながら働く舟渡エレナ、そして倉庫センター長に着任した後虚な目で山崎のロッカーを見つめる梨本孔。
「人間の欲」が蔓延る倉庫で働く人間は、みな多くのものを失っている。
本作が「サスペンスエンタテイメント」を名乗れるのは「人間の欲」が倉庫の形をしているからであり、エイリアンの形をしていたらそれはもうスリラーである。
鑑賞後私の表情は恐怖でビキビキに固まってしまい、伊吹藍の新規供給にメロメロになることも忘れてしまった。御大を許すな。嘘。御大大好き‼️

次に私が御大脚本の旨みだと考えている類似と比較の関係性について。これは今回の映画でもめちゃくちゃ分かりやすく書いてくれていた。
というか、なんなら類似については対「倉庫」、要するに対「人間の欲」という面において、舟渡エレナも梨本孔も山崎佑も五十嵐道元も、前述の通り全員類似関係にある。
「人間の欲」にこれから向き合わなければいけなくなった梨本孔のラストカットは本作一番のホラーシーンだったし、そんな梨本孔に対して舟渡エレナは「人間の欲」からせーので逃げて白い手帳を探しに行った。
映画中盤のcustomer centricについての各々の解釈とは真逆の、全く入れ替わった立ち位置に舟渡エレナと梨本孔がつくことで本作は幕を閉じる。
最初から最後まで、舟渡エレナと梨本孔を各々の比較対象として御大は描きたかったのだろうと感じた。

鑑賞前に若干不安視をしていたキャラクター同士の関係性の掘り下げについては、アンナチュラルやMIU404のようにキャラクター同士の結びつきを描くのではなく、上述の通りキャラクター同士の変容を描いたことが興味深い。
個人的には「欲しいものは何もない」と言っていた梨本孔が「人間の欲」の表れである倉庫センター長となる本作のラストについて、梨本孔のことを考えるとお腹の変な部分がギュッ...としてくる。
梨本孔に誰かまともな職場を斡旋してくれ。

本作では過労という社会問題がメインテーマで取り上げられていたが、これも御大脚本のメインウェポンの一つだと思う。
「MIU404」第5話では外国人技能実習生の問題を取り上げていたし、「アンナチュラル」第4話ではそれこそ過労死問題を取り扱っていた。
「アンナチュラル」第4話のケーキ工場と本作の倉庫は「人間の欲」においてやはり類似関係にあると思う。
一方で、本作をホラー映画にしている要因は「人間の欲」が集合する、という点にあり、ここは「劇場版ってことだし小さなケーキ工場じゃなくて大手ショッピングサイトの倉庫(=「人間の欲」の集合体)を扱っちゃおっかなー‼️」という御大の気概が伺える。御大…。

最後に御大からは離れるが、主題歌についても書いておこう。
言わずと知れた安定の米津玄師先生である。
アンナチュラルを視聴してから「Lemon」を聴くと中堂系の歌にしか聞こえなくなった、という感想が多々聞かれるようになって久しいが、果たして今回の「がらくた」はどうだったのか。
結果は先生の圧勝、もう我々にできることは何もありません、といった感じだった。
実は先生のアルバムをリリース日に既に購入していて、本作の鑑賞前から「がらくた」を鬼リピしていた私であり、一体この歌詞は誰の目線での歌詞なのだろうと予想に予想を重ねていた。
実際映画を見てみると当たるわけのない予想であったが、もうこんなん映画見りゃ一発で誰のことを歌っているのか分かる。
映画を見終わった今、またお腹の変な部分をギュッ...とさせながら「がらくた」を聴いている。
先生は本作の公式サイトで「がらくた」について、「壊れていても構わないんじゃないかという、そういう意味合いを込めて作りました。」と述べている。
すみません、先生の圧勝です、山崎佑と筧まりかのことしか考えられなくなりました、どうもありがとうございました。
キャラクターのことを一旦傍においても、バカデカい「人間の欲」を描いた本作の主題歌のタイトルが「がらくた」というのは、なかなか皮肉な話である。
委託ドライバー佐野親子による本作最後のラストマイル、梨本孔が映画中盤で述べた意味でのcustomer centric、舟渡エレナが探しに行く白い手帳、これらは全てバカデカい「人間の欲」の集合体=倉庫の運営から見ればがらくた以外の何物でもない。
この現代において、欲しいものはかなり簡単に手に入るようになった。
そのような現代において「もはや宝物という言葉は意味をなさない」という文をとあるゲーム内でつい数日前目にしたが、全くその通りだと思う。
宝物という言葉が意味をなさなくなり、モノが届くことが奇跡でなくなった世界で、人間は欲しいモノそのものを探し続けている。
モノを欲することを欲しているのかもしれない。
これらの状態が当たり前になった中で「がらくた」であること、「失くしたもの」が「どこにもなくってもどこにもなかったねと笑」えることはものすごく難しいことだ。
本作を見るまではこの曲の優しさにばかり目が向いていたが、優しいと同時にこんなに皮肉で悲しい部分もあったのかと聴こえ方の違いに驚くばかりである。

最後に
さて、3000文字弱に渡って感想を書いた感想(?)としては、かなり想定外の映画だったな、といったものである。
もっとすっきりとさせる結末の映画を予想していたため、御大への感情がぐちゃぐちゃに入り乱れた状態でこの文章を書き殴った。
毎分御大酷い‼️でも大好き‼️が入れ替わる具合である。

この感想では「アンナチュラル」と「MIU404」のキャラクターたちについてあまり書くことができなかったが、もちろん彼らの動いているところを再び目にできたことはとても嬉しく思った。
六郎と伊吹・志摩コンビが対面したシーンでは心の中でアニメ「新世紀エヴァンゲリオン」最終回ばりに「おめでとう」を連呼していたので許してほしい。

最後にこの素晴らしい映画を作ってくださったすべての方々に感謝して筆を置こうと思う。
素敵な映画をありがとうございました。近いうちに2回目を見に行こうと思います。

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