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2023啓蟄日記

春が駆け足でやってきたので、2月までじくじくと聴いていた曲をすっぱりとやめて、バカがミタカッタ世界「春はあけぼの」を永遠に流しはじめる。急いで毛布を洗い、ストーブと加湿器を片付けた。剥がれていた右足の小指の爪が生え揃った。古いコートを処分した。すこしぼんやりしていて、フライパンの中身を焦がした。いっそ丸焦げにしてしまったほうが救いがあったかもしれぬと思う、ギリギリ食べられる手前という種類の哀しみを知る。春キャベツと新玉は見かけるたびに買う。木蓮、雪柳、連翹なんかが立て続けに満開。沈丁花など追われるように枯れていく。

ある日仕事から疲れて帰ってきたらマンションのドアの前に油虫がいた(名前をいうのも嫌だ)。虫は平気な方だが、これに出くわしたときだけ目からビームが出ないかなと思う、啓蟄。

啓蟄。友達がコーヒー豆をたくさんくれたので、さっそく保温マグにたっぷり淹れて、予定していた作業をすべて放り出して、鴨川へ。途中でドーナツを買い、ドーナツの紙袋を揚々と振って土手を歩いた。花粉とトンビの危険を冒してドーナツを食べていると、見たことのない奇妙な気持ち悪い虫が足元にいるのを見つけた。Googleレンズで調べてみると、ケラと出てくる。(手ーのひらをー太陽にー)これがあの“オケラ”、虫けらのケラか…!と感激。しかし実物はくねる甲虫といった感じで気持ちが悪いうえ、結構な大きさだ。油虫には及ばないが、こちらもとうてい友達にはなれそうにない。まっすぐ突き進んでくるのに対して足を振っても鳴らしても逃げないのは、見えていないのか相当鈍いのか。昵と見ていると石や葉のあいだに潜り込もうとしていて、なるほどモグラかと得心した。
ガサガサと騒がしい音がして目を上げると、対岸の土手の植え込みに中型の獣が突っ込んでいくのが見えた。獣はそのまま土手を駆け降りて川に飛び込み、上流へと追われるようにしてジャブジャブと走り去っていった。鹿だ。山から来たのなら相当な長旅だっただろう。しかも片足を引きずっている。散々な道中だったに違いない。そんな啓蟄。人間も獣も虫もあらゆる生物が鴨川に集う。こうしてわたしもこの日、岸辺の民の一人となった。

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京都での気ままな暮らしを綴っています。日記ですが、毎日書けないので二十四節気ごと、つまり約15日ごとにつけています。それで「二十四節記」と…

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